アーサー王とオタサーの姫
森水鷲葉
プロローグ
プロローグ
オタサーの姫。
見た目は、どこにでもいそうな、ちょっとかわいい女の子。
その実態は、男女の比率が極めて非対称的な「オタクサークル」(主にゲーム、アニメ、漫画などの作品を愛好するサークルやグループ)において、まるで姫のごとく、ちやほやされる女性である。
オタサーの姫は、愛される。
ゆえに、オタサーの姫は、争いを呼ぶ。
姫を巡っての多角関係に端を発する、人間関係の不和で、滅びたサークルは数知れない。
しかし、誰が本当に姫を責められようか。
彼女は、本当に、魔性の女なのか?
これは、そんな、オタサーの姫を巡る、あるオタクサークルの物語である。
★☆★
巨大な城の玉座で、王は言った。
「本当に、この国は……我が王国は滅びてしまうのだな」
「ええ」
緑色のローブに身を包んだ魔術師の女性が応える。
「我らが円卓の騎士は、憎しみあい、諍い、殺し合いをすることになるでしょう。そして、やがては、あなたも命を落とすことになりましょう」
「なぜ、このようなことに……いや、もとはといえば、私の責任だ」
王は、顔を伏せ、やがて、傍らの魔術師を見つめた。
その瞳は、決意の色に満ちていた。
「マーリン。たしか、おまえ、亡国の予言を回避する手段があると言ったな」
「はい、アーサー王さま」
マーリンはうなずくと、アーサー王に向き直る。
「しかし、その方法では……」
「どんな方法でもかまわない!」
アーサーは、マーリンの言葉を遮り、叫ぶように言った。
玉座の間に、悲しみに満ちた、王の声が響き渡った。
マーリンは、アーサーを見つめた。
キャメロットの玉座の間には、魔術師と王の二人よりほかはない。
ゆえに、アーサーは、マーリンへと……その腹心の魔術師へだけ、己の本心を吐露しているのである。
「私は、どんなことにでも、どんな苦痛にでも耐えるつもりだ。私の愛する、このキャメロットの皆々、そして、王国の民のためであれば……」
アーサーの瞳はぬれていた。
その声は、後悔の念に震えていた。
「私はどうなってもいい。我が王国を救うためであれば」
「承知いたしました」
マーリンは、恭しくうなずいた。
「私も、魔術師として一世一代の魔法を、必ずや成功させて見せましょう」
マーリンは、芝居がかったしぐさで一礼した。
「頼んだぞ」
アーサーは、マーリンの手を取り、強く握った。
その手をかわすように、マーリンはすっと、王の元を離れた。
「これより、儀式の準備を始めます」
「ああ」
アーサーはうなずいた。そして、再び、魔術師に言う。
「頼んだぞ、マーリン。もう二度と、このようなことで命を落とす者のないよう……」
「御意のままに」
一礼したマーリンの表情は、フードに隠れ、アーサーが、見ることはかなわなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。