第12章第2節:テーマ


   A


「各主人公の物語には、大きなテーマが1つ存在している。イザナキの物語は『国を作る物語』だった」

「イザナミを連れ戻したかったのも、国を作るためだったわね」

「スサノオの物語は『ネノカタスクニを目指す物語』だね。もっとも、そのシーンはないんだけど」

「アメテラスに会いに行ったのは、ネノカタスクニに行く前に挨拶しておくためでやんす。ヤマタノオロチを倒すのも、ネノカタスクニに行くために出雲に降りただけでやんす」

「降臨したのは、ヤマタノオロチを倒すためじゃないものね」

「オオクニヌシの物語は『国作りを完了させる物語』だった。ネノカタスクニに行くのも、そのためだったと言えるね」

「兄弟をやっつけて、オオクニヌシの国作りがスタートでやんす」

「ウサギを助けた話も、あれはネノカタスクニに行く前提の話だね」

「結婚したら兄に恨まれて殺されて……でやんすからね。スサノオの助けを得るために、オオクニヌシはネノカタスクニを目指したでやんす」

「国作りの前提がネノカタスクニ行きで、ネノカタスクニ行きの前提がウサギを助けることだった──。そういうことなのね」

「うん。そういうこと」

「国譲りをして、主人公はアメテラスの血筋になるでやんす」

「ニニギの物語は『命が有限じゃなくなる物語』かな。その前提が結婚で、結婚の前提として降臨がある」

「サクヤビメだけでなく、イワナガヒメとも結婚していれば……。でやんす」

「妹は美人で姉は美人じゃなかったのよね?」

「うん。それで、美人とだけ結婚」

「小生も、ブサイクと結婚するつもりはないでやんす。小生のようなイケメンには、美しい妻こそ相応しいのでやんすよ」

((イケメン……?))

「2人とも、どうかしたでやんすか?」

「い、いえ。何でもないです……」

「ホオリの物語は、『ワタツミの宮の物語』かな」

「釣り針を失くす話が、ワタツミの宮に行く前提になるわね」

「最後のウカヤフキアエズの物語は、『天皇誕生の物語』だね。天皇として即位するのは中巻だけど」


   B


「神田氏。最後に教えて欲しい事があるでやんす」

「何かな?」

「神田氏の論文は、参考文献が極端に少なかったでやんす。なぜでやんすか?」

「『古事記』のことは『古事記』の中に証拠を見出す──。それが、僕のスタンスだったからだよ。だから、先行研究からの引用はほとんどなかったんだ。論文を読まなかったわけではない。ものすごく読んだわけでもないけど」

「そう言えば……。神田くんの説明は、みんな『古事記』の中に証拠があったわね。『この研究者は、こう言っている』じゃなかったわ」

「『古事記』のことは『古事記』の中にある証拠が1番の証拠になるからね。『日本書紀』でさえも、あれは『古事記』と別物。『日本書紀』の理屈が『古事記』に通じるとは限らない」

「確かに、そうよね。『『古事記』にこう書いてある』が1番の証拠だわ」

「そうでやんすね。──感謝するでやんすよ、神田氏。おかげで、有意義な時間を過ごせたでやんす」

「それならよかったよ(打ち合わせの時間を削った甲斐があるってものだ)」

「神田氏。小生達はライバルでやんす」

「そうだね、橘先生(マンガでは、僕の方が後輩になるんだよな)」

「小生、負けないでやんす。──神田氏に負けない論文を書いてみせるでやんす!」

「……ん?」

「では、小生は行くでやんす。さらばでやんす!」←走り去った(意外と俊足)

「……ライバルって、マンガの話じゃなかったのか……」

「そうみたいね……」

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