第145話/あるあ……ねーよ

第145話


 キキ達から離れすぎないように気を付けつつ、俺は晩飯になりそうな食物を探し始めた。


「ない! ないいいいいィィィ!?」


 イモでもキノコでも食べられそうなら何でもウエルカムなのだが、どこを探してみても見つからない。あるのは干からびた草木や身長よりも大きな岩石ぐらいだった。


 夜中とはいえ月明りが荒野を照らし出している。晩飯探しに支障はない。

 ハイエナのように飢えた俺の眼球なら食物を見逃したりなんてしないのだ。


 本当にない。

 食べられそうなものが、何もない!


「ぐはっ。ふ、ふざけんなよ、少しくらい何かあるだろ!」


 小振りな岩を転がしてみて俺の空腹感は限界へ。そしてこの世界の創造主であるリアル著者に怒りが湧いてきた。俺は夜天を仰いで咆哮する。


「おい!! 食いモンの存在しないフィールドを創造するな!! そりゃあお前にとってこの世界はゲーム感覚でテキトーでいいかもしれないがな、現場は死活問題なんだよッ!!」




「――――ふぅん。お腹が減ってるんだ」





 すぐ背後からの声に、俺はギョッとして振り返った。

 あるべきはずの気配がなかった。

 ……そう、たとえるならそれは―――


 俺の背後に立っていたのは、以前出会った死人のような少女だった。

 ドレスとも着物ともとれる梅柄の黒服と目尻の蜘蛛の巣メイクが、夜陰と相まって不気味さを増していた。


「どう? 旅の方は順調?」

「……、」


 俺は言葉が返せなかった。少女がいつの間に現れたのか不明だった。彼女の傍には馬車も停めてある。どうやって物音を立てずに近づいてきたのか。


(い、いや。この少女も著者の創造物だとすれば、俺に察知されないように現れるのは造作もないことか……)


 となると、この少女が突然現れた理由は―――。


「お前……俺に食いモン、くれたりするのか?」

「あげないよ? 質問に答えてくれない人にはね」

「順調だったら空腹じゃないんだよ……」


 がっくり肩を落としつつツッコミを入れる俺。

 ……もっとも、謎の違和感を振り撒いているこの少女から食料支援を受けたいとは思わないのだが(不気味)。


 相変わらずこの違和感の正体が掴めない。掴めそうにない以上、あまり少女と関わりたくないのが本音だ。嫌なフラグしか立たないと確信が持てる。


「だが……そうだな。俺は無一文だし、借りを作るのは避けた方が良さそうだ。まして俺とお前は赤の他人だ、次に会えるかどうかも分からない」

「考え直すの?」

「ああ。じゃ、俺は晩飯探しに戻るんで―――」


 言うが早いか少女の馬車と反対の方向に歩き出す俺。そんな素っ気ない態度で別れようと試みる俺だが、意外にも少女からの呼び止めはなかった。


(……ううむ、どうも釈然としない再会だな? このあっさり感が逆に気になる。あの少女は偶然通りかかっただけで、特に目的なんてなかったのか……?)


 こういったイベントシーンは大抵、並行して何かが起きる合図だったりするものだ。

 むしろほぼ素通りとなったこの展開は、それこそ赤の他人らしいリアル感だ。

いわゆる『あるあ……ねーよ』から驚くほどブレていない。


(それとも、あの少女には警戒する必要ないのか? 外見こそ薄気味悪いが、王女コンビやナクコと比べたら全然無害な登場人物だ)


 まぁ今は気にしても仕方がないのだろう。そんなわけで俺は肝心の晩飯探しに切り替えるべく思考を断った。

 まさにその直後の出来事だった。


「ぐべぇ!?」


 突如何か硬い物質に足を取られ、豪快に地面へ倒れ込んでしまった。


「くそっ、場所が場所だけに石ばっか落ちてるな!……って、ん?」


 てっきり石かと思ったが、それは土の中でもぞもぞと蠢いていた。


「! ま、まさか魔物!? モグラ型オークッッ!?」


 貞操の危機が俺を恐怖で支配する。

 逃げる余裕すらない俺を嘲笑うかのように、それは地上へと現れた!




「ぴゅ~ん」



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