妖怪連合百鬼夜行

小さな山に逃げ込んだ妖怪と人間を見て、冥鬼達はどう思っただろうか。

袋の鼠? 八方塞がり?

いくら幽吹のホームグラウンドとはいえ、司も一瞬そう思ってしまった。山に押し寄せる、数え切れない程の旭光を見た時ばかりは。


銀竹ギンチク。来てるわね? そっちは任せたわよ」

「『お任せですわ』と仰ってます」


鬼然キゼン。土石流でも起こしてやりなさい」

「『もうやってる』との事です」


炫彦カガヒコ。山火事は起こさないように」

「『もう起こした』ですって。はー」


幽吹と異香は絶えず言葉を交わす。異香は、分身を通して他者との会話を仲介していた。

司には、何が起こっているのか理解できないでいた。ただ、山を取り囲んでいたはずの冥鬼の数が、少しずつ減っている事だけは見てとれる。

「あ、幽吹様。後ろー」

多数の分身を飛ばしている異香に死角は無い。

山の中に直接現れた冥鬼の姿も見逃さない。

「分かってるわよ」

幽吹による、植物の操作。

現れた冥鬼はたちまち串刺しになる。

「あ、今度は狙いをこちらに絞ってきました。考える知能はあるんですね」

「誰かが操ってるだけかもしれないわ」

数十体の冥鬼が、幽吹と司のいる場所に大挙して押し寄せる。

赭土ソホド。蹴散らして」

「仰せの通りに」

地中から飛び出て来たのは妖怪大百足。地表を疾駆し、次々と冥鬼を咬み殺していく。

冥鬼の出現は止め処なかったが、それでも幽吹は余裕を崩さない。

「ねぇ幽吹……今、どういう状況なの?」

戦いはまだ静まっていないが、司は恐る恐る尋ねてみた。

「ん? 近付いてくる冥鬼共を、片っ端から地獄に送り返してるだけよ」

平然と答える。

「それは、なんとなく分かるけど……他の場所でも誰かが戦ってるの?」

「そうですよー。つらら女の銀竹様。白鬼の鬼然様。火車の炫彦様。大百足の赭土さん。以上の四名を中心に、百鬼夜行の妖怪達が幽吹様の召集に応えて、この山で戦っています」

幽吹に代わって答えたのは異香。

「えっと……さっきも聞いたけど、その百鬼夜行ってのは?」

「あ、申し遅れましたね。百鬼夜行。それは日本妖怪の大連合。幽吹様はその百鬼夜行の代表。主導者様を務めておられます」

幽吹が、妖怪大連合の主導者?

司は幽吹の顔を見た。目が合う。彼女は苦笑を浮かべていた。

「……異香。あんたペラペラとよく喋るわね」

「司様になら、話しても良いと判断したんですけど、ダメでした? 隠し事は良くないですよ」

「言われなくても、私の口から話したわよ」

「それは申し訳ありませんでした」

異香は頭を下げた。

「……まぁ、司。そういう事だから……何か質問ある?」

ぎこちない言葉を、精一杯に絞り出す幽吹。

「……なんか、俺が思ってた以上に凄い妖怪だったんだね幽吹って」

質問ではなく感想。

「まぁね……司を守るためなら、何でもするわ」

幽吹は笑って見せた。


日没と同時に、冥鬼の出現は途絶えた。

「長い戦いだったね……大丈夫?」

山の中を歩きながら、残党狩りをする幽吹に声をかける。

「ええ、これくらいならまだ軽い方よ。でも、私一人だと流石にキツかったかも」

「最悪を想定していて、良かったですね」

「そうね……あ、日隠村の様子はどう?」

ふと思い出した幽吹は異香に尋ねる。

日隠村。母達が救援に向かっている場所である。当然司も答えが気になった。

「その質問を待ってましたよ。なんと、日隠村にも冥鬼は現れました」

司は驚きの声を上げるが、幽吹は無言。

「その規模はこちらとほぼ同じ……御影月夜等の活躍もあり、大きな被害無く戦いを終えた模様です」

「ま、総合戦力は向こうの方が圧倒的に上だしね」

当然の結果と頷く幽吹。

「あー、良かった」

胸をなでおろす司。

「ここと、日隠村以外に冥鬼が現れた場所はある?」

「えーっと……小規模な出現は全国各地で見られたようですが、こちらと日隠村ほどの大軍が現れたという報告は今のところありません」

「そっか……」

「……え、もしかしてそれって……」

司には、大軍が現れる条件が分かった気がした。

「ええ……冥鬼共は、あなたと月夜を狙ってる可能性が高い」

幽吹は司の考えを言い当てる。

「……どうして? 霊感が強い人間だから?」

「そうね。あなた達御影家の人間ほど、霊感が強い人間は恐らくもうこの国にはいないから……」

「まさか、昔は沢山いたっていう霊感が強い人間達は、みんなさっきの冥鬼に……?」

「それは、どうかしらね。冥鬼がこれほどの群れを成して地上に現れるようになったのは、比較的最近の事だから」

その可能性は低いと考える。

「数だけではありません。冥鬼一体一体が、昔よりも強力になっています」

地獄からの使者は、御影親子を殺そうと躍起になっているようだった。

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