第140話/地ノ国へ
第140話
やられた! 完全に著者にやられた!
ああ、今回ばかりは嫌でも引き下がるしかない。
読者にも『まぁ普通こうなるわな』なんて納得されかねない急展開だ……。
ナクコの関与を伏せた嘘。
その嘘を吐き通した代償が、欠陥勇者―――。
「ぐ、ぐぬぬ……! グール族ごときも仕留められないで俺に魔王なんて倒せるはずねえよ、ってか!」
欠陥勇者と蔑まれても俺自身が否定できない。最悪、本物の勇者かどうか疑われてしまう。勇者になりたい他のヤツらから戦いを挑まれる可能性だってあるほどの酷いしくじりだ。
やはりもうこの国を出るしかない。
夜明けと共に俺が欠陥勇者だと知れ渡るのは勘弁だ。
「勇者として目立ちすぎると魔王ルートを選べなくなるかもしれないしな……」
当然、勇者ルートも簡単には棄てられない。
魔王を討伐すればどこかの国の王女をフィアンセに貰えるわけだ。
「まぁ王妃達が娘を報酬扱いすることに反発しているらしいが……まだ波乱のシナリオと確定したわけではないだろ。諦めるのは全然早い、ってなわけで」
俺はキキが寝泊まりしている部屋の扉をノックした。
すると間もなく彼女がその扉をカチャリと開け、
「……ようやく戻ってきたわね、ヘッポコ勇者」
「リーダーと呼べ……。……それで、ナクコの様子は?」
「ずっと眠ってるわよ。このまま翌朝まで眠ってるんじゃないかしら」
「……朝」
泣き疲れたんだから無理もないか。
だが―――。
「キキ、とアリスも」
椅子に座るアリスの姿も確認しつつ、俺は入室する。
そうしてベッドで静かに眠るナクコに目を落としながら、
「いきなりですまんがこの国を出るぞ。少し厄介な問題が発生した」
「……、はあ?」
キキが露骨に眉根を寄せた。
「待ちなさいよ。本当にいきなりすぎて鳥肌立ちそうなんだけど? ねぇアリス、あなたもよね?」
「ん、そだねー」
アリスは俺の思考がはっきりと読める。
なので事情は把握済みらしく、興味なさげな反応だった。
「えっ? もしかして今イラっときたのあたしだけ? あたしだけなの?」
「そりゃあねー。キキはもっと観光していたいからイラっときたんでしょ?」
「! か、かもしれないけど……そんなことよりもっ、」
キキがぐるんと俺に首を巡らせてくる。
「あんた、一体どんな厄介な問題が発生したってのよ?」
「ナクコが裏路地を破壊した」
俺は初めてキキにそのことを伝えた。
「あのリア充カップルを追っててな、裏路地に入ったんだ。そしたらグール族が現れて……ナクコがあの二人を助けなければマズい状況になったんだよ」
「ナクコがグールと戦ったの?」
「いや。戦おうとして張り切りすぎた。魔力で裏路地を瓦礫の山にしてしまったんだ。そして―――」
ここからが嘘だ。
「―――さっきそのことを王様に打ち明けたら、今すぐに国を出てってくれとお願いされた。ナクコを連れてな」
「……、ナクコが裏路地を破壊したから?」
「そ、そうだ。王様はヌコ族が犯人だってバレたくないんだろうよ。人間族とヌコ族の間に、余計な波風を立てたくないんだ」
「ふぅん、じゃあ王様は苦渋の決断だったのかしら……」
キキが考え込む仕草をする。
俺の言葉はすっかり信じ込んでいるようだった。
「分かったわ。王様に今すぐと言われたなら従うべきね。それがナクコのためだとも思うし。……あ、でも、アリスはどうするの?」
「よよいのよい。あたしも付いてくよん」
「そう。ならちゃんと王様に許可取っておきなさいよ? あなたが勇者……じゃなくて、リーダーの仲間として旅立っていいのかを」
「必要ないだろ」「要らないっしょ」
俺とアリスが即答でハモった。
王様からの許可が不要なのは明らかだった。
「だってパパ、あたしとツっきんに結婚して欲しいと思ってるし」
「ああ。娘を貰って欲しいと縋られたんで間違いないな」
「モチのロン、あたしはその気ナッシングだけど。バカバカしいし」
「ああ。もちろん俺は全力で拒否してやった。バカバカしいからな」
「いや……あんた達さ? あたしには一周回ってカップルに見えてるんだけど……?」
キキに呆れツッコミされたが、無視。
俺とアリスは前の世界から腐れ縁に等しい関係なのだ。
すでに気にするまでもないので、
「よし。お前ら大至急で旅支度を始めてくれ。次に目指す国は―――地ノ国だ」
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