第124話/リーダーの剣
第124話
ナクコには出立の準備が必要なので、明日から行動を共にしようと提案して別れた。彼女は今すぐでも構いません、と返事してくれていたが、先ほどの後片付けで汚れてしまった服や体を洗う時間も理由としてあった。
アリス王女の誘導の下、俺達は王城へと歩みを進める。
「そういえばあんた、勇者の剣はどうしたのよ?」
「そんなものは知らない」
「は……?」
キキが口をあんぐりとさせた。
何とぼけてんだこの勇者は、とでも言いたげだった。
しかしまぁ勇者の仲間として当然の反応ではある。
仕方なく俺は彼女に言い直す。
「いや、探してもらったんだがまだ見つからないんだそうだ。ヌコ族の本拠地はゴミだらけなんだよ」
「あー、そういうことね。なら隠し場所を知ってるのはツヨシって子?」
「そうだ。今お前が身に着けているその首輪がもたらした、ナクコとは別の人格だ」
王女コンビにはツヨシ撃破時に経緯を伝えてある。
キキが俺の話についてこれないことはないのだが、
「ナクコがツヨシを見限った以上、ツヨシに隠し場所は訊けない。……だからもう、勇者の剣はゴミに埋もれたままでいい」
「はあ!? あんた、自分専用の武器なのに手放す気だったの!?」
キキが苛立った口調で問いかけてくる。いかにも俺の正気を疑うかのような迫力だった。大通りを占拠しているレイヤーや絵描き達が何事かと注目してきた。
騒ぎになっては困るので、俺は努めて冷静にキキへ問い返す。
「おいおい、何をそんな怒ってんだよ? どうせあれは現魔王のおさがりなんだぞ? 持っててもいずれ本命の武器と交代せざるをえないんだぞ?……だいたいな、『命を懸けてまで取り返す価値はない』って言ったのは、お前だろ」
「もう命を懸けなくて済むから言ってるんでしょーが! ヌコ族に土下座してでも探しまくってもらいなさいよ!」
「ほほう。土下座、ね」
「な、何よ……?」
「そんなに勇者の剣が欲しいんだったら、元勇者志望のお前が土下座すればいいんじゃないか?」
俺は白い目でキキを見た。
すると彼女は図星だったようで狼狽え始めた。
「わ、わわわワケ分かんないんですけど! あれは勇者のあんたが装備すべきで、勇者じゃないあたしには扱いきれない可能性が微レ存よ!」
「うん、お前の自信の程はよく分かった。そして俺のことはリーダーと呼べ。勇者の剣のことも、リーダーの剣と呼べ」
「リーダーの剣!? い、イヤよ、思いっきし劣化してるじゃないの!」
キキが反抗的でうるさい。
やはりこいつは国に帰して婚活させるのが得策か……。
と、先頭を歩いていたアリスが振り返ってくる。
「ツっきん、すっ~ごく、大変そうだねっ♪」
……哀れむような発言を、さも楽しそうに浴びせてきたのだった。
ともあれ、だ。
俺の思考を読める彼女には、すでにバレているに違いない。
―――勇者の剣を、リーダーの剣と呼ぶのは無理がある。
―――だから本音を言うと、勇者の剣は取り戻したくない。
―――もちろん勇者と名前が付く装備は全てだ。俺達から遠ざけておきたい。
―――しかし勇者装備を避けるように旅をすること自体が困難なのだ……。
「あは、あははー♪ 俺も死ぬほど大変だと分かってきて、逆にとっても楽しくてしょうがないんだゾー!」
「!?……あ、あんた、頭大丈夫……?」
突然の俺のキャラ崩壊に。
キキが幽霊でも目撃したかのようにゾッとしていた。
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