真実の瞳

しょうこう

第1話真司の瞳

あの男、少し顔が緩んでいる。嬉しいことがあったのか今からあるのか。


服装は黒のスーツ。見た感じはまだ新品、着慣れている感じもしない。着せらているような印象。


すべての着用物に清潔感とさわやかさを出している。そしてシャツがボタンダウンではない。おそらく就職面接。


強ばっていないことから面接後。緩んでいるのはうまくいったからか、もしくはほぼ決まったようなものなのか。


ん?あの女性…となりの男と楽しそうに話してるように見えるが顔がひきつっている。


つかず離れすぎずで男と一定の距離を保っている。なぜだ?


汗をふいているように見せかけてしきりに鼻をハンカチで抑えているな。

あの男……臭いのか?


?「しんじょ~し~んじ~くん!話聞いてまぁすか!?」


俺が日課である人間観察にふけっていると、横から男のそんな喧しい声が響く。


真「聞いてるって。だから大きな声出すなみつお」


み「お前がまた悪い癖だすからだろ!すぐ上の空になるからなお前は!」


そう言って誰が見てもムスッとして怒っているだろう顔をしているこの男。


春田光陽(はるたこうよう)。俺の幼なじみで唯一の親友。こうようなんてカッコいい名前は似合わないと、俺がみつおと名付けた。


しかしこの男、男の俺から見てもかなりのイケメン。言葉を口に出さなければ……。


み「お前今失礼なこと思っただろ?」


真「なぜわかった?」


み「そこは嘘でも思ってないと言え!」


そう言ってみつおはさらにムスッとし、ふてくされてしまった。


真「もう騒ぐなみつお。上質な珈琲と雰囲気のいい喫茶、さらに心を落ち着かせてくれるジャズが台無しだ。で?話ってなんだ?」


み「……もういいわ。たわいもない話や……」


そう言ってみつおは目の前の珈琲を一口飲む。


み「……あ~うまい。相変わらずおいしい珈琲だね優那ちゃん」


優「ありがとう。光陽くん」


カウンターの向こうでニコッと笑い皿洗いをしているこの女性。


工藤優那(くどうゆうな)。俺たちと同い年の26歳。この喫茶の店長の孫で小柄でふわっとした雰囲気を出している。なんとも曖昧な表現だがそれがしっくりくる。


真「こいつはみつおでいいって。そう呼んだ方がこいつは喜ぶ」


み「別に喜ばんわ!でも全然みつおでもいいからね優那ちゃん」


優「ん~最近知り合ったばかりだし馴れ馴れしいかなって思ってたけど…光陽くんがそれでいいならこれからそう呼ぶね」


その言葉を聞きみつおは嬉しそうにニコニコしている。


完全に優那に惚れてるな。気づく人は気づくだろうが…優那は少し鈍いからおそらく気づいていないだろうな。


み「ホント、真司にこんなかわいい友達がいたなんてなぁ……お前俺まで“その目”で見るの止めろって。なにもかも見透かされそうで気が気じゃないわ」


真「ああ、すまん。まさかお前にそんな性癖があったなんてな」


み「はっ!?勘違いするなよ!俺が好きなのは合法ロリだ」


真「冗談だ。さすがに俺でも表情や仕草で性癖まではわからんよ。で?ロリがどうだって?」


み「……騙された。誰にもカミングアウトしてないのに……」


みつおは机にうなだれる。まさかこいつにこんな性癖があったなんてな。まぁ……だから優那なのか……。


優「ホントに仲良いね2人。なんの話してたの?」


みつおの目からは合法ロリな優那がエプロンを取りながらこちらのテーブルに来る。


み「いやいやなんでもないよ!それよりどうしたの?今日はもう終わり?」


優「そうだよ!おじいちゃんがもうすぐ帰ってくるから、それからは出かけていいよって言ってくれて」


そう言って優那はみつお曰わくキラースマイルを向ける。それを見てみつおは顔を真っ赤にして目をそらす。中学生か。


優「それに今日はもともと真司くんに買い物に付き合ってもらう予定だったから」


み「…………はい?」


優那に釘付けになっていたみつおの視線がバッとこちらに向けられる。


み「ちょっとごめんね優那ちゃん」


そう言って俺の肩を掴み、隅の方に連れられた。


み「どうゆうことだ?なに?君ら付き合ってるの?なんなの?」


真「落ち着けみつお。優那に惚れてるのバレるぞ」


み「そう言ってる時点でバレてるじゃねぇか!いや、もうこの際そんなんどうでもいいわ!」


みつおはいつになく必死な顔だ。よほど優那のことは真剣らしい。


真「安心しろ。俺たちはただ中学の頃から知っているから長い付き合いな友達ってだけだ」


み「ほんとにほんとか?なんの感情もないか?」


真「おかしいなみつお。俺を昔から知ってるお前なら“こんな”俺が誰かと一緒になるのはあり得ないとわかってるはずだぞ?」


み「………すまん。ちょっと考えのない発言だった」


真「いや、いいさ。そこまで真剣なお前を見たこともないから少し嬉しいよ。友達として2人を応援するさ」


少し落ち込んでいる様子だし、たまには柄にもない発言でもしておこう。こいつなら笑うんじゃないかな。


み「…………やっべ、惚れる」


真「気持ち悪いくたばれ」


そう言って俺は優那の元へ戻る。後ろから嗚咽が聞こえる気がするが知らない。


優「みつおくんどうしたの?真司くんが泣かせたの?」


真「すぐ戻るから気にするな。それよりじいさんはまだ帰ってこないのか?」


優「ん~予定ではもう帰ってきていい頃なんだけど……」


カランカランーーーー


その時、店内に今ではあまり聞かないような懐かしい音が鳴り響く。誰かが入ってきた音だ。


?「おお、真司。お前が3日も来なかったから心配したぞ」


真「俺も色々忙しかったんだよじいさん」


店内に入ってきたのはこの喫茶の店長であり、優那の祖父の工藤康幸(くどうやすゆき)だ。

白くふさふさした髪に白く長い髭。誰もが抱く第一印象はプレゼントを届ける赤い服のじいさんだ。


み「おじいさん、外は暑かったでしょう?一旦休憩してはいかがです?私が冷たい飲み物でもお作りしましょう」


康「お、おお……君はいつもいつも丁寧だね。でも大丈夫だよ」


真「じいさんはいつになく引いてるな、こいつに」


みつおはじいさんに対していつもこうだ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。まさにその感じだ。周りから固めて優那を落とす作戦かな。


優「みつおくんはホントに気が利いて優しいね」


真「ホントだな。いつもこうならいいのに」


み「そんなことないよ、ありがとう優那ちゃん」


流された。


じ「優那、留守番ありがとう。今日はもういいぞ」


優「うん!それじゃ甘えさせて貰おうかな」


じ「………優那、何度も言うがお前はもっと自分の時間を大切にしていいんだぞ?平日も仕事の後来て休日も殆ど来てくれてるじゃないか……友達との時間や自分の時間も大切にしなさい?」


それを聞いて優那は首を横に振る。


優「いいの、私が手伝いたいんだから。それに友達とも遊んでるよ。たまに来ないでしょ?それに店にもみんな来てくれるしね」


そう言って俺たちを見る。


優「それに昼間はまだしも夜は忙しいじゃない。1人より2人の方が効率いいし無理もしないでいいでしょ?」


そう言って優那はニコッと笑う。


み「いい子やなぁ………」


真「……じいさん、優那もこう言ってるんだからいいんじゃないか?俺もこの店が好きだしこの店に関われる優那を少し羨ましくも思うぞ?」


しかしどちらの心情もわかっている。だからじいさんの気持ちもわからなくはないんだ。


康「それなら真司、君が店を継いでくれてもいいだろう?」


み「へ?ええぇぇええ!?」


真「だから何度も言っているだろう?俺は客としてこの店に溶け込んでいたいんだ」


横で叫ぶ声を無視し、じいさんにそう言う。

残念。とは言いつつも答えはわかっていたのかそこまで落ち込んでもいない。


康「まあ優那が無理をしていなければいいんだ。ほら、せっかくの休日が逃げていくぞ?時間は止まることはないんだ。楽しんできなさい」


優「あ、そうだね。ゆっくりまわれなくなっちゃう」


真「じゃあ行くか。じいさん、おつりはいらないよ」


康「ちょうどではないか」


真「ジョークだよじいさん。じゃあみつお、またな」


み「えっ?俺帰るの?」


優「また遊びに来てね、みつおくん!」


み「ええええ!?俺マジでのけ者!?」


真、優「冗談だよ」


俺たちのコントめいた会話にじいさんは声を出して笑う。


真「優那、冗談うまくなったな。まさか合わせてくるとは」


優「もう10年以上も真司くんと友達ですから。なんかみつおくんのリアクションも面白いしね。ごめんねみつおくん」


みつおは冗談とわかるとぶすっとしていたが、優那にそう言われ今度はデレデレしている。


康「ホントに仲がいいな。ほれ、ドアの前にいるとお客さんが入れん。さっさと行きなさい」


そう言われ外を見ると、確かにお客さんが入りたそうにしていた。


これ以上はホントに迷惑になるので、軽い挨拶をし喫茶店を出た。




ーーーーーーーーーーーーー


街へ出た俺たちは優那の買い物に付き合った……まあつまりは荷物持ちだ。


優那は日頃休日の殆ど喫茶店にいるため、買いだめや、永く服を買っていないときは一気に服を買うことも多い。


今日はみつおもいるからいつもよりもさらに買う物が多かった気がする。


その荷物を優那のマンションに運び、再び外に出た。


マンションでもみつおが変態のように興奮して俺が沈める場面もあったのだが、そこは割愛。


優「ごめんね2人とも。ついついたくさん買っちゃって」


み「いいんだよ優那ちゃん!あれくらい軽いよ!」


真「俺は少し遠慮願いたい」


そう言うと、尻をみつおに蹴られた。


優「ごめんね。今日もお礼に奢るからさ、ご飯でも食べに行こう?」


そう言えばそろそろ夕方だな。夏が終わり秋とは言え、まだまだ暑い日中の気温も今は少し下がり涼しいくらいになってきた。日の沈み具合から見て今は7時前くらいか?


み「いつも優那ちゃん奢ってくれてるの?」


優「そうだよ。友達とはいえさすがに私の買い物に付き合わせた上に荷物持ちさせて終わりなんて悪いことしないよ。お礼はしないとね」


み「こっちも楽しかったし奢りなんて全然しなくていいよ!な?真司?」


真「いや、俺は……」


み「だからさ、店はちょっと俺に紹介させてよ!すげぇいい雰囲気だし旨い料理だすfoodsbar見つけたんだよ」


また流された。


優「あ、それ行ってみたい!よかったら他の友達にも紹介しようかな!」


み「じゃあ決まり!ちょっと歩くけど行こうか!」


そう言って俺の前を2人はわいわいとはしゃぎながら歩き出す。


なんだ、俺が手引きせずとも仲良くなってるじゃないか。


俺は2人の背中を追うように少し離れて同じペースで歩き出す。


この距離感くらいが心地いい。こいつらは信頼できる友達だが……多分これが俺と2人の心の距離でもある気がする。


俺はなんとなく立ち止まる。すると気づいていない2人はどんどん離れていく。


こんな風にいつかは同じ空間にいられなくなるのだろうか。いや、俺が逃げたくなるのだろうか。


また………拒絶されてしまう前に……。


み「おーい、真司!なにボーッと突っ立ってるんだよ!早く来いよ!」


その声で俺は現実に戻る。そして少し小走りで2人に追いつく。


み「…………お前また余計なこと考えたろ?俺たちといるときは”独り“になるな」


………相変わらず鋭いなこいつ。

こいつは昔からこうゆう時に敏感に反応する。それも心の底から偽り無く心配してくれてるのが疑うまでもなくわかる。


優「どうしたの~?」


少し離れた所から呼ぶ優那の声で俺はみつおから視線を外す。


真「………男同士じゃなく女と見つめ合えよ」


み「は?あ、ああ。俺だって願い下げだ!いやでも優那ちゃんと見つめあうなんてそんな………」


真「誰も優那とは言ってねぇよ」


妄想してるのかもじもじしているみつおを置いて優那の元へと歩みを進める。





ーーーーーーーーーーーーー


しばらく歩くとみつおが不意に立ち止まる。


み「この辺りだったんだけど……こっからどの道に入ったかな」


真「なんだ覚えてないのか」


み「いやぁ友達の結婚式、しかも2次会の後で結構酔っぱらってたからな。あまり詳しく覚えてないんだよ」


真「店の名前はなんだ?」


み「ウッドベースだったかな」



キャアアアアーーーーーー


その時どこからか悲鳴が聞こえてきた。


優「なに?今の悲鳴……」


み「こっちだったな!行ってみよう!」


俺たちは悲鳴の聞こえた方へと走る。


真「あそこだな。女の人が1人地面にへたり込んでいる」


み「あそこ……ウッドベースじゃんか!しかも座り込んでいる人と後ろにいる人はどっちも店員だ」


優「大丈夫ですか!?どうしました!?」


2人の下へ着き、優那はしゃがみ込んでいる女性に話しかける。


すると女性は入り口の開いているウッドベースの中を震えた手で指差す。


優那よりもいち早くその指で指す先を見た俺は、優那が見る前に優那の視界を手で隠す。


そこにはーーー首を吊って息絶えているであろう女性の姿があった。


み「警察に連絡だ!真司、下ろすぞ!」


真「警察はお前の父さんじゃないかみつお。もう優那にお前の携帯から電話させた。吊ってる死体なんか見たくないだろうしな。それにこの人もう手遅れじゃないのか?」


み「いつの間に俺のバッグから!?てかお前こんな時でも冷静だな!」


俺たちは女性を下ろすべくロープの結ばれてる箇所を見る。


梁に結ばれている。2階から梁に乗れるな。


みつおが梁の元へ向かっている間に改めて店内を見回す。


店内は1階と2階で構成されており、吹き抜けになっていて2階はロフトのような感じで入り口側を除く3方に作られている。なんかのRPGに出てきそうな作りだな。


とてもいい雰囲気だ。すべてウォールナット色の木で構成されていてこの感じが好きな人たちにはたまらない雰囲気をだしている。


そんな所で首吊りがあろうとは……とても残念だ。


2階の真ん中から入り口にかけて梁がのびており、その梁の手摺り側で首を吊っていた。


み「もうすぐほどけるぞ!」


真「今更だが脈を触ったら亡くなっていたからおろしても助からないぞ?それに警察くるまで触らない方がいいんじゃないのか?」


み「例え自殺だとしても吊られてる状態は不憫だ!怒られるかもしれないのはわかってるが俺が耐えられない!」


みつおらしい。正義感が人一倍なのは警察の息子だからか?


みつおの想いをくみ、遺体を2人で床におろす。


「店長!店長どうして!?」


床におろすと店員の2人が走ってきて遺体をゆらす。


み「あまり触らないでください。気持ちはわかりますがまずは警察の検視が先です」


なんだ、みつおも意外に冷静じゃないか。


真「この2人を見ててくれ。外にいる優那に状況を聞いてくる」


そう言って外にでる。

優那は入り口の横にある店の物であろうベンチに座って俯いている。


真「おじさんはなんて?」


優「真司くん………みつおくんのお父さんは最初みつおくんじゃないことにびっくりしてたけど、状況を話したらすぐに向かわせるって。お父さんはちょっと遅くなるんだって」


真「そうか。じゃあもうすぐ来るかもな」


優「………私よく見てないけど、やっぱり首吊ってたんだよね?」


真「ああ。すでに亡くなってたよ」


優「自殺なんて……なんで命を粗末にしたのかな?死にたいほど苦しんでたのかな?」


自殺か………。


真「その答えを知っているのは本人だけだ。もう答えは聞けないがな。でも………」


優「でも?」


真「女性の人生は悔いの残るものになったかもしれないな」




ーーーーーーーーーーーーーー


ほどなくして警察が現場にかけつけた。


検視と、第1発見者の店員2人、そして俺たち第2発見者3人への事情聴取が始まった。


福「私は刑事課の福山です。自殺かもしれませんが一応みなさまに事情聴取を行いたいと思います。まずは第1発見者のお2人から」


金「はい……私はここの店員の金山早苗(かねやまさなえ)です」


橋「同じくここの店員の橋口美咲(はしぐちみさき)です」


金「今日は店側の都合で昼も夜も休みにしてまして……ホントはここに今日来る予定ではなかったんです」


福「でしたらなぜここに?」


金山が話している間、橋口は携帯を操作していた。そして画面を福山刑事に見せる。


橋「こんなメールが従業員3人に一斉送信されてて……」


福山刑事は携帯を受け取りその内容を確かめる。


福「疲れました。あなた達従業員に迷惑をかけます、ごめんなさい………か」


み「まるで遺書のようですね」


そう発言したみつおを福山刑事は睨む。発言するなとゆう顔をしてるな。


福「完全に自殺前の遺書のようなものだな。この…あ~店長の………」


橋「柳沢麗奈(やなぎざわれいな)です」


福「………柳沢麗奈さんのことでなにか悩んでいたことなどあなた方は話を聞いたことはないですか?」


金「いえ……毎日楽しそうにしていました。最近彼氏もできて、歳も歳だし結婚も考えてるとか話してくれて………そんな店長だからこうして自殺することが信じられないです」


福「ふむ……結婚も考えていたのなら人生に悩んで自殺に踏み切るとは考えにくいな。もしくはそれすらも偽りで心の底で1人で悩んでたのか……」


橋「それはあるかも。店長はあまり私生活を話す方じゃなかったから……それこそ彼氏のこととか話してくれて珍しいって思ったくらいで」


どうやら1人で抱え込むタイプだったらしい。そうゆう悩みやストレスを外に出せずに鬱になってーーとかはよく聞く話だが……。


福「まだ検視も終わってないし決まりではないが自殺でほぼ決まりだろう」


み「俺たちの聴取はいいんですか?」


福「え?ああ、何か話したいことありますか?この方たちほどあなた達は柳沢麗奈さんと関係してないんでしょ?ただ駆けつけただけならもういいですよ。自殺でしょうし」


そう言って福山刑事は2人を連れて店内へと入っていった。


み「なんだあの態度!ホントに刑事かよ!父ちゃんとはえらい違いだぜ!」


優「それに自殺って言葉……なんかすごく軽く扱ってる気がする」


真「ほぼ毎日のように殺人やれなんやれ、死の現場に関わってるからな。言い方悪いが正直面倒なんだろ。ましてや事件性のない勝手に死を遂げた自殺だ」


み「いや、例えそうだとしても……」


真「だが……この現場を自殺ですませるような仕事しか出来ないようなら正直無能だな」


み・優「えっ?」


俺の言葉に驚いたように2人ともこちらを見る。


み「それってどうゆ………もしかして”あの2人を見た“のか?どちらか犯行を隠して……」


真「いや、それがそうじゃない。あの2人は”俺の目で見て“もシロだ。すべてホントのことらしい」


優「ねぇ……2人はなんの話をしてるの?真司くんの目ってなに?」


ああ、優那には話してなかったな。いや、まだ話したくなかったの間違いか。


み「………すまん真司。まさか話してなかったなとは思わなくて……」


真「いや、いいんだみつお。大丈夫とは思ってたんだが話すきっかけもなくてな。人が死んでるからこう言っては悪いんだが、いい機会だ」


俺はみつおの肩をポンポンっと軽く叩いてから優那の前にたつ。


真「今から言うことはすべて真実だが……これを知ってもなお一緒にいてくれるのも気味悪がって離れるのもよしだ。それを頭に入れて聞いてくれ」


優那がこくっと頷く。


真「率直に言おう。俺は人が何を思っているのかわかるんだ」


優「………へ?あ、そう」


真「……逆になぜこれだけで信じる」


おおざっぱに言っただけなんだが優那の表情は驚きからすぐに理解した時の表情に変わる。


端から見れば全然わからない微妙な表情の違いだが俺にはわかるんだ。


優「ん~、なんか今まであったことを思い出したらもしかしてそうなのかなって。たまに言葉に出してないのになぜか真司くんはわかっていた事とかあるし。それに今だって私の心読んだから信じてると思ってんでしょ?」


真「それでも普通半信半疑から始まるものだ。まあ理解が早いのは助かる。話を戻そう」


真「俺もなにもかもわかるわけではないんだ。その人の表情や仕草や何気ない行動を見てこう思ってる時の、こうゆう感情の時だと……まぁ人の思考の内ではなく外を見てる感じだな」


優「そうなんだ。………え?じゃあ私の今までの思考も!?」


真「普段はあまり注意してみないようにしてるからなんでもわかってるわけではないが……まあ殆どは……すまん」


優「え?え?じゃあ私が真司くんを……嘘……」


………ああ、薄々そのような兆候は見られてたが……ここまでハッキリとわかるのは初めてだな。


ちょっと面倒なことになったな。俺は今の3人の距離感が心地いいのに。


み「なんだ2人して俯いて?ちょっと俺にも教えてくれよ」


真「………なんでもないさ。まあ優那、そうゆうことだ。詳しい事はまた喫茶店でゆっくり話そう。やっと仕事をしてくれる人が来たようだ」


俺たちの前に一台のセダンが止まる。10数年か落ちのクラウン。お気に入りらしい。


「待たせたな。現場はどんな感じだ?」


み「父ちゃん!」


華奢なみつおと違い、体格もよく無精ひげを生やした男よりも漢が似合うであろうこの男性が、みつおの父であり警視庁警部の春田光正(はるたこうせい)だ。


昇級を蹴ってまで現場人間でいたがる正義感溢れる人で、俺も小さな頃からお世話になっていて頭が上がらない。


春「現場は誰が担当してる?」


み「福山ってゆう刑事だ。なんか感じ悪い奴」


春「ああ……あいつか」


なるほど。仲間内でも思うことがあるらしい。


春「それで、やはり自殺だったのか?首吊りと聞いたが……」


み「それがその刑事は自殺だと言っていて俺たちもそう思うんだが……真司の見解は違うらしい」


俺たちは聴取の内容を話す。


春「なるほど……確かにその遺書のようなメールもあり、柳沢麗奈がそうゆうタイプの人なら自殺の可能性が高いが……真司くんは違うと見ているのか?」


真「そうですね。まあとにかく中に入って現場の状況を見てください」


そう言って、俺たちはそうだなと言って中に入る春田警部の後に続く。


福「………ん?ああ、春田警部。わざわざお越しの所悪いのですが、今回は自殺っぽいですよ。関係者の話の柳沢麗奈の人物像からしても間違い無さそうです」


春「……………」


春田警部は福山刑事の言葉を聞いてか聞かずか、横を通り過ぎ柳沢麗奈の遺体の周辺や店内を見回している。


春「………そうだな。自殺と考えるのが普通だが……これは違うと思うぞ福山刑事」


福「はい?なにを言いだすんですか春田警部。それじゃあこれを殺人と言うのですか?」


真「その線が強いってことですよ」


全員の視線は突然発言した俺へと向けられる。


福「なんだ君は?部外者は黙っててくれるか?」


春「まあ待て福山刑事。これは自殺ではないと教えてくれたのは彼なんだ。ちなみに私も同意見だ。まずは彼の話を聞こうじゃないか」


そう言って春田警部は話してくれと言わんばかりに俺にどうぞ、と手のひらを向ける。


真「……一見遺書もあるし首吊りであることから自殺と考える方が普通だと思う。人物像も鬱になってもおかしくない抱え込むタイプらしいしな」


福「わかっているじゃないか。ならどうして違うと………」


真「最後まで話を聞いてください。まずよく現場を見てください。なにか自殺と結びつかないものがありませんか?」


俺の言葉を聞き、全員が辺りを見回す。


真「よく嗅いでください。店内にいい匂いが広がってませんか?」


み「確かに……この匂いはカレーかな?そういやここのカレーはかなり旨かったぞ!」


真「そんなのはどうでもいい。このカレーはいつから煮込んでいるんですか橋口さん」


橋「えっ?えっと……確か昨日はなかったから今日からだと………」


真「そうでしょうね。具材を切った後のまな板や包丁、そしてカレーに入れたであろうスパイスの瓶が出しっぱなしです。自殺をしようとしてる人が明日の仕込みをすると思いますか」


俺の言葉に春田警部以外全員が確かに、と言わんばかりの顔をしている。


真「春田警部、ちょっと………」


俺は春田警部に耳打ちをする。


春「………なるほど。それは一理あるぞ、間違っていない。よくそこまで目がいったな」


そう言って春田警部は遺体のそばに行く。俺の話したそれを確かめているようだ。


福「な、なんですか警部!彼はなんて!?」


真「ちゃんと話しますよ。その前に橋口さんか金山さん、柳沢麗奈さんがメールしたあなた達とは別の3人目の人を呼んでもらえますか?早急に、そして内容を話さず大変なことが起きたとだけ言って」


はい。と、金山が携帯を操作し電話をかける。


金「ちょうど向かってたみたいです。警察が来てたけどなにかあったのかと友人から連絡受けたみたいで。あと10分ほどだそうです」


真「なるほど。じゃあもうひとつ不審な点を言っていたら来る頃でしょうね」


春「真司くん、確かにあったぞ。あの跡は明らかにおかしい」


福「跡?」


真「じゃあみなさん、遺体の所まで移動しましょう。あ、春田警部。ひとつお願いが……」


俺は再び耳打ちをする。


春「わかった。外の者に伝えてからまた中に来るよ。先に全員に説明しててくれ」


そう言って春田警部は外にでる。

そしてその他全員で遺体の側に移動する。


真「ここにも死のうと思っていた人がするには不審な点があります」


その言葉に全員が遺体を見たり周囲を探ったりし始める。


優「………ごめん、ちょっと気分が……」


真「ああ、配慮が足りなかったな。外にいて休んでてくれ」


優「大丈夫。少しだけ端っこの方にいるね」


真「わかった。金山さんも橋口さんも無理はしないでください」


金「私は……大丈夫です!もしもホントに誰かに殺されたのなら……その人絶対に許せない!もし犯人に繋がる手掛かりが見つかるのなら頑張ります!」


橋「私も同じです。従業員みんな、この店と店長が大好きですから!」


嘘じゃないな。表情にひとつのくもりもない。これでこの2人が犯人とゆう線は俺の中じゃ消えた。


ただ……従業員全員かは肯定しかねるけどな。


み「わかった!この首のひっかき傷か?爪で引っ掻いてもがいたような傷がある。首吊って死のうとしてる人がこんなに抵抗するか?」


真「それもひとつある。だが思ったよりも苦しくて無意識に引っ掻いたのかもしれない。少し弱いと思う」


福「…………そうか、これか」


福山刑事の言葉に全員が福山刑事の方を向く。


真「それですね。しっかり仕事をしていればこんなに簡単に見つかる」


俺の言葉に福山刑事は鋭く睨みつける。図星だから何も言えないがな。


真「みなさんロープの結ばれていた箇所に注目してください」


全員の視線がひとつの箇所に向けられる。


み「あ、なんか削れた跡があるな。なにかで強く擦ったような……」


真「そう。あれはきっと柳沢麗奈さんが抵抗した跡だ。自分は死にたくない、生きるために取った行動だ」


橋「店長が………」


真「今は掃除の後なのか机や椅子が店内の端に置いてありますが……よっと」


俺は店の椅子をひとつ拝借し、柳沢麗奈が吊られていたおおよその高さに体を合わせる。


真「柳沢麗奈さんはこの位置あたりで首を吊られていました。よっ、どうです?なんとか精一杯足を伸ばしたら机まで足が届きそうじゃないですか?」


み「確かに……それでなんとか足を届かせようと体を思いっきり揺らした。その時こすれた跡があれか!」


真「そう。でも無念にも……届かなかったんでしょうね。その上首を締められているので抵抗も虚しくすぐに力尽きてしまったんでしょう」


金「そんな……店長!!」


金山はその姿を想像してか泣き出してしまう。橋口も少し涙目だ。


福「しかし……やはり自殺を思いとどまり抵抗しただけじゃないのか?確実に殺人ともっていくには弱いぞ」


真「そうですね。でももう2つほど不可解な点があってそれもお話したいのですが……外が騒がしい。この事件のもう1人の重要人物が来たようですよ。行きましょう」





ーーーーーーーーーーーーー


「なんなんすか!?俺はここの従業員で同僚に大変なことになってるって聞いて来たんですよ!中に入れないってなんでですか!?」


真「春田警部」


春「おお、真司くん。中にいこうとしたらこの男が来てこの有り様だ。ここの従業員の谷佳祐(たにけいすけ)と言うらしい」


谷佳祐は揉めてる警官を避けてこちらへ走ってきた。金山と橋口を見つけたのだろう。


金「谷くん!店長が……ッ!?」


金山が発言する前に手で言葉を遮る。今余計な情報を漏らされては困る。


真「あなたがここの3人目の従業員の方ですね?」


谷「そうだけど……なあなにがあったんだ!?強盗でも入ったのか!?」


………こいつは……。


真「店長の柳沢麗奈さんが亡くなりました。自殺です」


み「えっ?真司ちがうぶ!」


余計なこと言いそうになったみつおの口を塞ぐ。一応全員に合わせるよう言っとけばよかった。


谷「えっ?自殺?店長が……嘘だろ!?店長!!」


中に入ろうとした谷を春田警部が止める。


春「今は中に入られては困る」


谷「入れてくれよ!店長ぉ!!」


そのまま地面に泣き崩れるように膝をつく。


…………かかった。これを確かめたかったんだ。


俺はみつおに耳打ちする。


真「みつお、ビンゴだ。泣き崩れる瞬間に見た………嘘の泣き顔の中であざ笑うかのような表情を」


み「ほんとか!?」


真「ああ。春田警部、死亡推定時刻はでましたか?」


春「え?いや、俺はわからないな」


福「…………午後6時から30分の間だ」


真「え?ああ、ありがとうございます」


意外な人から情報貰えたな。しかし表情は不服そうだ。


真「さて谷さん……あなたは午後6時から30分の間………いや、その1時間ほど前からだな。どこでなにしてましたか?」


谷「は?え、なんでですか?」


真「簡単な質問です。答えてください」


谷「え、えっと……い、家にいましたけど?」


真「じゃあアリバイはナシと。今日ここへは来ていませんか?」


谷「今初めてですよ!え?自殺ですよね?そこまで聞く必要……」


真「答えてください」


谷「来てないって!なんか意味あるんですかこれ!?もう自殺だってなったのならそれで終わりでいいじゃないですか!」


谷佳祐は次第にイライラしだす。


いいぞ。このまま余計なこと話してくれたら儲けものなんだが……。


真「自殺で終わりでいいって……親しい方が亡くなったのに随分簡単に終わらせようとするんですね?先程の柳沢麗奈さんへの涙はなんだったんですか?」


谷「いや、あんたらがしつこいからで………」


真「最後の質問です。柳沢麗奈さんとなにがあったんですか?」


俺のこの言葉は彼の中の感情の壁を崩壊させた。みるみる怒りの……そして焦りの混じった表情になる。


谷「なんなんだよ!店長首吊って死んでたんだろ!?遺書のようなメールもきたし!どう考えても自殺だろ!?」


春「ん?」


真「気づきましたか春田警部。今の彼の発言は明らかにおかしい」


谷「なんの話だ!?」


金「谷くん………」


俺が発言しようとした時、後ろから金山が遮るように発言する。


谷「早苗!お前からも言ってくれよ!」


必死に訴える谷とは裏腹に、金山の谷に投げかける表情は悲しみと、そして迷いが交差していた。


真「金山さん。迷わず気づいた事は言ってください」


金「………はい。谷くん……私がさっき電話した時言ってたよね?」


谷「え?な、なにを………」


金「『友達からウッドベースに警察集まってるって連絡きたぞ!なにがあった!?』って。谷くん………自殺の内容知らないよね?」


全「!?」


真「そう……この中の状況を知っているのはここにいる発見者5人、そして警察だけなんです」


谷「ち、ちが……あ、後から友達から連絡来たんだよ!どうやら首吊ったらしいって」


真「ハハッ。あなたはアホみたいに墓穴を掘ってくれるので全員を納得させるのに大助かりだ」


谷「なに!?」


真「まずウッドベースは事件が起きてから完全に閉め切っていたし警察が誰も近づけていない。情報漏洩するはずがないんです」


谷「た、たまたま誰かドアの隙間から……」


真「仮にそうだとして周りに広がり友達に情報が行きあなたに流れたとします。じゃあなぜあなたはここに来た時、なにがあったか知らないふりをしたんですか?自殺に大変驚いていたように見えましたが」


俺の言葉に谷は唇を噛む。自分の矛盾に気づいたようだな。


谷「………ちが…今ショックで頭がまわってないんだ。だから会話に行き違いが……」


春「言い訳は見苦しいぞ谷くん!」


真「じゃあそうゆうことにしといてあげます」


全「はっ!?」


全員の視線が俺にむけられる。まあ当たり前の反応だな。


真「この際徹底的にやりましょうか。先程みなさんに言ってなかった残りの不審点と……恐らくですが犯人が行ったであろう犯行内容を中で話したいと思います。中に入りましょう」


俺が先に中に入る。その後に続き全員が中へと続く。

言わずとも逃げないよう谷佳祐は春田警部がガッチリ確保。


そして再び遺体のそばへと集まる。


真「鑑識さん、この辺に携帯か、もしくは大きな音が鳴るような物は落ちてなかったですか?」


鑑「えっ!?」


急に話しかけられたからか鑑識の人は少し驚いてはいたがすぐに冷静になり、袋に入った携帯を持ってくる。


鑑「携帯が遺体の近くの机の上にありました」


真「確認させてもらっていいですか?」


俺は手袋をはめ携帯をとり、従業員3人に見せる。


真「これは柳沢麗奈さんの携帯で間違いありませんか?」


橋「間違いありません。ね?」


橋口の言葉に金山も頷く。谷は俯いている。


俺は携帯を操作し、電話の着歴、メールの送信履歴を見る。


真「……メールは時間指定で送信されていますね。となるとこれはおかしいな」


福「おかしいってなにがだ?」


おっと、つい口に出てしまってた。


真「まぁそれより……谷さん、あなた4回ほど柳沢麗奈さんに連続で電話をしていますがこれはなんの要件で?」


谷「えっ?あ………」


真「ちなみにその後2人も何件も電話をかけていますが?」


金「それはこのメールが届いたからです。どういう意味か確かめようと……でも電話に出なくて何度も……」


真「金山さんが2回かけた後、すぐ橋口さんが3回かけてますね」


金「私たちそれまで2人でショッピングしてたんです。ちょっと早いですけどご飯行こうってなって店に入ってすぐそのメールがきて、先程話したとおり2人で何度も電話をかけました」


真「それで電話に出なかったのでこちらに向かわれたと」


金「そうです。今日は店の修繕で午前中業者が来て、昼からは仕込みをするって店長言ってたので………」


真「そうですか。その店の証言が取れればお二人のアリバイは成立しますね。それでは話を戻しまして、谷さんはなぜ電話を?」


谷は言葉を口にしようとした……が、そのまま口を紡いで俯いてしまう。


おそらくわかってしまったのだろう。自分のしてしまったミスを。


真「彼女達と同じように店長の身を心配して電話をかけた。違いますよね?だってあなたが電話をしたのはメールが来る少し前だったんですから」


福「本当か!?………確かに。送信時間より前に谷から電話が……」


福山刑事も俺から携帯を取りそれを確認する。


真「おそらくですが犯行はこうでしょう。谷さんと被害者の柳沢さんはここに2人でいた。谷さんは柳沢さんを睡眠薬か何かで眠らせ2階に運び手すりに寄りかかるように梁の上に座らせる。正直この手すりの向こうに柳沢さんを持っていくのも女性であるこの2人にはできません」


真「そして柳沢さんの携帯で遺書メールを作り時間指定で送信待機させる。そして携帯を机に起きその場を後にし、その後電話をかけ、寝ぼけながらも起きた彼女は携帯に手を伸ばそうとしそのまま落下、首を吊ることになった」


み「それだとわざわざ電話かけなくてもほっとけば寝返りとかで勝手に落ちたんじゃないのか?わざわざ尻尾掴まれるような証拠残さなくても」


春「上手くいく方法考えてどうするんだお前は」


み「あ、いや!なんとなくそう思っただけで……」


真「それは一か八かになるからな。もし自然に目が覚めて落ちることなく助かったら確実にバレてしまう。もし目覚めなくてもあのメールで2人がすぐに駆けつけても同じだな」


み「確かにな~」


谷「………たんだよ……」


ずっと俯いていた谷がかすかに言葉を口にするも、聞き取りにくく聞き逃してしまった。


春「なんだって?」


谷「寝相がよかったんだよ!!!!」


…………………。


全「???」


何を言い出すかと思えば……何を急に意味不明な……。


み「なあ……こいつ笑わそうとしてるのかな?」


真「いや、追い詰められて頭狂ったのかもな」


谷「お前の言ったとおりだよ!睡眠薬で眠らせてこいつをあの梁にロープで繋いで自殺に見せかけようとした!俺も自然に落とそうとも考えたが自殺に見せかけるために遺書まがいのメールも用意したからこいつらが駆けつける前に落とす必要があった」


谷「その前にこいつは寝てるとき一切動かないほど寝相がよかったんだ!ここ何ヶ月か一緒に住んでわかってた!だから……」


金「ちょっと待って……一緒に住んでって、もしかして結婚考えてる彼氏って……」


谷「ああ、俺だよ。別に結婚は考えてなかったがな!」


春「付き合っていたならなぜこのようなことをした?喧嘩の延長だったらこれ以上くだらないことはないぞ!」


谷「あんた達に何がわかる!?ずっと縛られ続けた……なにをするにしても一緒に行動、唯一自分の時間ができても5分ごとにメールしろ!給料はすべて差し押さえられ何か欲しいものがあれば許可がでて初めてお金がもらえる。殆ど許可されたことないがな」


どうやら柳沢麗奈は極度の束縛をする女だったらしい。金山たちは意外そうな顔をしているから知られていなかったんだな。


谷「俺は壊れかけたよ。ごくたまに会えていた友達からは衰弱してる、たまにおかしい時があると言われた。別れようとも言ったよ。でもあいつなんて言ったと思う!?」


谷は唇を噛み締め俯きながら握る拳に力が入る。


谷「『だったらあなたから暴力があったと訴えてやる!法は女性に優しく出来てるんだよ?』と、勝ち誇ったような笑みを向けて!証拠がないと言ったら一枚の写真を見せられたよ!体に痣が数ヶ所できてる写真!」


春「それはもちろん………」


谷「俺じゃねぇよ!前に梁の上の掃除を椅子に立ってしてたらバランス崩して机やら巻き込んで盛大に転んで、その時できた痣だよ!写真の日にちも合ってたからな」


福「それをわざわざ写真に撮っておいたのか」


谷「『こうゆう時使えると思って撮っててよかった。あなた優しいから手もあげないし怒鳴ることすらなかったからどうしようかと思ってたのよ』だとよ!俺にとってあいつは悪魔のような奴だった!死んでほしくて仕方なかったよ!」


春「しかし殺す前になんとか方法考えなかったのか?警察や弁護士に相談とかーー」


谷「警察が男からの相談で動くか!?法が男を有利に働いてくれるのか!?それこそあの写真見せられたら俺じゃないと言ったとこで聞く耳もたねぇだろ!」


春田警部や福山刑事は押し黙る。その言葉を否定できないのだろう。


谷「じゃあ殺すしかないだろう!自分の身は自分で守るしかないだろう!本当は刃物でも刺して目の前で朽ちていくあいつを見たかったがこれ以上俺の人生をあいつに壊されるのはごめんだった!だから自殺に見せかけたんだよ!俺を苦しめた写真を作ったあの梁で!でもよかったよ!牢屋に入れられても俺はあいつから解放されたんだ!!」


それを最後に谷は泣き崩れた。それは自分のしたことの悔やみなのか、それとも言葉通り解放された事からの喜びの涙なのか。一度は愛し合ったのに悲しい結末だが………後者だろう。

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