第十一話『ひょっこり くまのすけ』

そう、この『手回し充電ラジオ』を持っていたから、ネットが繋がった時点で「無双確定」だったのだ。


「くるくるタイムに入ります!」

と、言いながら僕はカチッとハンドルを引き出して、くるくる回す。一分間に120回、回す必要がある。でも、たったこれを一分間やるだけで、ラジオだったら1時間聞けちゃうのだ。


超素敵。

僕がこれを持ち歩いている理由をご理解いただけただろうか。超便利マシンなのだ。電池切れの概念がなくなる。


「それはなに??」

と、くるくると何かを回すという、珍妙な行動をはじめた僕をじーっと見ているカナデ。


「これをもっていれば、充電切れとは無縁の生活なのだ!」

腕はパンパンになるけどと思いながら言う。

まあ、これでは伝わらないとは思ったので

「魔法を使うための準備みたいなものだよ」

と僕が言った。


「魔法の詠唱みたいなものなのね」

とカナデが言う。あ、そうなのかな?と思った。

その話は今度詳しく聞かせてもらおう。もしかしたら僕も魔法が使えるのかもしれない。魔法使用が血筋に限定されないといいなぁ。


さて、異世界に転生して、ネットがつながったとして、一番の問題は、充電だ。最初に思うのはそういうことだろう。動画とかをどんどん見たりすれば、早ければ1日で電池はなくなってしまうだろう。


「無双期間1日」

みたいな悲しいことになってしまう。

僕はこの『手回し充電ラジオ』を持っていたので、その心配がなかった。これはとてもラッキーだった。


5分の手回しで、30分の待受が可能。

僕のスマホの待受は最大250時間なので41時間回せばフル充電できる・・・うん、フル充電は諦めよう。


あまり知られていないが、画面を暗くしたり、要らない常駐

アプリを消せばかなり電池は節約できる。

ここで生活する分にはこまらないはずだ。


と思いながらシャコシャコ回す僕であった。


「ところで、それずっと気になってたんだけど!」

とカナデが改まって聞いてきた。


「ん?何??」と聞きながらシャコシャコ回す。一分間に120回、つまり一秒に二回、回さないといけない。


「その武器についてる、人形かなり可愛いわね」

と言う。武器は『手回し充電ラジオ』のことだ。


「え?『ひょっこり くまのすけ』のこと??」

と僕が聞く、これは妹がつけた、いま流行っているという、『ちょいぶさアニマル』シリーズの『ひょっこり くまのすけ』のことだ。


「え、これ可愛いかな?」と笑う。

「うん、かわいい。」と顔を赤くする。

普段は活発少女で豪放磊落ないめメージなので、赤い顔をしているカナデはなかなかかわいかった。


「じゃぁ、あげるよ!」

と、ストラップのホールド部分をくっと押して取り外した。


「はい」

と手渡した。


「どこか付けたいとこある?そこを押せば引っ掛けられるよっと」僕が説明すると、荷物につけようとして苦戦するカナデ。


「やって上げるよ!」

と、もう一回受け取って、カナデの荷物につけて上げた。


「どう?」僕が聞く。


「かわいい!」

耳まで真っ赤にして喜ぶカナデ。


君のほうがかわいいよ、と言うか悩んだ。

もちろん、言う勇気はなかったので心の中にしまった。

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