第7章:魔法

第7章第1節:選択肢


   A


「話は聞かせてもらったよ~、〈アリア〉先生」

 鈴木と黒井が打ち合わせ室から出ると、彼らとの入れ替わりで、スタイルのいい美女が打ち合わせ室に。イタズラ好きそうな笑みを浮かべている。

 入室早々、彼女はホワイトボードに〈独創者〉と書いた。その上に「アリア」とルビを振る。

「あははっ♪ カッコイイ異名だね」

「……本当にそう思ってます?」

「半分は」

「半分だけですか」

「あははっ♪ あ、そうそう。自己紹介がまだだったね。お姉さんは〈セレクションメーカー〉の結城。美人編集者で~す」

「あ、僕は神田です」

「〈独創者〉の神田先生ね」

「……ええ、まあ」

「ところで、お姉さんの美人編集者発言は無視? そこは『おいおい、自分で言うんかいな』ってツッコミが入るところじゃない?」

「僕、関西人じゃないですよ?」

「それなら、『おいおい、自分で言うのでござるか』でも可」

「僕、侍でもないです」

「お姉さんは忍者のつもりだったんだけど」

「あ、忍者だったんですか。まあ、忍者でもないですし」

「それなら、先生が言いやすい口調でいいよ~。それじゃ、改めまして。──お姉さんは〈セレクションメーカー〉の結城。美人編集者で~す」

「確かに美人さんですね」

「そう来る?」

「ダメでした?」

「ダメじゃないんだけど、ちょっと照れるな~。お姉さん、美人ですけどね」

「自分で言っちゃいますか」

「あ、ここで来るのか~。不意打ちとは、なかなかでござる」

「くのいちですか?」

「今のは、お猿さんのつもりだった」

「猿……だったんですか」

「美人猿的な?」

「あ、なるほど」


   B


「あははっ♪ 先生と話してると、なんか楽しいかも」

「僕もです」

「あ、惚れちゃった?」

「……」

「あれ? その沈黙は、どういう意味になるのかな?」


・「惚れちゃいました」

・「なななな何言ってるんですか!?」

・「自意識過剰で引くわー」


「あの……ホワイトボードに何書いてるんですか?」

「これ? 見ての通り、選択肢」

「(だから〈セレクションメーカー〉なのか)念のために訊いておきますけど……僕用の選択肢ですか?」

「そうだよ~。ほら、ギャルゲーの主人公になった気分で。目の前に選択肢が出現した気分で」

「ギャルゲーの主人公って、選択肢を視認してるんですかね?」

「どうなんだろうね~? 細かいことは気にしない気にしない。それじゃ、さっきのシーンまで戻すね。──あははっ♪ 先生と話してると、なんか楽しいかも」

「えっと……僕もです」

「あ、惚れちゃった?」

「……」

「あれ? その沈黙は、どういう意味になるのかな?」


・「惚れちゃいました」

・「なななな何言ってるんですか!?」

・「自意識過剰で引くわー」

・「濡れちゃいました」


「1つ増えてるんですけど……」

「増やしてみちゃった。時間制限なしだから、どれか1つを選んでね~」

「えっと……。『惚れちゃいました』で」

「え? それ選ぶんだ?」

「消去法……的な?」

「ふーん。お姉さんは、4つめの選択肢を選ぶのを期待してたんだけどな~」

「僕、男なんですけど……」

「もしかして、えっちな意味の『濡れる』だと思っちゃった?」

「え? 違うんですか?」

「先生、えっちなんだ~」

「からかわないでくださいよ……」

「あははっ♪ 年下の男の子って、からかいたくなっちゃうんだよね~。あ、今さらなんだけど、お姉さんより年下だよね? 先生の年齢、教えてよ~」


・25

・35

・45


「……ここでも選択肢が出るんですか」

「好きなの選んでね~」

「25で」

「25でいいの?」

「いいも何も、実際に25ですし」

「そうなんだ~。やっぱり、お姉さんの方がお姉さんだ」

「僕が24とか26とかだったら、どうするつもりだったんですか?」

「あ、考えてなかった。結果オーライってことで」


   C


「ところで、結城さん」

「何?」


・「僕の童貞をもらってくれませんか?」

・「僕の筆下ろしの相手になってくれませんか?」

・「僕が30歳まで童貞だったら、魔法使いになれますか?」


「……『僕が30歳まで童貞だったら、魔法使いになれますか?』」

「先生、もしかして童貞なの?」

「…………童貞ですけど…………」

「やっぱり、そうなんだ~。先生、イケメンくんなのにね~」

「やっぱりって……。僕、童貞っぽいですか?」

「あははっ♪ 女の勘?」


・「僕の童貞をもらってくれませんか?」

・「僕の筆下ろしの相手になってくれませんか?」

・「僕が30歳まで童貞だったら、魔法使いになれますか?」

・「僕が40歳まで童貞だったら、魔王になれますか?」


「……『僕が30歳まで童貞だったら、魔法使いになれますか?』」

「魔法使いになるためには、素質が必要なんだよ」←キリッ

「はあ……そうなんですか」

「あははっ♪ それじゃ、童貞先生に、いいこと教えてあげる」

「いいこと?」


・「結城さんのスリーサイズですか?」

・「僕の童貞をもらってくれる女性の電話番号ですか?」

・「僕の筆下ろしの相手になってくれる女性のメールアドレスですか?」

・「人気作家になる秘訣ですか?」


「『人気作家になる秘訣ですか?』」

「あははっ♪ 人気作家になりたいんだ?」

「それは、まあ」

「でも、お姉さんが教えてあげられるのは、人気作家になった時の魔法の言葉くらいかな~」

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