第15話 宿命の対決、勇者と魔王

「なにを白々しい。あなたが魔王じゃなかったら、だれが魔王だというの!」


「だ、だれって……。魔王はオルタンスだろ? 違うのか?」


「オルタンスは先代の魔王よ。そんな男、あなたがとっくに幽閉したじゃないの」


 幽閉した!?

 俺が、魔王を!?

 どういうことだ。なにからなにまで、マリカと話がかみ合わないぞ。


「……待てよ、もしかして」


 俺はやっと気が付いた。

 たぶんこの世界は、俺がいたのとは違う世界だ。

 俺が過去を変えたためにできた世界だ。それしか考えられない。

 空唱の開発を止めたために、未来が変わってこんな世界に――


「ンな馬鹿なッ!?」


 俺は怒号をあげてから、ぶんぶんと激しくかぶりを振った。

 なんだって空唱の開発を止めたら、俺が魔王になるんだよ!?

 くそっ、状況が知りたい。とにかくここはマリカに話を聞こう。


「マリカ。信じてもらえないかもしれないけど、俺は魔王アランじゃないんだ。いや、アランはアランなんだけど、別の世界のアランなんだ」


「は? なに言ってるの、あなた。頭大丈夫?」


 まるっきり馬鹿を見る目で俺に視線をぶつけてくるマリカ。

 そんな目で見ないでくれ。学生時代、クラスのスクールカーストで底辺だったトラウマが甦る。


「信じられないのも無理はないけど、本当なんだ」


 俺は顔を伏せながら、これまでに起きた出来事を話した。

 すべてを話すと、マリカは――こちらの世界のマリカ・エスボードは、俺の世界のマリカとまったく変わらない美麗な顔立ちを、わずかに曇らせつつも、


「信じがたい話ね。……でも、あなたの目。嘘を言っているようには見えないわ」


 と、少しだけ声音を柔和にしながらそう告げたのだ。

 俺は大きくうなずきながら「嘘じゃない、嘘じゃない」と必死に連呼して、


「マリカ、頼む。聞かせてくれ。こっちの世界のアランが、どうして魔王になったのか。それが知りたいんだ」


「どうして、って」


 マリカは首を振りながら、


「私もすべてを知りはしないけど、うわさによると――」



 のちに魔王アランになった男、アラン・ディアックは、ごく普通の少年だった。

 彼は学校を卒業した後、地元の商人の下で働き始める。

 ところがその商人はひどい男で、給料はろくに支払わず、休みもほとんど与えず、朝から晩まで部下を罵倒するような商人だったらしい。


 アランはそんなところで働くうちに闇堕ち。

 その商人はもちろん、そんな人間を容認する世界そのものを恨むようになったのだ。


 そしてアラン・ディアックは、人類を裏切った。

 アイザイル王国を侵略しようと攻めてきていた魔王、オルタンスの部下になったのだ。


 魔王軍の部下となってアイザイル王国を攻め始めたアラン。

 彼はその過程で眠っていた資質を覚醒させた。

 圧倒的な強さを手に入れたアランは、アイザイル王国を滅ぼした。

 さらにその後「いくらなんでもやりすぎではないか」と苦言を呈した魔王オルタンスと、その娘ミドラまで幽閉し、自分が魔王となったのだ。


 かくして、魔王アランは誕生した。

 アランはそれからも、生き残った人間を殺すために暴れ回っている。

 人間側はマリカを中心に団結して、魔王に抵抗を続けているが、戦況は劣勢である――



「というわけよ。分かった? 別の世界のアラン・ディアック?」


「馬鹿なのか!? こっちの世界の俺は!」


 俺は、すべてを聞き終えてから思いきり叫んだ。

 商人にコキ使われたから闇堕ちだなんて。

 そんな理由で魔王になったの!? アホらしいにもほどがある。


「仕事が嫌ならやめればいいのに、それで王国を滅ぼすなんて」


「でも聞いている限り、あなたも大差ないことしてるわよ?」


 マリカがジト目で言った。


「空唱が嫌いってだけで、勇者になったり、昔のクラスメイトを殺したり、魔王と手を組んだり、魔法で時を越えてまで歴史を変えようとしたんでしょ?」


「うぐ」


「それほど空唱が嫌なら、無人島か山奥にでもいって、ずっとひとりで畑でも耕しながら暮らせばよかったんじゃない? 歴史まで変える必要あった?」


「それは」


「……世界は違えど、魔王アランは魔王アランということね」


「…………」


 返す言葉もございません。


 それにしても、空唱がこの世に誕生しないだけで、ここまで世界が変わるとはな。

 考えたら俺、仕事先で空唱に付き合わされるのが嫌で勇者になったんだよなー。

 そんな俺が普通に働いたら、気が狂うのも当然っちゃ当然の流れなのか。


「こんな世界を作り出した責任は、すべて俺にあるな」


 俺は独りごちるように言うと、うーんと腕を組みながらうなりつつ、


「マリカ。魔王アランがどこにいるか知っているか?」


「知らないわ。ただ、この廃墟……。元首都をよく徘徊していると聞いたことがあるの。だから私も今日、ここに来たんだけどね。魔王アランを倒すために」


「なるほど……」


 俺はうなずきながら、魔王アランが徘徊しているとまで聞いて、思わずため息が出た。

 こっちの世界の俺は、もうほとんどモンスターだな。


「よし」


 俺はぽんと手を叩いてから、マリカに向かって告げた。


「責任はとる。魔王アランは俺に任せろ」




 数時間後。物陰に隠れていた俺たちふたりだったが、


「来たわ……!」


 マリカが短く叫んだ。

 見ると、廃墟と化した首都の中を、ひとりでテクテク歩いている黒マントの男がいる。

 あれが、魔王アラン……?


「くっくっく。悪い人間はいねがー。ブラックな商人はいねがー」


 ぶつぶつと独りごちながら、廃墟の中をさまよい歩くその姿は不気味だった。

 ……情けない姿だ。あれが別次元の俺とは。

 見ていられないぜ。さっさと倒してくるか。


「じゃ、俺、あいつと戦ってくる」


「え。ちょ――」


 マリカが横で驚いた顔をしているのが見えたが、まったく無視してばっと飛び出す。


「おい、魔王!」


「ん?」


 魔王アランが振り向いた。

 そして俺の顔を見て驚愕の面持ちを見せたのだ。


「な、なんだ、お前は。……俺、だと? 俺がふたりいる?」


 魔王アランは混乱している。

 自分と同じ顔の人間が出てくれば当然か。


「魔王よ。俺は別の世界のアランだ」


「別の世界?」


「話すと長くなるし、どうせ理解できないだろうから、それはいい。それよりもお前、なにやってるんだよ。なんで魔王なんかやってるんだ」


「なんで……って……」


 魔王アランは目を白黒させていたが、やがてまなじりを吊り上げて、


「人間なんて、滅ぼすべきだと思ったからだ!」


「ありふれたセリフを言いやがって。俺は情けないぞ。嫌な商人の下で働いたせいで闇堕ちしたらしいじゃないか。そんなことで人類絶滅レベルにまでトチ狂ってどうする?」


「俺はこうするしかなかったんだよ! 学生のころからウェイウェイうるせえやつらに見下されて、商人の下っ端になったと思ったら今度は朝から晩までコキ使われて、馬鹿にされて、ボロボロにされて、なにもかもうまくいかなくてよ! どいつもこいつもムカつくんだよ! 魔王になって滅ぼしてやりたかったんだよ!!」


「だからって――」


 と言いかけて、俺は思わず口をつぐんだ。

 こいつの気持ちが、俺には分かったからだ。


 俺も魔王アランと同じように、学生時代、クラスの中でぼっちだった。

 空唱という流行に乗ることもできなくて、それで勇者になったくらいだ。

 だけど、空唱からは逃げられなくて。だから、歴史を変えようとまで思って……。


 こいつは俺で、俺はこいつだ。

 ひとつ間違っていれば、俺だって、魔王アランになっていたかもしれない。

 ……俺は、目をわずかに細めて、もうひとりの俺をじっと見つめた。


「分かるぜ、魔王アラン」


「え……」


「お前の気持ちが分かる。そう言ったんだ」


 俺は一直線に相手を見据えながら、唇を静かに動かしていく。


「そうだよな。辛かったんだよな。お前はお前なりに、ずっと頑張ってきたんだよな」


「……お前……なにを言って――」


「言っただろう、俺は別の世界のアランだと。お前の気持ちをだれよりも理解できるのが、もうひとりのお前であるこの俺さ」


「……もうひとりの、俺」


 俺は小さくうなずいてから、いたわるようにして言った。


「いままで、辛かったな」


 すると魔王アランは、わずかに瞳を潤ませてから、絞り出すようにしてうめいたのだ。


「…………辛かった……」


 ――もうひとりの俺は、心を開いてくれた。

 だれにも語れなかったであろう胸のうちを、俺に向かって吐露したのである。


 俺は目を細めた。

 少しだけ、嬉しかった――




「でもそれはそれとしてお前は死ね!」




 ズバァァッ――俺は剣を引き抜くと、魔王アランをばっさりと斬ったのだ。


「おぐふぁ!?」


 魔王アランは、真っ赤な血ヘドを吐きながら、


「な、なぜ……?」


 疑問符で顔をいっぱいにしながら前のめりに倒れ込み――

 そんなやつを、俺は睨みつけながら言った。


「なぜもくそもあるか。これだけアイザイル王国を破壊しておいて」


「…………」


「お前の気持ちは分からんでもない。だがな、ここまで暴れた魔王のお前を、許しておくわけにはいかないんだよ」


「お前は……本当に……もうひとりの俺か……?」


「ああ、俺は間違いなく、もうひとりのお前――」


 俺は、剣を一度、ビュンと振り――

 刀身に付着した魔王の血を、地べたに落としながら告げた。


「魔王を倒すために選ばれた男。……勇者アランだ」


「…………サ……シ…………」


 魔王アランは、最後にぽつり。謎の言葉をうめいたあと、俺の顔をすさまじい形相で睨みながら、ばったり。――白目をむいて、ぶっ倒れたのである。

 ……魔王の最後であった。


「終わったぞ、マリカ・エスボード」


「あ、あなた、ずいぶんためらいなくやったわね。仮にも別次元の自分なんでしょう? それをいきなり殺すなんて」


「ま、こいつは既に俺であって俺ではないしな。魔王アランはもう、話し合いでどうにかなるレベルじゃなさそうだったし」


「それはそうだけど」


「でもとりあえず、墓くらいは作ってやるか」


 俺はそう言って、地べたに膝を突き、魔王アランの死体の横に穴を掘ろうとする。


「……ん?」


 だが、俺は手の動きを止めた。

 魔王アランの黒マント。その内側に、なにやら白い布切れが見えたからだ。


 なんだ、これ?

 目を凝らして見てみると、それはハンカチだった。

 それもどこかで見覚えのある――


「……サーシャ!? サーシャのハンカチじゃないのか、これ!?」


 俺は、ガレオスの街での出来事を思い出した。



 ――あ、アラン様、口許にクリームが。いま、ぬぐってさしあげますわ。



「そういえば、聞いたことがあるわ。魔王アランがまだ商人の下で働いていたころ、同じ商人の部下に、サーシャ・ブリンクという女の子がいたって。その子は父親の商売が失敗したせいで多額の借金を抱え、商人の奴隷のようになっていた……」


「…………」


「サーシャはさんざんこき使われ、そのせいで病気になってしまった。いまでもこの国のどこかで静養しているそうよ。……魔王アランが闇に堕ちたのは、それも理由のひとつだったらしいわ。自分とサーシャをいじめ抜く世界。だれも助けようとしてくれないこの世界を。それを恨んで――それで……」


「そんな、そんな話が……」


「あくまでもうわさよ。だから本当の話かどうかは――」


「いや、きっと真実だ」


 断言した。……俺には分かる。

 こいつは俺で、俺はこいつだ。

 魔王アランの気持ちが、俺には、手に取るように分かるんだ。


 世界は違えど、俺は俺。

 ……そして世界は違えど。

 サーシャは、サーシャだったんだ。


「……マリカ。頼みがある」


「なに?」


「まず、魔王オルタンスとその娘ミドラを助けてやってくれないか。このふたりは魔族だが、話して分からない相手じゃない。……それと、ヒットポイ村にいって、フィルって女の子がいたら、友達になってほしいんだ。この子は僧侶の素質があって、回復魔法ならお手の物なんだよ。で、その子を連れて――」


 俺は、微笑と共に告げた。


「サーシャを。……この世界のどこかにいるサーシャ・ブリンクを見つけ出して、その病気を治してあげてほしい。フィルの魔法でな」


「あなた、どうしてそこまで――」


「アラン・ディアックのあやまちは、アラン・ディアックが修正する」


「…………」


「しなきゃいけないんだ」


 俺は、心からそう言った。

 気持ちが伝わったのだろう。マリカはこくりとうなずいた。


 それから俺たちは、数分ほどかけて魔王アランの遺体を埋葬した。

 すべてが終わった。

 マリカは静かに、俺のほうへ目を向けてくる。


「……それで、あなたはこれからどうするの?」


「元に戻してくる。すべてをな」


「え……」


「じゃあな、マリカ。こっちの世界に来ることは、もうないだろうけど、元気でな」


 俺は右手を挙げてから、少しだけ笑って言った。


「ちょ――」


 マリカはまだなにか言いたげだったが、俺はもう言葉を発さず、


「『トキトブ』!」


 再び時魔法を使ったのだ。


「勇者アラン君。……また、またこっちの世界に来てよ! 絶対よ!?」


 時間移動する瞬間、マリカの声がかすかに聞こえた。

 ――別世界のマリカも、俺をアラン君と呼ぶんだな。

 ふたつの世界が繋がった気がした。


 ……だから、思ったんだ。

 サーシャ、ごめん。魔王アランが滅ぼしたアイザイル王国のみんな、ごめん。


 そして、俺。




 ごめん。





 王国歴二七〇年。俺は再び、この時代にやってきた。

 場所はパメラ・シュバイクの家の前――

 にある樹木の陰である。


「さて、計算通りなら、そろそろ出てくるはずだ。……お」


 家の中から、大声が聞こえてきた。


「とにかく! 絶対に空唱は作るんじゃないぞ。作ったら、殺すぞ!」


 家のドアが勢いよく開き、家の中から少年が、つまり俺が出てくる。

 あれは前にパメラを脅して、歴史を変えた俺だ。


「『トキトブ』!」


 俺は――ややこしいが、俺じゃなくて、は、時魔法を発動させて未来へ飛ぶ。空唱を消滅させたことに満足して。歴史を変えてやったぞと嬉しげに。


 ところが向かった先は、魔王アランの時代ってわけだ。

 あんな時代は認めない。元の時代を復活させねば。


「よし」


 俺は木陰から飛び出すと、パメラの家の中に入った、

 パメラは、俺に破壊された空唱機の前で、呆然と尻もちをついていたが、


「ひっ!」


 彼女は俺の顔を見ると、露骨に顔を歪めた。

 当然っちゃ当然か。さんざん自分を脅した男が、いきなり戻ってきたんだから。


 俺とパメラの再会。俺の中では数時間ぶりだが、パメラにとっては一分も経っていないはずだ。


「な、な、なんですか。忘れ物ですか?」


 パメラはビクビクしている。

 悪いことしたなあ。この人、俺の脅しでこんなに怯えちゃったんだな。


「さっきは悪かった。ごめん!」


 俺は両手を合わせて謝った。

 それ以上、弁解はしない。

 説明もしないほうがいいと思った。パメラが混乱するだけだろう。

 とにかく俺は、やるべきことをやらないといけない。


「空唱は素晴らしい発明だ。壊したのは間違いだった。修理しよう!」


「え……」


「俺も手伝うから!」


 握りこぶしを作って、力説する。

 ――すると、パメラは、


「……弟子よ! ボクの偉大さに、ようやく気がついてくれたか!」


 瞳をきらきらさせて、俺の両手を握ってきた。


「過ちに気が付いたならそれでいい。大切なのは、過去を活かして未来へ進むことだ!」


 パメラは、笑顔で言い放った。

 ……大切なのは、過去を活かして未来へ進むこと、か。その通りだ。


「それでは弟子よ、手伝ってもらうぞ!」


「おう!」


 ――それから俺たちふたりは、空唱機の修理に取りかかった。

 やがて陽は沈み夜になったが、俺もパメラも構わずに、汗と油にまみれつつ作業を続けた。


 パメラの横顔は、先ほどまでとは打って変わって真剣だった。俺はその表情を何度も見た。これが、歴史に影響を及ぼす人間の表情なんだなと思いながら。


 機具は、どんどん本来の形を取り戻していった。

 パメラの指先が動くたびに、歴史が元へと戻っていく。未来が彩りをもって形作られていく。……その実感があった。


 ――やがて。


「できたぞ、弟子!」


「おおっ……」


 空唱機は、修理が完了し――改めて完成したのだ!

 心なしか、その機具は光り輝いて見えた。


「出来上がったぞ! 今度こそ完成だ! ありがとう、弟子よ!」


「礼を言われるようなことは……俺が壊したんだし……」


「いや、違うんだ。壊れる前のやつよりも、今回の空唱機のほうが、性能がグンと上がっている。修理していて気が付いた、細かいところを直したのでな」


「そ、そんなことが……」


「だから君のおかげなのだよ! ……ふふふ、さあ、弟子よ。さっそく歌おうじゃないか! 完成した空唱。その一発目は、ふたりで熱唱するのだ!」


「ま、マジっすか……!」


 俺は唐突にやってきた空唱タイムに、ちょっとだけ戸惑う。

 しかし俺は、心が高揚していくのもまた感じていた。理由は分からなかったけど。


 やがてイントロが――パメラの言う通り、先ほどよりもより良い音質のイントロが室内に響く。曲は『いえーいシンドバッド』だ。

 そして歌詞が、魔力晶板に表示されるなり、パメラは手を挙げて叫んだのだ。


「いえーい!」


「うえーい!」


 俺もまた、当然のように右手を挙げた。

 ――それから、俺とパメラは当然のように空唱を歌った。


 不思議なことだ。あれだけ嫌がっていた空唱を、俺は楽しんでいた。オンチだけど、それはパメラも同じで、彼女も決して歌はうまくなかった。それでも俺は、俺たちは、楽しんでいた。


 あのときと同じ空気だった。ガレオスの街で『歌姫』のプレオープンのときに、空唱を強制されることがなかった俺は、決して悪くない雰囲気を感じていた。ああ、だれかになにかを強要されないって、こんなにも自由で楽しいもんだったんだな。


 自分で分かる。俺はいま空唱が、少しだけ好きになった。

 過去を乗り越えられた気がした。ギリアムを殺したときの自分が、心の中から消えていく。

 今度、あいつに会う機会があったら殺害したことについて改めて謝ろう。ウェーイのノリは、やっぱり勘弁だけどな。


 ――そして気がつくと、パメラは寝息を立てて眠っていた。

 空唱を修理し、そして完成させたことで疲れが出てきたのだろう。

 俺は彼女に、そっと笑みを向けたものだ。


「お疲れ様。そしてありがとう。パメラ」


 最後のあいさつだ。

 縁があったら、十七年後にまた会おうぜ。……なあ、師匠。


 俺は黙って家を出た。

 それからそっと、降るような星空を見上げると、声高らかに叫んだのだ。


「『トキトブ』!」

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