迷子

Dがスーパーで夕食の材料を探していた時のこと。


彼はこのところ仕事で立て続けに嫌なことがあったせいもあり、内心イライラしながら少しでも安い食材を探していた。

カレーに入れるジャガイモを選び抜き、買い物かごに入れようと手に取った時だった。


横から脚に小さな何かが勢いよくごつっとぶつかり、軽くよろけた。


見下ろすと、3、4歳くらいの子どもが顔を顰めて泣いていた。

うわ、面倒なことになりそう。と思ったがとりあえずDはその子の目線までかがんで尋ねた。


「どうしたの?」

答えず泣きじゃくり続ける。

「迷子?」


答えず泣きじゃくり続ける。


思わずため息が出た。


(何だよ…しょーがねーな、サービスカウンターにでも連れてってやるか。どこだっけ…)

スーパーの見取り図を脳内に思い浮かべ、滅多に利用しないサービスカウンターの場所を思い出そうと努力していると。

「あっ!ここにいたのかぁ、ダメじゃないかフラフラしちゃ」


気の良さそうな小太りの男性が、にこにこしながら子どもに話しかけた。

男性はDと目が合うと「すいませんねぇ」と苦笑しながら会釈をした。

父親か。Dも男性に会釈を返した。

男性は「ほら、帰るぞ」と言うと、しきりに「やーだ!やーだ!」と泣き喚いて足をじたばたさせる子どもを脇に抱えてそそくさと去っていった。


良かった〜巻き込まれなくて…

Dは心底思いながら、自分の買い物を再開させた。


会計を終え、食材の詰まったバッグを肩から下げて出口に向かって歩いていると、前方から誰かが大声で「すいません!すいません!」と怒鳴っているのが耳に入ってきた。


クレーマーか?うっせえな。

先日自分のもとに理不尽なクレームをつけてきたあの顧客の憎々しさ満点の顔を思い出して腸が煮えくり返り出した。


顔を上げて声のする方を睨んでみると、1人のやせぎすの男が従業員にこう尋ねているところだった。

「あの、うちの子見ませんでしたか⁉︎目を離した隙にいなくなってしまって!」


男が動揺しながらも従業員に説明した子どもの特徴は、さっきDにぶつかった子によく似ていた。

ついでに、 目の前の男の顔もさっきの子にどことなく似ていた。

そこへきて、Dはようやく先程の小太りの男性があの子どもに全く似ていなかったことに気が付いたそうだ。

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