苛めっ子?

季節は春。

剣道場からは、剣士達の声と、竹刀を打ち合う音が響く。

「うへぇ……疲れた。死ぬ」

互いに竹刀を激しく打ち合う地稽古で幽吹と当たった司は、泣き言を漏らした。

稽古の終盤、体力に乏しい司は決まってフラフラになる。

「あと少しよ。頑張りなさい」

幽吹は鍔迫り合いの際、激励のつもりで自らの面を司の面に打ち付けた。

「ぐあっ!」

痛みは殆ど無い。それでも妖怪による鋼鉄の頭突き。司は耐えきれずに吹き飛んでしまう。

「あ、やり過ぎた」

「おい! 何やってんだ須玉! 御影を苛めんな!」

道場の師範から怒号が飛ぶ。

幽吹に名字は無い。便宜上、須玉スダマと名乗っていた。

何かと司に対しての当たりが強い幽吹は、いつしか師範から苛めっ子と認識されてしまった。


道場生は稽古を終えた後、師範や指導者から一言貰う。

「お前、須玉に苛められてんのか?」

司は師範から問い詰められた。元警官の師範は、苛めを決して許さない。

「いや、苛められてないです。めっちゃ仲良いです」

「……本当だろうな。正直に言えよ」

「本当です本当です」


次は幽吹の番。

「須玉お前……御影のこと苛めてるだろ」

「違うの。少し力が入り過ぎちゃっただけで」

「……あんまり目に余ると、保護者に伝えるぞ」

「どうぞどうぞ」

あまりに肝の座った態度に師範はイラっとして、すぐさま道場生の名簿を確認する。

名簿には、道場生の名前や学年。保護者名、連絡先などが記されていた。

「は……?」

師範は目を疑う。

なぜなら、須玉幽吹の保護者欄には、御影月夜という名前があったから。

「お前ら、キョウダイなのか?」

「遠い親戚なの。今は御影くんの家に引き取られて」

「……もういい。今日は帰れ。気を付けてな」

師範の義憤は消沈してしまった。


その後師範は、道場の正面で話し合う司と幽吹の姿を見た。

「明日は稽古無いのよね。それじゃ山菜採りに出かけましょうよ」

「良いね。タラの芽食べたい」

師範は耳を疑った。

こんな街中で、山菜採りに出かける少年少女など聞いたことが無い。

「……最近のガキはよく分からん」

片方は確かにガキだが、もう片方は師範の何倍も永く生きた妖怪なのであった。



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