大会その2

二人が準備体操をするために見つけたのは、体育館の裏にある公園の一角。朝早いこともあって人通りは少なかった。

「あれ、あの子……」

そこに一人の少女が歩いて向かってくるのが見えた。司には覚えがある。

「……誰か来たわね。私隠れるから」

「えっ、何で」

司の隣には確かに幽吹がいる。だが、彼女は今この瞬間から、司以外の人間の目には捉えられなくなった。

力がある程度強い妖怪や霊になると、人間に姿を見せるも隠すも自由自在。これが力の弱い妖怪や霊ならば、簡単にはいかない。人間からの可視不可視の切り替えや、姿の変化には多くの霊力を消費する。

「おはよう御影くん。今誰かと一緒にいなかった?」

「あ、おはよう淡島アワシマさん。えっと、いたんだけど、急にトイレに行きたくなったとかで……」

話しかけてきたのは、司が通う高校のクラスメート。淡島ミナト。彼女は高校の剣道部に所属していた。

「友達?」

「うん。俺が通ってる道場で、一緒に剣道やってるんだ」

「へー……御影くんにも友達とかいたんだ。少し安心したよ」

「し、失礼な……」

「ごめんごめん。御影くん、うちの剣道部に入ろうとしないから、なんか気になってて」

司がふと隣を見ると、幽吹と目が合った。

無表情。

怖くなってすぐに目を離す。

「うちの剣道部、男子の数に余裕が無いんだよ。御影くんが入ってくれるとありがたかったんだけど……でも、一緒に剣道やってる友達がいるなら、仕方ないな」

司は少しだけ申し訳なくなった。

「淡島さんはどうしてここに? 散歩?」

「あっ、私たちも準備体操しようと思って、スペースを探してたんだ。この辺使っても大丈夫かな?」

「もちろん。俺たちはもう殆ど終わったから、丁度体育館に引き上げようとしてたところだけど」

「そうか。追い出すような形になって申し訳ない。私は部のみんなに伝えてくるよ。それじゃ、今日はお互い頑張ろう」

淡島ミナトは司に対して一つ頭を下げ、体育館に戻っていった。


「……あの女、司に気があるのかしら」

幽吹が口を開いた。

「淡島さんは、良い人なんだよ。人格者なんだよ」

「そうね……悪い人間じゃなさそう。部活、入ってやれば?」

「俺、下手くそだから戦力にならないよ。それに、淡島さんに余計な心労をかけさせる事になるし」

「どうして?」

「だって、俺に話しかけてくれるの、淡島さんだけだから」

司には、部活に溶けこめる気がしなかった。

「やっぱり司に気があるんじゃないの?」

「だから、淡島さんが良い人すぎるんだって。誰にでも優しいんだ」

「……そろそろ移動しましょうか。あの女が部活の連中引き連れてくるんでしょ」

「そうだね」

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