最終話 徳島編ボス登場。決戦は祖谷の武家屋敷

「ここ、何度見てもええ眺めじゃ」

「あたし紅葉の時にまた来たぁーい」

「なんか岩の形がもの凄いよな」

「自然の神秘を感じるわね」

「リアル大歩危もなかなかの迫力♪ 来てよかったじぇ」

「私はちょっと恐ろしくも感じるよ」

 みんなは峡谷美豊かな川を楽しそうに見下ろしながら、道の駅大歩危に向かって歩いていると、

「いっぱい来たな。みんなおどろおどろしくて強そうだ」

 前方から近寄ってくる、この地ならではの敵モンスターの姿が計七体。智之のわくわく気分が高まった。

「さすが妖怪の里と呼ばれているだけはありますね。ボスの巣食う近場の敵に相応しいわ」

「大昔の妖怪絵巻風なデザインじゃね。お小遣い、めっちゃ増えそうじゃ」

 鈴帆と千絵実は楽しそうに微笑む。 

「妖怪○ォッチの妖怪さんはかわいいけど、あれはリアル過ぎてすごく怖いよぉぉぉ~」

 鞠音は千絵実にぎゅっとしがみ付いた。

「鞠音、よく見るとそんなに怖くはないよ。私は戦いたくはないから、智之くん達で、なんとかしてね」

 榛乃はちゃっかり智之の背後に逃げる。

「あの閻魔、ボスっぽい風貌だな」

「あわの閻魔は体力90あるけんど見た目ほど強くないじぇ。右から順に鬼うば、あわの閻魔、山じち、蛇殿、狸火、祖谷の河童妖怪エンコ、からす天狗じぇ」

「河童が一番弱そうじゃ。智之お兄さん、最強っぽい閻魔頼むわ」

「了解」

「鞠音さん、狸火は水鉄砲で一蹴出来そうよ」

「あたしは怖いから戦わなーい」

 鞠音は榛乃の背後に隠れた。

「あらら。鞠音さんわたし以上の戦力なのに」

 鈴帆、智之、千絵実はさっそく立ち向かっていく。

「姫殿、これから剣山へドライブ行かぬか?」

「お兄さん、イケメンに化けてもワタシは誘惑出来へんじょ」

千絵実は顔を大蛇からイケメンの若殿に化けさせデートに誘って来た、背丈一七〇センチほどの丁髷に袴姿な蛇殿をカッターで切り付け、すかさずマッチ火を投げ苦戦することなく退治。

「やはり風も弱点のようね。もう、服溶かして来ないで下さいっ! エッチな火ね」

宙をゆらゆら漂う狸火は、鈴帆が扇子でパタパタ仰ぐと次第に消滅。ブラとショーツが少し露になり一部焦げてしまった服もたちまち元に戻った。

「斧攻撃も余裕でよけられたし、思ったより弱かったじょ」

 千絵実は次に立ち向かった鬼うばには手裏剣を三枚投げつけて消滅させた。

「千絵実様、後ろ危ないじぇ」

 直後に藍香から警告。

「きゃんっ。もう、このエロ河童ちゃん。尻子玉抜こうとしたんか?」

 千絵実は水玉ショーツをずるりと脱ぎ下ろされたが、河童をあっさり掴んで地面に叩きつける。これにて河童も消滅した。

「棍棒攻撃けっこう強いな」

 智之は、あわの閻魔に腹部などを殴られ大きなダメージを食らわされるも、攻撃の手をやめず見事勝利。

「きゃぁぁぁっ、あの、助けて下さい」

 鈴帆は背丈三メートル以上はあるだろう山じちに扇子で攻撃しようとしたところ、片手で持ち上げられてしまう。

「この爺ちゃん、やけに嬉しそうじゃね」

 千絵実はバットとカッター、

「エロ妖怪だな」

智之は竹刀で立ち向かっていく。

「きゃっ、からす天狗が襲って来たぁ~」

「ぎゃあああっ、こっちくるぅ! 智之お兄ちゃん助けてぇぇぇーっ!」

 その間に榛乃と鞠音の方へ羽ばたいて襲いかかろうとする、からす天狗。

「千絵実ちゃん、山じち頼んだ」

「了解じゃ」

「こら、待て」

 間一髪のところで追いついて智之は竹刀を思いっ切りすばやく振って羽にダメージを与える。会心の一撃が決まったか、あっさり消滅。

「ありがとう智之くん」

「智之お兄ちゃん、ありがとう」

 榛乃と鞠音は嬉し涙をぽろりと流す。

「二人とも無事でよかったよ」

 智之はちょっぴり照れくさがった。

「山じちも退治したじょ。攻撃のスピード遅いし楽勝じゃった」

 千絵実は嬉しそうに伝えてくる。

「胸、めちゃくちゃ揉まれちゃいました」

 鈴帆はしょんぼりした気分だ。

 ともあれようやく全滅。

「道の駅で売ってるリアルなやつよりも美味いな」

智之は妖怪達が残していった、焼け石のように真っ赤な激辛団子を食して体力を全快させた。

「智之様達、お見事じゃったじぇ」

 見守っていた藍香はパチパチ握手する。

「千円札四枚も増えとるし、また妖怪と戦いたいじょ。もっと来んかなぁ」

 千絵実は周囲をきょろきょろ見渡す。

「妖怪怖ぁい。早く大歩危から出よう」

 鞠音は苦虫を噛み潰したような顔で、びくびくしながら大歩危駅へ戻ろうと来た道を急ぎ足で引き返していく。

「きゃあっ、びしょびしょになっちゃった」

 するとどこからともなく現れた新たな敵モンスターにお顔を攻撃されてしまった。

「これ、あたしが倒したーい」

 あの部分からの放水を直撃された鞠音は笑ってしまう。

 妖怪ではなく、小便小僧がモンスター化したものだったのだ。尚も放水しながら空中をぐるぐる飛び回っていた。

「ひゃぁんっ! ダメだよ、イタズラしちゃ。勢いすごい」

 榛乃も顔にぶっかけられてしまい、堪らず和傘を広げて防御した。

「風呂ノ谷のやつがモンスター化したものなんだろうけど、ここでも出るんだな」

「空飛んで自由に移動出来るけんね。祖谷の小便小僧くんの体力は75。放水攻撃と頭突きは強烈じぇ」

「飛び道具の方が良さそうだね」 

 鞠音は祖谷の小便小僧くんに手裏剣を投げつける。

 直撃はしたがまだ倒せず。

「小便小僧、嬉しそうに笑いよるね」

 千絵実がバットであの部分を思いっ切り攻撃すると、祖谷の小便小僧くんは涙目に変わった。放水もぴたりと止まる。

「見た目通り硬い敵ね。まだ消えないわ」

 鈴帆は背中を扇子で、

「おっと、危ねっ」

 智之は竹刀で頭突きをかまして来た祖谷の小便小僧くんのお顔を容赦なくぶっ叩いた。

まだ消えず。

「防御力めちゃくちゃ高い敵だね」

鞠音が生クリームと水鉄砲をぶっかけ、ようやく消滅した。

 みんな大歩危駅へ向かってさらに歩き進んでいると、

「ぐわっ! 川から何か飛び出て来たぞ」

 智之は突如何者かに顔と足を直撃された。 

「魚じゃ。アユと、アマゴかな?」

「その通りじぇ千絵実様。祖谷のアユ・アマゴ。ゲーム上でもセットで襲ってくるじぇ」

「大歩危・小歩危みたいじゃね」

 千絵実はにっこり微笑む。

「ちなみに体力はアユが52、アマゴが55。小遣い稼ぎ用の雑魚じぇ」

「陸に上がった生きてるお魚は、ビチビチ跳ね回るから雑魚でも怖い」

 榛乃は智之の背後に隠れる。

「榛乃お姉ちゃん、お魚で怖がっちゃダメだよ」

 鞠音は楽しそうにヨーヨーで体長五〇センチほどのアユの方を攻撃し、見事一撃で消滅させた。

「こいつもリアルのより巨大化しよるね。記念に魚拓にしたろうかな?」

 千絵実は残った体長七〇センチほどのアマゴに黒インクを投げつけて、真っ黒にした。

「ぐはっ、仕返しされたじょ」

 アマゴはダメージは食らってないようで、千絵実の顔面に体当たりを食らわした。

 千絵実の顔も真っ黒になってしまう。

「塩焼きにして囲炉裏で味わいたいですね」

 鈴帆がマッチ火を投げつけて、消滅させた。

「大歩危の敵モンスター、なかなか戦いがいがあるじょ」

インクの汚れも同時に消え、千絵実は満足げだ。

「きゃっ、きゃあああああああっ!」

 榛乃の甲高い悲鳴。今しがた、蓑を纏った背丈一メートルに満たないお爺ちゃんのお顔をした赤ん坊型妖怪に背後からしがみ付かれたのだ。

「やっぱり出たか、児啼爺」

「エロそうな見た目通りエロ爺じゃね。大歩危駅に飾っとる木彫りのにそっくりじゃ」

 智之と千絵実は嬉しそうにする。

「鞠音様、この妖怪は平気みたいじゃね」

「うん、平気だよ。面白いお顔してるもん」

 鞠音はにっこり笑顔で言う。

「わし、おっぱいの大きな娘さんが大好きじゃ。オギャアアアアアッ!」

「やめて、やめてぇぇぇ~。重くなって来たぁ」

児啼爺はうるさく耳障りな泣き声を上げながら尚も榛乃の胸を揉み続ける。

「児啼爺は体力76。雑魚に格下げされたいうても祖谷の妖怪では最強クラスを誇るじぇ。捕まえられたらはよ倒さんと、伝承通りどんどん重くなって押し潰されるじぇ」

「このエロ爺妖怪めっ。離れろっ!」

 智之は竹刀ですみやかに児啼爺の背中を攻撃。

「児啼爺、これでもくらえーっ!」

 続いて鞠音が水鉄砲と生クリームを食らわした。

「冷たいぞよ。オギャアアアアアアアアッ! オギャアアアアアアアアッ!」

 児啼爺は大きな泣き声を上げてたちまち消滅する。

「ありがとう鞠音、智之くん」

 解放された榛乃がホッとした直後、

「「「「オギャアアアッ!」」」」

「うおわっ!」

「きゃぁんっ!」

「ひゃぅっ! やめて下さい」

「うひゃっ! まだおったんか。予想以上に素早いじょ。ゃんもう。ほんまエッチな妖怪じゃわ」

「わしの仲間の敵討ちぞよ。こいつらを倒してしまえば、あの女子を邪魔されず独り占め出来るぞよ」

「このショートの賢そうなお嬢ちゃんもなかなか良い揉み心地じゃな」

「わしはこのぺたんこのお嬢ちゃんも好きじゃ♪ 孫娘に欲しいぞよ」

「ここにおる女子の中で一番ブスなボサボサ髪のお嬢ちゃんも、肉付きはええのう」

「ブスとは失礼じょ」

 智之、鞠音、鈴帆、千絵実も新たに現れた児啼爺、計四体に背後からしがみ付かれた。両腕もがっちり固められ身動きを封じられてしまう。

「ぐわあああっ、重いっ!」  

 智之は苦しそうにそう呟くや前のめりに倒れ込む。石像に変化した児啼爺に馬乗りされる形となった。

「重い、重ぉ~い」

「もう耐えれんじょ」

「早く離れて下さぁーい」

 鞠音達三人も踏ん張ってはいたが今にも倒れそうになっていた。

「これはやばいじぇ」

 藍香は焦り気味に呟く。

「このままじゃみんなやられちゃう! こうなったら一か八か」

 榛乃は慌ててヴァイオリンでベートーヴェンの『トルコ行進曲』を演奏し始めた。

 やはり酷い音色が周囲に響き渡る。

「耳が腐りそうじゃ」

「なんじゃこの曲は? オギャアアアッ」

「山じちの叫びよりも不快ぞよ」

「もうやめてくれぇ~。オギャアアアッ! オギャアアアアアッ!」

 児啼爺は四体とも、すぐに智之達の体から離れて猛スピードで退散してくれた。

「お見事じぇ、榛乃様」

 藍香は爽やか笑顔でパチパチ拍手する。

「榛乃ちゃん、よくやった!」

「さすが榛乃お姉さんじゃ」

「榛乃お姉ちゃんの武器は最強だね」

「榛乃さん大貢献でしたね。榛乃さんがいなければわたし達全滅でしたよ」

「なんか、ショックだけど、みんな助かってよかったよ」

 大賞賛された榛乃は、複雑な心境に駆られつつもホッと一安心する。

       ☆

その後は敵に遭遇することなくJR大歩危駅前へ戻れたみんなは、しばらくしてやって来た路線バスに乗車した。


二十五分ほどで到着した、かずら橋付近は大勢の観光客で賑わっていた。

シラクチカズラで編まれた幅二メートル、長さ四十五メートル、川面からの高さは十四メートル、国の重要有形民俗文化財にも指定されているそんな知る人ぞ知る吊り橋だ。

「皆様、渡れば経験値が上がるじぇ」

「そうでなくても渡るつもりだったじょ」

「あたしも渡るぅ。これスリルあってめちゃくちゃ楽しいよね」

「わたしも渡りますよ」

「俺は、いいや」

「私もいいよ」

「智之お兄さん、男らしくないじょ。あそこ見てみぃ。幼稚園児くらいの子ぉでも堂々と渡りよるじょ」

「……しょうがない、渡るか」

「智之くんが渡るなら、私も渡るよ。智之くん、こけそうになったら後ろから支えてね」

 結局みんなで渡ることに。

 通行料を支払って千絵実を先頭に鈴帆、藍香、鞠音、榛乃、智之の順に渡り始める。

「みんな、こんな足場の悪い所、よくすいすい進めるね。やっぱり怖いよぉ」

「榛乃ちゃん、肩掴まないで。俺も進めなくなるから」

「智之お兄ちゃん、榛乃お姉ちゃん、後ろの人がつかえちゃうよ。早くぅ」

「鞠音ぇー、揺らさないでぇぇぇー。落ちちゃいそう」

橋の真ん中付近で動けなくなっていた榛乃と智之を見て、ゴール間近の鞠音は笑いながら楽しそうに手すりを揺らす。

ともあれ榛乃も智之もそれから三分ほどかけて無事渡り切ることが出来た。

「私もう二度と渡りたくないよ」

「俺も。レベル上がってもこれは平気にはなれんみたいだな」

「皆様、これでレベルがまた1上がったじぇ」

「ここは、敵全然見かけんね。早く戦いたいじょ」

「一般人が多いけんね。ちょっと外れた所に行けばいっぱいうろついとると思うじぇ」

         ☆

みんなは近くの食堂で昼食を済ませたあと、この周辺の人気の少ない所を散策していると、

「ひゃぁんっ! きゃあああああっ!」

 榛乃が何かに全身に絡み付かれてしまった。

「かずら衛門だ。こいつは身動き封じてくるけん厄介じぇ。体力は97。弱点は他の植物型モンスター同様、炎じぇ」

「見た目通りね。マッチで。きゃっ、きゃぁっ!」

 鈴帆も全身に絡み付かれてしまう。

 かずらの形をしたモンスターだった。

「あーん、私のパンツに蔓(つる)入れないでぇ~」

「いやぁっ、このかずらさん、ぬるっとした樹液出して来たわ。いたくすぐった気持ちいいです」

 数十本に分かれた蔓を自由自在に動かすことが出来ていた。

「こうなったら炎使えないな。俺に任せて」

 智之は巻き付き攻撃に注意しつつ、かずら衛門を竹刀でぶっ叩く。

「一撃じゃ無理か。うぉわっ!」

 攻撃し返され、蔓でバチンッと頬を引っ叩かれた。スパッと切れて血が少し出てくる。

「智之くぅん、早く回復して」

「これくらいノーダメージと同じだよ」

 智之は怯まず竹刀でもう一撃。

 まだ倒せず。

「くらえーっ!」

 鞠音はヨーヨー攻撃を食らわせた。

「十八禁同人誌みたいなことしやがったエロかずら、これでどうじゃっ!」

 千絵実のバット攻撃でもまだ倒せず。

「しぶといな」

 智之が竹刀でもう一発ぶっ叩いてようやく消滅させれた。

「みんな、ありがとう」

「ありがとう、ございます」

 解放された榛乃と鈴帆は息を切らしかなり疲れ切っていた。

「なかなか倒せんかったんは、榛乃様と鈴帆様の体力を吸い取って自身の体力回復させとったからじぇ」

 藍香は得意げに解説する。

「鈴帆お姉ちゃん、榛乃お姉ちゃん、これで回復させてね」

 鞠音は麦だんごを二個ずつ与えて全快させた。

「ここの敵、本当に手強いな」

 あまりダメージのない智之はすだちジュースで全快させることが出来た。

 さらに付近を散策してると、

「うわっ、危ねっ!」

 どこかから槍が飛んで来た。智之は寸でのところでかわし、ダメージ回避。

「ぎゃあああああああっ! ちっ、千絵実お姉ちゃあああああっん」

 鞠音は妖怪もびっくりするような大声で叫び、千絵実の背中にぎゅぅっとしがみ付いた。

「鞠音、あれ、そんなに怖いかな?」

千絵実はにこにこ微笑む。

「怖いよ、怖いよ」

 鞠音はだんだん泣き出しそうな表情に変わっていく。

「あれは確かにめちゃくちゃ怖いよ。夢に出て来そう」

 榛乃は同情してあげる。

「こんな敵まで出るなんて、さすが平家落人伝説が残ってる地なだけはあるわね」

 鈴帆はちょっぴり感心していた。

 みんなの目の前に現れたのは、頭に槍が刺さり鎧を付けた落武者の亡霊だったのだ。

「祖谷落武者亡霊の体力は86。弱点は水じぇ」

「鞠音、倒してあげたら?」

 千絵実は楽しそうに勧める。

「怖い、怖い」

 鞠音はそう言いつつも、勇気を振り絞って千絵実の背後から少し顔を出して狙いを定め、水鉄砲を発射した。

 ぐおおおぉぉぉぉ~。

 祖谷落武者亡霊は苦しそうな叫び声を上げる。

「まだ消えないよぉぉぉ~」

「鞠音様の今の攻撃力なら、もう一発できっと消えるじぇ」

「消えて、消えてぇぇぇ~」

 鞠音は涙目でもう一発発射した。

 ぐわあああああぁぁぁ~。

 祖谷落武者亡霊は断末魔の叫び声を上げ、ついに消滅。祖谷そばかりんとうを残していった。

「怖かったよぅ」

 ぽろりと涙を流す鞠音。

「鞠音、よく頑張ったね」

 榛乃は優しく頭をなでてあげた。

「うわぁっ、おい、やめろっ! あっつぅぅぅ!」

 智之が突如、背後から襲われる。

「智之くぅん!」

 榛乃は深刻そうな面持ちで叫ぶ。

「おう、智之お兄さん緊縛プレーされてるぅ。これは萌えるじょ」

 千絵実は嬉しそうに携帯のカメラに収めた。

「ちっ、千絵実ちゃん、撮るなよ」

 丼から伸びて来たそばの麺で全身絡み付かれたのだ。

「祖谷そば次郎、体力は81。熱々の絡みつき攻撃が得意なんじぇ」

「智之お兄ちゃん、今助けるよ」

 鞠音は遠くから手裏剣で丼側面を攻撃。

 見事命中。

「これは接近し過ぎたらやばいね。かずら衛門で学んだじょ」

 千絵実も手裏剣で丼側面を攻撃した。

「智之さん、お任せ下さい」

 鈴帆はマッチ火を智之に当たらないように投げつけた。

 これにて消滅。祖谷そばの生麺を手に入れた。

「めっちゃダメージ食らってしまった」

 智之も解放される。彼はぶどう饅頭を食して全快させた。

 直後に、

「きゃぁんっ、雉に襲われちゃいましたぁ」

「智之くん、千絵実、鞠音、助けてぇーっ!」

 鈴帆と榛乃の悲鳴。ケェェェン、ケェェェンと鳴き声を上げつつ羽を激しくバタつかせる雉型モンスターに追いかけられていた。

「祖谷雉、体力は79。祖谷の敵では弱い方じぇ」

 藍香はそいつに完全スルーされていた。

「でかいな」

 智之はその敵の姿に驚く。体長二メートルくらいはあったのだ。けれども怯まず竹刀を構えて立ち向かっていく。

「お肉美味しそう」

 鞠音も楽しそうに敵に立ち向かっていった。

「ワタシも戦うじょ。あっ、ちっ、ちっ。上からなんか黄色いのかけられたじょ。これ、ゆず味噌だれじゃ」

 髪の毛からお顔にかけてぶっかけられた千絵実はとっさに木の上を見る。

 そこにいたのは、でこまわしのモンスターだった。体長は一メートルほど。巨大な里芋・こんにゃく・豆腐付きの串を枝に刺すようにして留まっていた。

「でこまわしんのすけ、体力は83。体を高速回転させてゆず味噌だれの散布攻撃してくるけん接近戦は危険じぇ」

「木の上からぶっかけ攻撃してくるなんて秘境だけに卑怯過ぎるじょ」

 千絵実はすばやく手裏剣を投げつけた。

 命中して、でこまわしんのすけは木の上から落っこちる。

「さっきの仕返しじゃ」

 千絵実は今度は黒インクを投げつけ、休まずマッチ火を投げつけて消滅させた。

 ぶっかけられた柚子味噌だれも同時に消滅する。

「千絵実お姉ちゃん、パワーアップしたね」

「一人で圧勝してたな」

 祖谷雉を協力して倒した鞠音と智之は感心する。

「祖谷の敵もそんなに強く感じんじょ。これはボス戦自信沸いて来たじょ」

千絵実が余裕そうな笑顔で呟いた直後、

「おまえら、おいらの存在に気付けないなんて灯台下暗しだな。おいら、おまえらが大歩危であわの閻魔とかと戦ってた時からすぐ近くで見てたんだぜ」

こんな声と共に、木の裏側から白い布のような物体が現れた。

長さは十メートルくらいはあった。

正体は一反木綿だった。

「捕獲成功♪ おいらの仲間達を退治した仕返しだ」

「みんなぁぁぁ、たーすーけーてー」

「離してや。痛いじぇ」

「あの、やめて下さい。離して下さい」

榛乃と藍香と鈴帆はあっという間に強く巻き付けられてしまった。

「おい、一反木綿、よくも榛乃ちゃんと藍香ちゃんと鈴江さんを」

「榛乃お姉ちゃんと藍香お姉ちゃんと鈴帆お姉ちゃんを返せーっ!」

「ワタシ達と戦って欲しいじょ」

 智之達は急いで駆け寄って行くも、

「返して欲しかったら、ここの武家屋敷まで来いよ。ボスの蒲生田岬灯台納言といっしょに楽しみに待ってるぞよ」

 一反木綿はそう伝え、地図が描かれた紙を落として榛乃達を巻きつけたまま空高く舞い上がってしまった。

「離して下さい。怖いです。わたし、高い所苦手なんです」

「みんなーっ、絶対助けに来てねーっ!」

「あなた、鹿児島編の敵モンスターじゃない。徳島編に現れるなんて反則じぇ」

鈴帆と榛乃と藍香は懸命に叫ぶ。

「本来主人公一人で攻略すべき徳島編を、こんな大人数で攻めてくるおまえらの方がよっぽど反則であろう」

 一反木綿はこう主張して、さらに高く舞い上がりスピードを上げた。

「ここからそんなに遠くはない。路線バスですぐに行けるな」

「ワタシますます闘志が湧いて来たじょ」

「姫様の救出劇みたいになるね。急ごう!」

 智之、千絵実、鞠音は最寄りのかずら橋バス停へ向かって走っていく。

 途中、祖谷落武者亡霊三体に行く手を阻むように遭遇してしまった。

「こんなやつらに時間食ってるわけにはいかない。おっと、危ねっ」

 智之は槍をひらりとかわすと、すかさず竹刀で頭をぶっ叩き、一撃で消滅させる。

「鞠音、水鉄砲で一蹴しちゃえ」

 千絵実は攻撃される前に手裏剣を一発投げつけ消滅させた。

「うっ、うん」

 鞠音は怯えつつも狙いを定めて発射。

 今度は一撃で倒すことが出来た。

 智之達はバス停へ向かってまた走り出そうとしたら、

「うぉはっ! 誰だ一体?」

「きゃんっ、くすぐって来やがったじょ」

「ひゃぁんっ、やめて。あたしくすぐられるの苦手なの」

 何者かに背後からしがみ付かれ、わき腹などを激しくくすぐられた。

「見たことない敵じゃ。ひゃぅっ!」

「この赤い髪のちっちゃい女の子、赤シャグマかな? きゃっはははっ、やめてー」

「俺もそうだと思う。言い伝えだと足の裏をくすぐってくるみたいだけど、この赤シャグマは部位関係ないみたいだな。藍香ちゃんいないからどのくらいの強さが分からないけど、風貌的に大したことなさそうだ」

智之は自身をくすぐって来た、背丈一メートル十センチくらい、赤いちゃんちゃんこを身に纏ったおかっぱ頭の妖怪赤シャグマに鮮やかな一本背負いを食らわしたのち、マッチ火を投げつけ一体を消滅させる。

「智之お兄さん、やるねえ。ワタシのも引き離して。振り解こうとしても離れてくれんのじょ。あっひゃ。もうやめて欲しいじょ」

「きゃはははっ、智之お兄ちゃん、あたしのも早くお願ぁい」

「こいつめっ、離れろっ!」

 智之は鞠音をくすぐっている方から両手で引き離してあげ、地面に叩き付けるとすかさず竹刀で攻撃を加えて消滅させる。

 すると、千絵実をくすぐっていた残り一体の赤シャグマは自ら離れてどこかへ走り去ってくれた。

「智之お兄さんの強さにびびったみたいじゃね」

「そのようだな。かなり弱かった」

「智之お兄ちゃん、さすが主人公だね。あたし達の中で最強だよ」

「そうかなぁ? 素早さは千絵実ちゃんと鞠音ちゃんの方が俺より上だと思うけど。うをあっ! 今度は何だ?」

「ひゃっ、地面が盛り上がっとるじょ、きゃんっ」

「きゃあああっ!」

 三人は下から突き上げられる形で弾き飛ばされ、けっこうダメージを受けてしまう。

なんと地面から新たに見る妖怪型の敵が現れたのだ。一つ目で、二本の角とあごひげの生えた鬼っぽかった。手には巨大な鎌を持っていた。

「きっと夜行(やぎょう)さんだな。こんな登場の仕方までする敵もいるとは」

 智之のマッチ火、 

「夜行ちゃん、道路破壊したらあかんじょ」

千絵実の手裏剣、

「あたし達急いでるのにっ!」

鞠音の怒りのヨーヨー攻撃三連発で攻撃の隙を与えず消滅させた。

 壊されたアスファルトも元に戻る。

 それからすぐに、鬼うばが五体襲い掛かって来たものの、

「おう、あっさり倒せたぞ」

「一発で消えるとは思わんかったわ」

「すごく弱く感じるね。あたし達またレベルが上がったんだね」

 智之の竹刀、千絵実のカッター、鞠音のヨーヨー攻撃で、空振りすることなく全種一撃で倒すことが出来た。

 再び走り出した智之達、ほどなくまた行く手を阻まれてしまう。

 背丈四メートル以上はある、柱のようなもので支えられた首長のお爺さん型妖怪だった。

「ノビアガリか。言い伝え通り、見上げるほどでかくなってくな」

 智之が姿を見上げ始めてから十秒足らずで背丈十メートルを超えるくらいまで伸び上がっていた。

「ほなけど攻撃してくる気配無いね」

 千絵実のマッチ火攻撃、

「お顔見えないから怖くないよ」

鞠音は柱っぽい部分へヨーヨー攻撃を食らわす。

「物理的攻撃はして来ない脅かし系の敵みたいだな。体力値と防御力以外はすだちこまちより弱いんじゃないか」

 智之はバットでさらに同じ箇所を攻撃した。

 すると、

「うわっ、危ねっ!」

「倒れて来たじょ」

「きゃあっ!」

 智之達のいる方目掛けて倒れかかって来たのだ。

 十数メートルにまで伸び上がったノビアガリはドシィィィンと地面にうつ伏せに激突したのち、瞬く間に消滅する。

「危なかったぁ。倒したあとに大ダメージ与えてくる自爆系の敵かよ」

「まともに当たってたらやばかったじょ。ワタシ達全滅しちゃってたかも」

「大木みたいなお爺ちゃんだったね」

 智之達はなんとか避けれ、ノーダメージ。

これ以降は敵モンスターに出遭わず、かずら橋バス停へ辿り着くことが出来た。

「バスたった今行ったばかりか。敵にさえ遭ってなけりゃ間に合ったのにな。次の来るのを待つまで走って行った方が速さそうだ。また敵と戦う羽目になりそうだけど」

 智之は時刻表と携帯の時計を照らし合わせる。

 すでに予定時刻を三分ほど過ぎていた。

 しかし、ほどなくバスがやって来たのだ。

「予定より遅れたみたいだな。ちょうどよかった」

「ラッキーじゃ。運が味方したね」

「バス乗ってる間に体力全快させておこう」

智之達が久保行きのバスに乗り込んだ頃、

「痛いじぇ」

「締め付け弱めて、っていうか、離して下さい」

「私、おしっこしたくなっちゃった」

 鈴帆と藍香と榛乃は、武家屋敷内の和室隅でかずらで全身を拘束されていた。

「縛られた少女たちを眺めながら飲むリアル宍喰の寒茶はじつに美味いわね」

「そうですねー、蒲生田岬灯台納言」 

 白塔形で高さは二メートル近くある蒲生田岬大納言と、一反木綿は彼女達のすぐ側で茶を啜っていた。

「きゃっ! パンツ捲って来たよ」

「いやらしいじぇ」

「なんともエッチなかずらさんですね。かずら衛門、こんなに強かったっけ?」

 縛られた三人は必死で振り解こうとするも、なすすべなし。

「こいつは福井県池田町のかずら衛門やけんね。祖谷のかずら衛門よりも五倍は強いんよ。ホホホ、ええ肉がとれそうじゃ」

 蒲生田岬灯台納言はにやりと微笑む。リアル蒲生田岬灯台とは違い、壁面に目と口が付いていて表情を自在に作ることが出来るのだ。

「ぼたん鍋といっしょに煮込むとより美味しくなりそうですね」

 一反木綿も微笑む。

「私達、食べられちゃうの? 私、脂肪と贅肉だらけだからすごく不味いよ」

「わたしも同じく不味いです。ムダ毛も多いですよ。汗臭いですよ。食べないで下さい」

 榛乃と鈴帆の顔が青ざめる。

「榛乃様、鈴帆様。冗談で言うとるんじゃと思うじぇ」

 藍香はにこにこ笑っていたが、やはり恐怖心を感じていた。

「さてと、そろそろ調理を始めましょっか」

「蒲生田岬灯台納言、出刃包丁持って来ましたぜ。まずは一番美味そうな太ももから裂いていきましょうや」

 一反木綿は自身に巻き付けて運んで来た。

「いやぁぁぁ~、やめてぇぇぇーっ!」

 榛乃は恐怖心で目から涙からこぼれ出た。

「本当に、やる気なのですか?」

 鈴帆の表情も引き攣る。

 そんな時、

「みんなーっ、助けに来たよ」

「おっ待たせーっ! ボスバトル、張り切るじょ。おう、蒲生田岬灯台納言、リアルのにそっくりじゃ。大きさは六分の一くらいやけんど」

「みんな無事か?」

 智之達、到着。

「智之くん、鞠音、千絵実。来てくれてよかったぁぁぁ~」

「智之さん、鞠音さん、千絵実さん、わたし達が犠牲になるまでに間に合うと信じていましたよ」

 榛乃と鈴帆は嬉し涙をぽろりと流す。

「智之様、鞠音様、千絵実様。健闘を祈るじぇ」

 藍香はホッとした笑顔で伝えた。

「ホホホ、よく来たわね」

「おまえらに勝てるかな?」

「蒲生田岬灯台、やけにかわいらしい声してるけどこのゲームじゃ女の子設定なのかよ。とにかく、みんなを早く解放してやれ」

 智之は険しい表情で訴える。

「わらわらに勝てたら解放してあげるわ。わらわが出る幕もないと思うんやけんどね」

 蒲生田岬灯台納言が微笑み顔でそう言うや、後ろの襖がガラリと開かれた。

「おまえら、おれっちが片付けてやるぜ」

 そして別の敵モンスターが登場する。

「おう、あなたは昨日の男の娘! 今日は服装もかわいいじょ♪」

 千絵実は満面の笑みを浮かべた。

「根暗っぽい姉ちゃん、昨日はよくもやってくれたな。今日のおれっちは本気モードだぜ。仕返しだぁーっ!」 

 花柄チュニックに水玉ミニスカートを穿いた男の娘姿の六右衛門狸はそう言うや、千絵実に飛びかかり、両おっぱいを服越しに鷲掴みしてくる。

「こっ、こら。おっぱい揉まないで。力抜けちゃうけん」

 予想以上のすばやい動きだったため、千絵実はちょっぴり動揺してしまった。

「それそれそれーっ」

「あぁっん、もうやめて欲しいじょぉ」

 優しく揉まれるごとに、千絵実のお顔はだんだん赤みを増していく。

「おいっ、やめろっ!」

 智之は六右衛門狸の後ろ首襟を掴んで引き離そうとした。

「動き遅過ぎ♪」

 しかし余裕でかわされた。

「きゃんっ!」

 弾みで智之の右手が千絵実の胸に服越しだがしっかり触れてしまう。

「ごっ、ごめん千絵実ちゃん」

 智之は反射的に右手を引っ込めた。

「いや、べつにええじょ」

 千絵実は照れ笑いする。

「みんな頑張れーっ!」

「うち、期待してるじぇ」

「智之さん達なら絶対勝てると信じてますよ」

 榛乃と藍香と鈴帆はきつく縛られて苦しそうにしつつも、温かいエールを送ってくれた。

「お姉ちゃんみたいなお兄ちゃん、くらえっ! フラーッシュッ!」

 鞠音はポケットからデジカメを取り出し、六右衛門狸の写真を撮った。

「ぎゃっ、目がくらんだ。卑怯だぞおまえ」

 怯む六右衛門狸。

「卑怯じゃないもん」

 鞠音は続いて水鉄砲を取出し、六右衛門狸の顔面目掛けて連射。

「うひゃぁぁぁっ!」

 けっこう効いたようだ。

「六右衛門狸、動き鈍ったな」

 智之はすかさず竹刀で六右衛門狸の腹をぶっ叩く。

「いってぇぇぇ。こうなったら……」

 六右衛門狸は本来の姿に戻るや、口から糸を吐き出した。

「ん? うわっ!」

 智之は体中を巻きつけられてしまった。

「どうよ、奥義、狸の糸車♪」

 六右衛門狸は得意げに笑う。

「身動きとれねえ。うわっ」

 智之、体を揺さぶってみたらバランスを崩して地面に転がってしまった。

「智之お兄さん、ワタシがほどくじょ」

「あたしも手伝うぅ」

 千絵実と鞠音は智之の側へ駆け寄っていくが、

「おまえら油断し過ぎ。それぇっ!」

「うわっ、引っかかっちゃった!」

「しまった。油断したじょ」

 六右衛門狸に智之と同じようにされてしまった。二人とももう一歩動こうとしたらバランスを崩し、地面に転がってしまう。

「ホホホ、ええ気味じゃわ」

「これで攻撃し放題だな」 

 蒲生田岬灯台納言と一反木綿はにやりと笑う。

「おれっち、千絵実っていう腐女子っぽい子、ボコボコに痛めつけたい。おれっちに猥褻なことした仕返ししてやるぅっ!」

 六右衛門狸は男の娘姿に戻り、にやにや笑いながら千絵実の方へ近づいていく。

「くっそ、糸さえほどければ」

「ワタシ達、大ピンチになっちゃったじょ」 

「ほどけないよぅーっ」

 智之、千絵実、鞠音。自分で糸をほどこうとするがほどけず。

「智之くぅん、鞠音ぇ、千絵実ぃ。助けてあげられなくてごめんねー」

「うち、何も出来ないのが甚だ悔しいじぇ」

「わたしも同じく」

 榛乃と藍香と鈴帆は心配そうに見守る。

「姉ちゃんのお尻の穴無理やり広げて自然薯プスッて突っ込んでやろうか。ちょうど持ってることだし。それからなわとびの鞭で十発くらい叩こうかな?」

 六右衛門狸はにやにやしながら千絵実の側でしゃがみ込む。

「あーん、屈辱じゃぁ」

 千絵実は頬を火照らせ照れ笑いする。

「そう言いながらやけに嬉しそうにしてるじゃないか。ひょっとして姉ちゃん、マゾ?」

「いやぁ、嬉しくはないって」

「ほんまかよ? 千絵実って子、おれっちは心優しいからお尻に突っ込む前に痛くないようにガマの油を塗ってあげるからね。そうしないと入らないだろうし。ついでに姉ちゃんのアンダーヘアーも観察してあげる。剣山の原生林かな? それとも田井ノ浜海水浴場か? 楽しみ♪ さてと、まず手始めに姉ちゃんのパンツの柄を拝見……あっ、しまった。こんなに縛り付けたらスカート捲れないじゃないか」

 六右衛門狸はそのことにたった今気付いたようだ。

「六右衛門狸ちゃんったら、ドジッ娘じゃね」

 千絵実はくすっと笑った。

「こうなったら、スカートの周りだけ糸外してやるぅっ!」

 六右衛門狸はむきになってスカートポケットから鎌を取り出した。

「きさまの生尻とくと拝見してから、次はそっちのお兄さんの生尻を」

「おーい、俺の尻見たって何も得しないぞ」

 智之は呆れた表情で主張した。

「ワタシも智之お兄さんの生尻見たいじょ! 化け狸の六右衛門ちゃん、ワタシにも見せてね」

「いいぜ。まずおれっちが拝見してからね」

「よっしゃぁ!」

「二人とも、何打ち合わせしてんだよ」

 智之はいらっとした表情を浮かべていた。

「あたしは智之お兄ちゃんのお尻、昨日見たばっかりだよ。いっしょにお風呂入ったもん」

 鞠音はにこにこ顔で伝える。

「鞠音ちゃん、そんなこと伝えなくていいから」

 智之は穴があったら入りたい気分だった。

「羨ましい! どんな感じだった?」

 六右衛門狸は興奮気味に質問する。

「パパのお尻よりは小さかった」

 鞠音はにこにこ顔のまま答えた。

「そっか。まだ成長途中だもんな」

「ワタシが最後に智之お兄さんの生尻見たのは、もう五年以上は前になるかな?」

 千絵実はにやついた表情で呟く。

「おまえら、いい加減にしてくれ」

 智之、ますます居た堪れない気分に陥る。

「姉ちゃんも見たことあるのかよ。ますます許せなくなったぜ。こちらの鞠音っていう女の子はかわいいから、足の裏こちょこちょ攻撃で許してあげるよ」

 六右衛門狸はそう伝えてパチッとウィンクした。

「ええーっ、それは嫌だなぁ」

 鞠音は苦笑い。

「千絵実ってやつ、大人しくしてろっ! 動くと肌までブシュッて切れちゃうよ。この鎌はめっちゃ切れ味良いからね」

 六右衛門狸は千絵実のスカートに接している糸の結び目部分をスパッ、スパッ、スパッと三箇所切る。

「これでスカートずらせる」

 六右衛門狸がにやついた表情でそう呟くや、

「スカートずらせるだけじゃないじょ、六右衛門ちゃん」

 千絵実はガバッと立ち上がった。

「あれ? 今ので全部ほどけちゃった?」

 目を大きく見開き口をあんぐり開けて唖然とする六右衛門狸。

「そうみたいじょ。化け狸ちゃん、やっぱドジッ娘ね」

 千絵実はにっこり微笑む。

「千絵実お姉ちゃん、自由になれたね」

「六右衛門、自滅したな」

 智之と鞠音は安堵の表情を浮かべた。

「こうなったら、実力で」

 六右衛門狸はまた本来の姿に戻り、千絵実に果敢に立ち向かっていく。手をグーにして千絵実のお腹にパンチを食らわそうとしたが、

「ワタシ、昨晩よりはレベル上がってるけんそう上手くはいかんじょ」

 千絵実は余裕で六右衛門狸の体にガバッと抱きついた。

「あれ? なんでそんなに動きいいの?」

「さっきのは演技じゃ。よっと」

「わーん、おーろーしーてー」

 そして両手で抱き上げたのち片手で肩に担ぎ上げ、そのまま鞠音のもとへ。

「鞠音、じっとしててね」

「うん」

もう片方の手で地面に落ちた鎌を拾い、鞠音の体に接している糸の結び目を何箇所か切る。これで鞠音の体は自由になった。

千絵実は同じ要領で智之の体に絡み付いている糸も、

「この格好のままの智之お兄さんもなんか萌えるけん、そのままに」

「こらこら千絵実ちゃん。早く切れって」

「千絵実、智之くんで遊んじゃダメだよ」

「千絵実お姉ちゃん、いじわるしないで早く切ってあげて」

「冗談、冗談。ごめんね智之お兄さん」

 一回躊躇ったがすぐに切って、自由にしてあげた。

「千絵実ちゃん、ありがとな」

「どういたしまして」

「さてと、こいつをなんとかしないとな」

 智之は竹刀を持って、六右衛門狸の側へにじり寄る。

「やめて下さい。おれっち、反省します」

 うるうるした瞳で言われるが、

「許さない」

 智之は容赦なくぽっこりふくれた腹を竹刀でぶっ叩き、消滅させた。

「やったね智之くん」

 榛乃は嬉しそうに微笑んだ。

「やるわね」

 蒲生田岬灯台納言はちょっぴり感心しているようだ。

 六右衛門狸が消えた後には、柄の違う水玉ショーツが二枚残されていた。

「榛乃お姉ちゃん、これ、昨日盗まれたやつでしょ?」

「うん、それだよ。戻って来て良かった♪」

「よかったね榛乃お姉さん。なんか、よだれでべっとりしとるじょ」

 千絵実は手で掴もうとしたが、思わず引っ込めた。

「じゃあ、もういらなーい。捨てといて」

 榛乃は嬉しそうな笑顔から悲しげな表情へと変わった。

「変態狸だな」

 智之は呆れ笑いする。

「あいつはゲームの中でも人間の女によくエロいイタズラしてるぞよ。妖怪のくせに妖怪の女には全く興味ないそうだ。さて、おまえら、次はおいらと勝負だっ!」

 一反木綿は智之達に立ち向かって来た。

「一反木綿なんて所詮布じゃろ?」

「うわっ、しまった」

 千絵実はカッターで一反木綿をズバッと切り付けた。一反木綿の体に切れ目が入る。

「水が弱点なんだよね?」

 鞠音は水鉄砲を命中させた。

「ぬぉぉぉっ」

 一反木綿、ぐっちょり濡れて弱る。

「俺が戦うまでもなく勝てそうだな」

 そんな無様な姿を見て智之はにこっと笑った。

「こいつ、思ったより弱いじょ」

「千絵実お姉ちゃん、いっしょにとどめ刺そう」

 千絵実は黒インク、鞠音はヨーヨーを一反木綿に向けた。

「こうなったら」

 一反木綿は目をきらっと輝かせる。

 するとなんと、

「えっ! 嘘?」

「ありゃ?」

 深刻な事態へ。

鞠音と千絵実はあっという間に石化されてしまったのだ。

「あっ、鞠音ぇっ! 千絵実ぃ!」

「鞠音さん、千絵実さん!」

 榛乃と鈴帆、予想外の光景に思わず叫んだ。

「魔法は、使えないはずじゃ」

 唖然とする智之に、

「これは妖力やけんね」

 蒲生田岬灯台納言は得意げに言う。

「千絵実と鞠音が、石になっちゃったぁぁぁ~」

 榛乃は嘆きの声を漏らし、悲し涙をこぼす。

「心配しないで榛乃様。石化を解く粉を使えば、つまり一反木綿を倒せば、手に入って元に戻せるじぇ」

「本当?」

「はい。一反木綿、徳島編の敵では使って来ん妖力使うなんてますます卑怯じぇ」

「卑怯なのはおまえらの方もだろう」

 一反木綿はフフフッと笑って得意げに反論する。

「なんだ。急に体に異様な疲労感が」

 智之はハァハァ息を切らす。

「おいらの妖力できみの体力吸い取っちゃった♪」

一反木綿は完全復活してしまった。

「そんな技まで使えるのかよ」

 智之は祖谷そばかりんとうと阿波ういろを食して、体力を八割方回復させた。

「おいらじゃ男には石化攻撃は効かんっていう謎設定は納得いかんがのう」

 一反木綿は少しやさぐれた表情で言う。

「ホホホ、わらわとこいつ、坊や一人で倒すしかないんよ。まあ無理じゃろうけど」

 蒲生田岬灯台納言は勝ち誇ったようににこにこ微笑む。

「本気で行くぞっ!」

 智之は怒りに満ちた表情を浮かべ、竹刀を蒲生田岬灯台納言の脇腹めがけてすばやく思いっ切り振りかざす。

「あんっ、いっ、痛ぁい」

 見事直撃し、蒲生田岬灯台納言は甘い声を漏らした。

「智之様、ええ振りじゃね。乗り気なようで嬉しいじぇ」

「みんなを救うために、本気になってくれてるね」

「智之さん、主人公らしい活躍振りですね」

 藍香と榛乃と鈴帆は賞賛する。

「大丈夫か?」

 智之はにっこり笑い、心配してあげた。

「敵に情けをかけるなんて、勇者らしくないわね。これでもくらいなさい坊や」

蒲生田岬灯台納言は上部の四角形な照射灯をピカッと光らせる。

「ぐわっ! とてつもない眩しさだっ! 青色LEDくんの比じゃないぞ」

 智之は目がくらんでしまった。

「ここからは相撲勝負よ。はっけよぉい。のこった!」

 蒲生田岬灯台納言はその隙に智之に寄りかかって体勢を崩させ、馬乗りになった。

「しまった。うっ、動けねえ。重いっ。なんてパワーだ。児啼爺より数段上だな」

「どんどん重くなってくるわよ♪」

「ぐあああああぁぁぁっ!」

 智之は必死に振り解こうとするが、どうにもならず。

「ただいまの決まり手は、寄り倒しだな」

 一反木綿はにこにこ顔で呟いた。

「智之くぅーん、頑張ってー」

「智之様、早くやっつけちゃって。長引くとまずいじぇ」

 榛乃と藍香からそう言われるも、

「そうは言ってもなぁ……」

 智之は何も活路を見い出せなかった。

「それっ、縦四方固よ♪」

 蒲生田岬灯台納言は柔道の技を用いてさらに強く圧し掛かってくる。

「いってててぇーっ!」

 苦しがる智之。

「そろそろ参ったって言った方がええんやないかしら? 坊やの体、一反木綿みたいにぺっちゃんこになっちゃうわよ♪」

 蒲生田岬灯台納言は嘲笑う。

「まだ降参はしない。振り解いてやるっ!」

「智之様ぁ、もう降参しちゃってや。体力が0になっちゃうじぇ」

「智之さん、もう無理はしないで。これはゲームなんだから」

「そういうわけにはいかない。俺は、主人公、だから」

 智之は非常に苦しそうな表情で伝える。蒲生田岬灯台納言を自分の体からなんとか引き離そうと懸命に力を込め続けてみるも、蒲生田岬灯台納言はびくともせず。

「わらわはまだまだ重くなれるんよ」

 蒲生田岬灯台納言はにっこり笑って余裕の表情だ。

「関係ない。俺は、全力を、尽くす、だけだ」

「ほほほ、起き上がれるものなら起き上がってみぃ」

「ぐぁっ、ダメだ。こいつ強過ぎる。くっそ。もう少し、レベルを、上げて、いれば……」

 智之の意識は徐々に薄れゆく。

「智之くぅん、しっかりしてーっ!」

「申し訳ないです智之さん、わたし達は無力でした」

「智之様、今のレベルじゃ百パー勝ち目はないじぇ。降参して、もっとレベルを上げて再チャレンジしましょう」

 榛乃、鈴帆、藍香の三人は涙をぽろりと流しながら伝えた。

「いや、それは……」

 智之は朦朧とした意識の中で懸命に呟く。

「わらわの勝利ってことでオーケイじゃね?」

 蒲生田岬灯台納言は満面の笑みで勝利宣言。

「主人公もまだまだレベルが足りんな」

 一反木綿も嘲笑う。

その直後だった。

驚くべきことが起きた。

「あれ? ワタシ、どうなってたんじゃ?」

「あたし、動けるようになってる!」

 千絵実と鞠音が石化から元の状態へ回復したのだ。

「千絵実、鞠音。よかったぁ!」

「二人とも、戻ってくれてよかったです」

「おう、奇跡が起きたじぇ。あっ、あれ?」

 さらに榛乃、鈴帆、藍香も絡み付いたかずらが解かれ自由の身になった。

「なっ、何ゆえ?」

「そんな、バカな。なぜじゃ?」

 一反木綿と蒲生田岬灯台納言もあっと驚く。

「蒲生田岬灯台納言、軽くなったな」

「きゃんっ! しまった。つい力抜いちゃったわ」

 智之は蒲生田岬灯台納言を突き飛ばし、すっくと立ち上がった。

「智之様も完全復活じゃね」

「智之くん、よかったぁぁぁっ!」

 榛乃は歓喜の叫びを上げ嬉し涙を流した。

「どういうわけか、体力も全快したみたいだ」

 智之は元気溌剌とした声で伝えた。

「なぜなのじゃ?」

 蒲生田岬灯台納言が呆気に取られた様子で呟いた。

 その直後、

「これこれ一反木綿、蒲生田岬灯台納言、何しとんどすか?」

 女性の穏やかそうな声がこだました。

「この声は、舞妓さん様?」

「舞妓さん。なっ、なぜ、ここに?」

一反木綿と蒲生田岬灯台納言はびくーっと反応した。

「ゲームの外に飛び出して、こんな所で油売ってたらあかんどすえ」

 声の主はみんなの目の前についに姿を現す。

「舞妓のお姉ちゃんだぁ!」

「ワタシ生舞妓久し振りに見たじょ。めっちゃ美人やけんど、一反木綿ちゃんと蒲生田岬灯台納言ちゃんのそのびびり方からすると怒ったら相当怖いんじゃろね」

「本物の舞妓さん?」

「このお方も、敵モンスターなのでしょうか?」

 三姉妹と鈴帆は不思議そうにじっと見つめる。

 着物姿、イメージ通り顔や首に白粉が塗られていて、濡れ羽色の髪を花簪で留めた、おふくの髪型。背丈は一五〇センチくらいと小柄で穏やかそうな雰囲気を醸し出していた。

「敵モンスターという設定になっとるえ。あんたら、あての女子力で石化を解除して、かずら衛門も瞬殺しておいたえ。あと智之といわはる男の体力も全回復させておいたえ」

 舞妓さんはおっとりのんびりした京ことばで得意げに伝える。

「そんな能力が使えるとは、相当強い敵モンスターなのでしょうね」

 鈴帆は感服したようだ。

「モンスター化した舞妓さんは京都編の量産型の雑魚敵で、体力は1800以上あるじぇ」

「雑魚で1800越えって! 徳島の次に進むべきステージが、京都じゃないってことは確かだな」

 智之もちょっぴり恐縮してしまう。

「ありゃま? 痺れて動けないんやけんど」

「おいらもだ」

「あてが女子力全開で痺れをかけたからえ。あんたら、今のうちに倒しとき」

 舞妓さんはほんわかした表情で勧めて来た。

「それじゃ、遠慮なく。蒲生田岬灯台納言、覚悟しろっ!」

「いやんっ、いったぁぁぁいっ! もっと優しくしてぇ~」

「それは不可だ」

「ひゃぁんっ、そこはダメェ~。んっ!」

 智之は蒲生田岬灯台納言を竹刀で何度も攻撃しまくる。悶えた表情で色気ある悲鳴を上げるも容赦せず。

「一反木綿、ワタシを石化したお返しじょ」

「一反木綿のおじちゃん、覚悟してね」 

 千絵実は黒インク、鞠音は生クリームと水鉄砲を用いて攻撃する。

「うぎゃっ!」

 真っ黒け、クリーム塗れでふやけてしまった一反木綿に、

「ボスの蒲生田岬灯台納言さんは、主人公の智之さんが一人で倒した方が良さそうですね。わたしが一反木綿さんにとどめを刺すわ」

 鈴帆はマッチ火を投げつけた。

「ぐげぇぇぇ。あっ、ちっ、ちぃっ」

 一反木綿、苦しそうに跳ね回る。

「なんか、かわいそうになって来た」

 心優しい榛乃は同情してあげた。

「もう、やめてくれ。おいら、ゲームの中に戻るから」

「わらわもじゃ。降参じゃ、降参。わらわを痛めつけるのはやめて。お願いじゃ」

 一反木綿と蒲生田岬灯台納言は怯えた様子で懇願してくる。

「ワタシ、もう満足したけんええじょ」

「あたしも許してあげるよ」

「わたしも、許しますよ」

「皆様心優し過ぎるじぇ」

「俺は許したくないけど、これで俺達の勝ちってことでいいな?」

 智之が確認を取ると、

「うむ、わらわらの負けじゃ」

「おいら達の負けでいいよ」

 蒲生田岬灯台納言と一反木綿はあっさり負けを認めた。

「智之様、最後は主人公らしく締めましたね」

 藍香は満面の笑みを浮かべる。

「智之くん、ありがとう。すごく格好良かったよ」

「智之さん、わたし達を救って下さり、誠にありがとうございました」

 榛乃と鈴帆は智之の手をぎゅっと握り締めた。

「いや、べつに当たり前のことをしただけだから。礼なら千絵実ちゃんと鞠音ちゃんと舞妓さんの方に言って」

 智之はかなり照れてしまう。マシュマロのようにふわふわ柔らかい感触が、智之の両手のひらにじかに伝わって来たのだ。

「智之お兄さん照れとる照れとる。ともあれワタシ達の勝ち決定じゃね」

「これでリアルな徳島編クリアだね」

 千絵実と鞠音は満面の笑みを浮かべる。

「あんたら、一反木綿と蒲生田岬灯台納言が多大なご迷惑をおかけして本当にすんまへん。二度とリアル世界に飛び出て悪させんよう、しっかり懲らしめときますので。一反木綿、蒲生田岬灯台納言、みんなに謝りなはれ」

「いっ、て、て、てぇ。ごめん」

「すまんのう」

 舞妓さんはみんなに向かって深々と頭を下げて謝罪。一反木綿と蒲生田岬灯台納言も無理やり下げさせられていた。

「いえいえ。うち全然気にしとらんけん」

 藍香は苦笑いを浮かべる。一反木綿と蒲生田岬灯台納言のことを少しかわいそうに思ったようだ。

「智之といわはるお方、あてら、ゲーム内に帰るから、今から出すテレビにゲーム機を繋いで例のゲームを起動させてくれへんやろか?」

 舞妓さんはそう頼んで畳にぶぶ漬をばら撒くと、四八V型液晶テレビが現れた。

「おう、魔法じゃっ!」

「舞妓のお姉ちゃん、すごぉーいっ!」

 千絵実と鞠音はパチパチ拍手する。

「千絵実という子、これは魔法ではなく女子力なんどすえ」

 舞妓さんはホホホッと笑った。

「あの、俺の部屋のテレビじゃないと、飛び込めないと思いますけど」

「そこはあての女子力で何とかするえ。蒲生田岬灯台納言をゲーム内に戻せば、残る雑魚敵達も皆二、三日中には現実世界から完全消滅して、ゲーム内に戻るようになっとるえ」

「そうなんですか。じゃあ繋げますね」

 智之は準備が整うと藍香が飛び出て来た続きからのデータを選択。藍香のいない茶店内部の画面が映る。

「ほら一反木綿、蒲生田岬灯台納言、帰るえ」

「嫌じゃぁぁぁ~」

「痛いよ舞妓さん様、頬引っ張るなって」

 蒲生田岬灯台納言と一反木綿は舞妓さんに無理やり引き摺られていく。

「あんたら、もっともっとレベルを上げて、ゲーム上でいつかあてに挑んで来なはれ。京都編で待っとるえ」

舞妓さんは微笑み顔でこう言い残し、蒲生田岬灯台納言と一反木綿を掴んだまま画面に入り込んでいく。

「リアル徳島もなかなか居心地よかったわ。リアル蒲生田岬とも対面出来てめっちゃ嬉しかったよ。ゲームの中に帰りたくないんじゃぁぁぁ~」

 蒲生田岬灯台納言は名残惜しそうに捨て台詞を吐いた。

 テレビもその約一秒後に消滅した。畳に付いた黒インクなどの汚れもきれいに消える。

「あの舞妓さん、めっちゃかわいかったじょ。敵モンスターはまだおるってことじゃね。帰りも倒しながら進んで行こう! まだ四時前やし」

「賛成! あたしもまだまだ戦いたぁーいっ!」

「わたしも同じく」

「俺も、もう少し戦い楽しみたい」

「みんなぁ、タクシーここに呼んでなるべく外出歩かないようにして帰ろう」

「ご安心してや榛乃様。皆様の今の力なら徳島編の雑魚敵はどれも楽勝じゃろうけん。あのう、じつは、敵モンスター、うちがわざと飛び出させたんじぇ。皆様にリアルRPGを体験してもらおうと思って。徳島編のろこモンなら、ごく普通のリアル世界の高校生以下の子でも何とか出来るじゃろうと見込んでたんじぇ。それにうち、リアル徳島県も旅したかったし」

 藍香はえへっと笑って唐突に打ち明けた。

「えっ! 本当なの? 藍香ちゃん」

「そうだったのですかっ!」

「藍香お姉ちゃんが仕掛けたんだね」

「藍香ちゃんもなかなかのエンターテイナーじゃね」

「おいおい、俺のせいじゃなかったわけか」

 他のみんなは当然のように面食らったようだ。

「一昨日の夕方に伝えた時は、じつはまだ敵モンスターは飛び出してなかったんじぇ。智之様があの部屋からおらんなってた時にうちが敵モンスターにお願いして、ぐっすり眠っておられた真夜中にこっそり飛び出させたんじぇ」

 藍香はさらにこんな秘密も打ち明け、てへっと笑う。

「電源切ってたのに、出れたのか?」

 智之は驚き顔。

「テレビの電源切られてても、ゲーム機が繋がれてあのゲームが中に入ったままじゃったけんね」

「そうか」

「それもまた不思議な仕組みですね」

「藍香お姉ちゃんは、敵モンスターとお友達なの?」

「一部はそうじぇ」

「藍香ちゃん、また新しい敵、どんどん飛び出させてや。今度はのちの敵からの援助なくワタシ達だけの力でボス倒したいじょ」

「千絵実、私はもう戦いには絶対参加しないよ」

「榛乃お姉さんは今回もほとんど戦ってへんかったやん」

「痛い思いしたくなかったんだもん。結果的に何度もしちゃったけど。私、おトイレ行ってくる」

 先ほどから尿意を感じていた榛乃は、玄関横のトイレに駆け込んだ。

「……えっ! 和式の、ぼっとん!?」

          ※

結局みんなは帰り、脇町のうだつ、ぶどう饅頭。佐那河内村のももいちご型モンスターなどなど、行く時と違うコースを通って新しいろこモンとも出遭い、楽しく戦闘をしながらそれぞれのおウチを目指して進んでいったのだった。

          ☆

 みんなが帰宅したのは午後八時過ぎ。

「リアル徳島土産いっぱい買えてよかったじぇ。ほな智之様、おやすみー。また近いうちに出してや」

「おやすみ藍香ちゃん」

 智之は玄関を抜けると、母に見つからないよう注意して藍香を自室へ連れて行き、あのゲームを起動させて藍香をゲーム内に戻してあげた。

 同じ頃、野々瀬宅では夕食の団欒中。

「徳島県内で多発してる怪奇現象、みんなは遭遇せんかった? 夕方の県内ニュースで特集やってたわよ。今日のお昼過ぎからはだいぶ報告が減ってるみたいだけど」

 母のこんな質問に、

「そんなのがあったの?」

「ワタシ全然知らないじょ」

「あたしもーっ」

 三姉妹は一応知らないふりをしておいた。

「そっか。母さんも目撃してないけど、空飛ぶ鯛を見たとか、大塚国際美術館の絵の中のモナリザが声を出して笑ってたとか、お遍路さんが壁をすり抜けたとか、凶暴な鹿を撃ったら姿が消滅したとか、蒲生田岬灯台が二つ向かい合ってたって目撃情報もあったみたいよ」

     ※      

 翌日の敬老の日、智之と三姉妹は旅の疲れを癒すため、一日中家でゴロゴロしてしっかり休養を取った。

 鈴帆はその日、午前中は徳島市内のゲーム販売店であのゲームを探し回ったが見つからず、午後から母運転の車で神戸まで遠征して、

「やっと見つけたぁっ! 家帰ったらやりまくるよっ!」

「そんなにはしゃぎ回る鈴帆、久し振りに見たわ」

日も暮れて来た頃に一本だけ投売りされていたのをやっと見つけて購入したのだった。

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