短絡的短編集
テトラ
カッパ
大学生は今日ものんきである。
どんな学校でも、午後の授業なんていうのは眠たいものだ。特に大学生ともなれば、先生の話を真剣に聞いているのは一番前に座っているメガネ君くらいである。そして、後ろのほうに座った不真面目(一般的)な学生たちは、いつも通り無意味な会話を展開している。
「あー、イライラするー」
「どうした?」
「なんか朝からすげーモヤモヤするんだよ」
「悩み事?いつものんきなお前が珍しいじゃん。ちゃんと朝飯食ったか?」
「一本食ったよ」
「またあれか?昼も食ってたろ。あんな栄養ないものばっかり食ってたら、禿げるぞ」
「うるせぇ、好きなもん食って何が悪い。お前は俺の母親かよ。あと頭を上から見るな!」
「ならば、恋の病ですか?」
「いや、そういうのじゃないんだ」
「めんどくさい奴だな。この俺様になんでも相談しろよ。彼女とうまくいってないのか?」
「知ってるくせによく言うよ。彼女なんていねぇよ」
「だから、生物としての本能が性欲を発散させろと、叫んでるんだろ」
「なるほどね。意外といい線いってるかも」
「君の気持ちなんてすべてお見通しさ♪なぜなら君も僕も同じ仲間だからさ♪」
「気持ち悪いよ。それに性欲とはちょっと違うな。もっと生理的な衝動というか。じれったさというか、焦燥感というか……」
「じゃあこんなのはどうだ?今お前は夢を見ていて、現実の体は尿意を我慢してる。つまり、もうすぐ漏らす。これが、かの有名なおねしょ寸前仮説である」
「なんだそりゃ、聞いたことないよ。でも、その感覚近いかもな」
「お、大正解か?おもらししちゃうのか?」
「でも、トイレなら朝から何回か行ってるぞ」
「もう、事後だったりしてな」
「それはない。普通おねしょって、した瞬間に目覚めるだろ」
「確かにー」
「ところでさ、夢でトイレを我慢してるときに限って、トイレって見つからないよな」
「やっと見つかっても使用中だったりね」
「悔しいな、もう少しでわかりそうなんだけど」
「そういや、俺の兄ちゃんが前に似たようなこと言ってたな。何かわからないけど、何かしないと気が済まないって」
「それだ!まさにそんな感じ!で、どうしたって?」
「昼寝したら直ったってさ。アホか、と思ったね」
「そっかー、俺も寝てみるわ。出席カード出しといて。あとノートよろしく」
「おう、俺様に任せなさい!って、もう寝てるし」
……………………
とんと昔のことじゃった。
ある山にきれいな小川が流れておってな、そのほとりにある洞窟に一匹のカッパが住んでおった。カッパは毎日毎日何をするでもなく、ぼんやりと過ごしておったとさ。腹が減れば小川の岩魚なんかを取って食い、眠くなったら洞窟の寝床で寝て、それはそれはだらだらと過ごしておったそうな。そしてたまには悪さでもしようかと、そこらの畑から大好物の胡瓜を盗んだりもした。じゃが、それも大した数じゃあなかったので、村人もカッパのことはほとんど気にしておらんかった。
ある朝のことじゃ。と言ってもまだ外は暗くての、お月さんが煌々と河原を照らしておった。茅を敷き詰めた寝床でグーグーいびきをかいて寝ておったカッパは、ふと目が覚めたそうな。大きなあくびを一つすると、目ヤニだらけの目をこすってから、頭を掻いた。そして、あることに気が付いたんじゃ。
「おや、頭の皿が乾いとるぞ。コリャ、まずい」
カッパはのそのそと洞窟から這い出て行くと、いつも河原に置いてある茶碗に小川の水をくんで頭の皿にかけ始めた。一杯、また一杯と気持ちよさそうに水をかけていく。あまりの気持ちよさに目は細くなり、口は半開き、体は小刻みに震えて、その全部にお月さんの光がやさしく降りそそいでおった。頭のお皿が満足したカッパは、お月さんを見上げてぼんやりしとる。しばらくすると「あぁ、お月さんもまだ寝ていてええよ、と言っとるなぁ」と一人ごちて、またのそのそと洞窟の寝床に戻って行ったとさ。
……………………
「おい、そろそろ起きろよ。授業終わったぞ」
「んー、よく寝た」
「まったく。で、気分はどう?」
「なんかよくわかんないけど、スゲーすっきりした」
「そりゃ、よかったな」
「寝ればいいって、教えてくれてサンキューな。お前の兄ちゃん天才だわ。兄ちゃんにもお礼言っといて」
「どいつもこいつも、ダメだこりゃ」
「そういえば、さっきの授業どうだった?」
「民俗学の先生が妖怪の話してた」
「へー、おもしろそー」
「興味ないだろ」
「バレたか」
「当たり前だ」
「しゃー、今日の授業全て終わり!晩飯は俺の大好物山盛りサラダにするぞー!」
「朝昼に食ったのに、まだ食うのか。お前本当に好きだな」
こうして午後の授業も無事に終わり、学生はサークルや帰宅と散っていく。
大学生は今日ものんきである。(どんとはらえ)
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