悲恋を装うカドリール

粟花夜鷹

まえがき

01 FOREWORD

 お初にお目にかかります。粟花アワバナ夜鷹ヨタカと申します。

 本日はお忙しいところ拙作をご観覧するためのお時間を頂戴いたしまして誠にありがとうございます。

 しかしいきなりで恐縮ですが、まずはお客様にお聞きしなければならないことがございます。


「あなたはいま、幸せですか?」


 答えが「はい」なら、この物語から離れることをお勧めします。

 「幸せ」なあなたは決して下を見ないが故に、誰のことも理解していない。

 あなたの「幸せ」のために犠牲になった誰かの手によってその日常が壊されるときまで、「幸せ」を謳歌すると良いでしょう。


 答えが「いいえ」でも、この物語から離れることをお勧めします。

 「不幸せ」なあなたは決して上を見ないが故に、誰のことも理解できない。

 あなたの「不幸せ」があなたの心の中にしか存在しない可能性に気づけるときまで、「不幸せ」の海で溺れていれば良いでしょう。


 「どちらでもない」、「そんなこと決められない」と匙を投げてしまった方は、そのやるせない怒りを収めてください。


 この物語は、そんな魂の苦悩に囚われるあなたにこそお送りしたいのですから。


 この世は希望に満ちていると信じてやまないお客様も、浮き世は絶望で溢れていると見下げ果たしているお客様も、もしもご覚悟めされたのであればどうぞこの先へお通りください。


 これより語られるのは、とある少年たちの決意と信義の行く末。

 あるいは、悲哀を纏った者たちが舞い踊る軌跡について。


 ――もしくは、そんな彼らがやがて手に取る、ささやかな救いの物語。

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