来世転送-リブート-
雹月あさみ
プロローグ
プロローグ
俺は街灯がまばらな住宅街をひとり歩いていた。時刻は午前二時。
なるべく人目につかないよう遅い時間に家を出た。目的地は決まっている。神社だ。こんな時間に神社に行くなど、まるで丑の刻参りのようだ。まあ、理由は似たようなものではあるが。
西成陵町三丁目の角を曲がると、突如、道路の右側の敷地に鬱蒼とした木々が現れた。樹木の群れはその区画一角をすべて覆うようにあり、街灯がなく、漆黒の闇が広がっている。
道路と樹木がある敷地の隔たりは玉垣で区切られている。玉垣の一つ一つの石には、神社修繕に寄進したと思われる者の名前が刻まれているようだが、所々砕けてしまっていてはっきりと文字が読めないものもある。
その玉垣沿いを半分ほど進むと、「成陵御霊神社」と彫られた標石が立っていた。身の丈ほどの大きさの標石の横には、神社へと通じる随身門がずっしりと立っている。鳥居は見当たらない。
木造立ての随身門は一層構造でそう大きくはない。扉はついていないので、この時間でも境内に入ることができる。随身門の左右の柱には、弓矢と剣で武装した武士像が安置されており、暗闇の中ではその姿はわずかな輪郭としてしか認識できないが、目だけははっきりとこちらを見ているのが見える。白と黒で目の部分のみ塗装が施されていて、鬼のようにぎろりと見開いた目がこちらをじっと見つめている。今にも動きだし、神社への侵入を阻止するべく攻撃してきそうだ。
俺は左右の武士像を脇目に随身門を足早に抜けた。
本殿からろうそくの揺れるような灯りが漏れている。まだ誰かいるのかもしれない。
しかし俺の目的は本殿ではない。本殿に伸びる参道から脇へそれて、林の中に入った。
ポケットライトをつけて足下を照らす。目的の場所には舗装された道はない。
アレがここに祀られていることは知っていた。アレがどのような役割をするのかもある程度知っていた。ただ、それは歴史的文献によるもので、実際にそのような効果があるのかは分からない。いや、ないだろう。全くもって信じがたい。単なる祭事用の鏡にすぎないのだ。しかし、それでも試してみたいと思った。何かが変わるなら、試す価値はあるのだと。
昼間に下見をしていたから、迷わずに目的の場所についた。そうでなければ危うく暗闇の林の中で迷うことになっただろう。
目の前には古びた小さな祠がある。俺は格子状になっている扉に手をかけた。ギィーと軋む音がして、扉が開いた。中から目的の鏡を見つける。あったぞ。鏡を手に取り、鞄からペットボトルを取り出す。
今夜は月が綺麗だ。林の間から煌々と輝く月が見えた。俺は早速、儀式を始めた。
死者を生き返らせる儀式を。
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