にのまえ

第1話 日常生活の出来事

高校二年のころの話である。

朝、眠たい体を起こしていつも通り、朝食を取っていつも通り

チャイムと同時に登校した。

普通の学校生活を送り、普通に退屈な日々を過ごしているが

この学校は他とは少し違った点が一つある。

それは『加藤咲』の存在だった。

ひとつ年上の先輩だが常に学年トップで全国模試も上位に入り、

部活動においても陸上で二度、インターハイ選手として出場の経歴がある。

クラスでは『咲様』と崇められていて男女共に一番人気の先輩として

この学校中にその名は知れ渡っていた。

しかし、自分には彼女はターミネーターにしか見えなかった。

直接の面識はなかったが廊下や食堂に行くたびに何度か見かけたのだが

彼女からは何かを取り繕っているかのような感覚を覚え、それ以来、

彼女にはあまり近づかないでおこうとした。


そんな加藤咲には年下の妹がいる。同じクラスの加藤桜だ。

見た目は地味で成績も目立たず、スポーツも

運動音痴と加藤咲とは正反対な妹だ。

一年の頃は『加藤咲の妹』として周りから根拠のない期待をされていたが、

彼女の実力が顕になると周りからは次第に人がいなくなっていった。

傍観者として見ていた俺は学校の看板を背負った姉の妹は

苦労するんだなと思った。

別段、彼女を擁護するわけではないが勝手に期待して勝手に失望する生徒に対して

「自分は期待されるものを持っているのか?」と言いたくなる。


高校二年の青春時代も半分が終わり、クラスでは各委員会を決める季節がやっていた。

俺のクラスも例外でなく、誰かが手を挙げては誰も手を挙げない反対意見を

確認してはひたすら黒板に誰かの名前を書き連ねていく作業が行われていた。

一方、俺はいうと睡魔という大敵と戦い、惨敗を期していた。

その間にも各委員が着々と決まり、惨敗から立ち直る頃には

全ての各役員が決まっていた。

寝ぼけた目をこすりながら徐々にピントの合っていく視界の中で

黒板を見つめているとひとつの委員のところで目が止まった。

目を細めて改めて黒板を凝視するとそこには

『図書委員/松下明・加藤桜』

と書かれてあった。突然、理不尽な決定に対して

先生に抗議を申し立てたが会議中の居眠りに揚げ足を取られ、

言い分は見事に却下された。



こうして彼女と強制的に半年間、付き合う羽目になってしまった。

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