金木犀の街 2
事態が動いたのは夕方過ぎのことだった。休み時間中に兎我野に呼び出され、恵子たち三人は日が沈みかけているころに文化部棟へ向かった。
兎我野は厳しい顔をしながら、ノートパソコンに向かい合っていた。三人に気がつくと、挨拶もそこそこにさっそく話し始めた。
兎我野によると、昨夜、新たに二人意識不明者が出たと言うのだ。
「――しかも、二人同時に同じ場所で」
「場所はどこなんだ?」
「成陵中央総合病院です」
「いずみちゃんが入院していたところだ」
「意識不明者のひとりは看護師で高岡由香、もうひとりは――」
「高岡って、いずみちゃん!」
「あぁ。私が入院してた時の担当の看護師だ」
いずみの退院の日に病室で会った看護師が高岡由香だ。奈津美と同じ名字だという話をした記憶がある。しかし高岡由香がどんな顔だったか覚えていない。
「じゃあ、もうひとりってのは?」
「もう一人は医者です。須藤亘」
自然といずみの方に視線が集まる。
「そいつは知らんよ」
兎我野の情報によると今日の深夜二時過ぎに、病棟の廊下に須藤が、同じ階のナースセンターに高岡が、それぞれ倒れていたそうだ。
情報源は兎我野の古くからの知り合いで成陵中央総合病院で働く看護師からだそうだ。看護師が見回りに出た時に発見したとのことだった。
院内で同時に二人も意識不明になったことから、当初、院内感染を疑った。しかし検査の結果、二人から危険なウイルスは検出されず、原因は不明のままとなっている。病院としても通常の患者扱いとして対応しているようだった。
現時点で病院側の過失はなにも発見されていないが、万一のことを考え、あまり事を荒立てたくないらしい。もし事件性があり、犯人がいるのであれば内密に調査して欲しいと、看護師から兎我野に話があったそうだ。
「どうして一教師に、犯人捜しを依頼するんだ?」
「彼とは古くからの友人でしてね、お互い信頼できる存在なのです。他の意識不明者の情報も彼経由で照会してもらいました」
「ふぅん。監視カメラとかなかったのか? 病院だろ?」
「あるそうです。しかし、ただの看護師が簡単に見れるものではないので、入手に手間取っているようです」
「その看護師さんに詳しく聞いてみる必要がありそうね」
「ええ。それでキミたちを呼びました」
三人揃って五時間目の英語の授業をサボった。英語教師の西村は温厚な女教師なので、何とかなるだろう。それよりも勘の働く本庄優が心配だった。後で根掘り葉掘り訊かれそうだ。
兎我野の軽自動車で成陵中央総合病院へ向かった。病院へ来るのはいずみの退院の日以来だ。
点滴をしている患者、車いすの老人、寝間着姿の少女、医療器具の営業マン。白衣の医師、清掃員。総合病院とだけあって人が多い。
――矢島先生、矢島先生、薬剤部までお越しください。
院内アナウンスが流れる。人が多い割りに統制のとれた静かさを保っていた。
兎我野に連れ立って六階のナースステーションへ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます