リーダー!

田渕碧

1戦目

リシュ編:失敗例

(勝った……!)

 心の中で勝利宣言をする赤い髪の男子生徒は、その心の声を表現するかのように小さく握り拳を作ってガッツポーズする。通りすがりの生徒がその動作を見て不思議そうな視線を送ったが、その赤髪の男子、リシュは全く気にした様子もなく上機嫌で廊下を歩いていった。


 リシュが鼻歌交じりにとある教室に入ると、そこには一人の女子生徒と、二人の男子生徒が、教室正面の黒板に近い席に座っていた。リシュは改めて彼らを一人一人確認した。

 まず入り口に一番近い坊主頭が目立つ男子生徒を見る。

(オルド、爆発魔法を得意とする魔法使いで、俺のクラスの魔法使いとしてはトップの成績を修めている。汎用性の高い爆発魔法を最も知り尽くしている。地雷としてトラップを仕掛けて、敵を翻弄するのが楽しみだ)

 次にその隣にいる小柄で黒髪ショート、左手に巻かれている包帯が目立つ女子生徒を見る。

(クスネ、魔法無効化マジックキャンセルという極めてレアな体質を持っている戦士。魔法が使えないので、肉体強化系の魔法も使えないのだが、そのハンデを背負っていても戦士として十分過ぎる実力を持っている。魔法使い相手には絶対的な有利性を持っているから、相手の魔法使いはこいつに任せておけば万事オーケーだ)

 そして最後に入り口から一番遠い所でリシュの方には一切目を向けない、紫色のボサボサ頭の男子生徒に目を向ける。

(ルーヴィッド、俺のクラスでトップクラスの成績を誇る戦士。獣化という特殊な肉体強化魔法を扱っている。唯一こいつに勝ったことのあるクスネを同じチームにして不安要素も取り除いてある)

 三人の情報を頭の中で整理して、改めて勝利を確信してにやける。

(このチームならあのラスクにも勝てる!)

 ライバルとの二日後の勝負が楽しみになって浮かれ始めたリシュは、そのテンションを反映したかのようなステップで教壇に立ち、大きな声で三人に呼びかける。

「それではこれより、明後日の模擬実践に向けてのミーティングを始める!」

「おい、リシュ!」

 そのまま実戦時における作戦をリシュは説明しようとしたが、それを遮るようにルーヴィッドが吠えた。

「言っとくけど、俺はお前みたいな弱い奴の指示は受け付けないからな!」

 リシュは自分の説明を遮られたのと、相変わらずこっちを見向きもしないルーヴィッドの態度にイラッとした。しかしリシュはその態度の悪さを分かった上で彼をチームに誘ったので、怒りを表に出さない様に努める。口論しても時間の無駄だからと、ルーヴィッドの発言には反応しないことにした。すると今度はオルドが発言した。

「リシュ殿、拙者も一つ言っておきたいことがあるのだがよろしいでござるか?」

 先にこっちに確認を取ってくる辺りがルーヴィッドとは違うなと思いつつも、俺も自分の説明を先にしたいんだけど、という反抗心が芽生える。ルーヴィッドとは違ってオルドとは友好的になっておきたいので、何とかその反論を飲みこんで意見を聞く。

「拙者は今度の模擬実践では、爆発魔法を使わないで戦いたいのでござる」

「はぁ!?」

 余りにも想定外の発言でリシュは自分でも驚くような声を出す。その想定外すぎる提案にどう反応すればいいかわからず固まっていると、オルドはそのまま理由について語り出した。

「元々魔法使いとしての実力が伸び悩んでいると思って、去年の秋頃からは肉体の強化もしていたのでござる。しかし戦士組と直接戦う機会が無いために実戦訓練は今まで出来なかったのでござる。だがこの模擬実戦であれば戦士達とも戦えるでござろう。そこで自分が戦士としてどこまで通用するか確かめたいのでござる」

「……」

 特徴的な話し方で熱く語るオルドの姿とは対照的に、リシュは非常に冷めた目でオルドを見ていた。それは衝撃的な提案によるショックがまだ続いているわけではなく、オルドが本気で爆発魔法を使わないで実戦に臨もうとしている事がわかったからである。

(オルドがこんな風に熱く語るところとか初めて見たぞ)

 二日後の実戦までにオルドを説得するのに時間を使うべきか、それともそれを考慮した上で作戦を練り直そうか悩んでいると、今まで一言も発していないクスネが右手を挙げた事に気付く。

(おいおい、嘘だろ?)

 その時点でリシュは嫌な予感を感じ取っていたが、それが正しい事を示す紙をクスネが左手で見せる。その紙にはこう書かれていた。

『私は模擬実践中は相手を攻撃しないから』

 その文章を見た後でリシュはそれまでの鬱憤を全てぶつけるかのように大声で叫んだ。

「お前ら、自分勝手すぎるだろ!!」

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