成陵御霊神社 12


 恵子たちは翌日から早速、砕焔討伐に向けて動き出した。日中は通常通り授業を受けながら、意識不明者の情報収集に当たった。授業を受けている場合ではないと思ったのだが、兎我野からの指示で「鍾馗鏡を盗んだ犯人が誰であるか分からない以上、極力普段通りの生活をしたほうが良い」とのことだった。

 また、香奈枝からも「夜でないと鍾馗鏡は使えないため日中はそれほど進展しないだろう」とのことだ。

 コピーを取った意識不明者リストには二人の人物が記載されていた。

 恵子は学校一の情報通である本庄優から情報を得ることを提案したのだが、いずみにより却下されたため、自力で探すことになった。

 一人目は、赤羽拓人、男性二十歳。成陵大学経済学部の二年生。

「おにいちゃんと同じ大学だ。学部は違うけど学年も一緒だよ」

「恵子ちゃんのお兄さんに聞いたら何か知っているかもね」

「ねぇ。あんたたち、さっきの話聞いてた?」

 いずみが細い目で睨む。

「あ、うん。誰がどこで犯人と繋がっているか分からないから、まずは自力でって」

「そう。だから他人に訊くのはダメ」

「……はい」

 リストには簡単な情報が記載されていた。

 赤羽拓人は、夜の二十三時過ぎ、住宅街で倒れていた。それを通りすがりの男性が見つけ、救急車を呼んだそうだ。場所は成陵御霊神社からさほど遠くないところだ。現在は、成陵医大で入院している。外傷もなく、呼吸器官などにも問題なく、意識だけが戻らない状態であるという。

「なるほどな。二人目はどんな人?」いずみが尋ねる。

 恵子は二人目のリストを読み上げた。

 二人目は、後藤よし子、女性七十六歳。岩下町の自宅で意識不明になっているのを弁当配達員によって発見された。後藤よし子は毎日の昼食に高齢者向けの配食サービスを利用していた。配達員がいつもどおり昼十一時四十五分ごろに弁当を配達に行った際に、玄関の磨りガラス越しに人が倒れているのを見つけたそうだ。発見当時、玄関のカギも開いていたとのことである。後藤よし子も、目立った外傷などはなく、意識だけが戻っていないとのことだ。近所の松尾病院に搬送されている。

「一人目と二人目の発見場所がだいぶ離れてるね」

「そうだな。御霊神社から岩下町って直線距離でも十キロは離れてるだろ」

「年齢も、性別も、発見場所も、共通するとこはないね」

「つーか、兎我野のヤツ、よく意識不明になった人を見つけ出せたな。市内全部の病院にでも問い合わせたんか?」

「確かに……。やっぱり兎我野が怪しいとか」

「んー。分かんねぇな。昨日神社であそこまで話してるからな」

「恵子ちゃん、鍾馗鏡のこと調べた時みたいに意識不明になっちゃった人をインターネットで検索してみたら、なにか出てこないかな?」

「おぉ。そうだね」

 恵子は早速スマートフォンを取り出す。

 検索画面に「赤羽拓人」と入力し、検索した。すると検索結果画面にいくつか情報が出てきた。その中のひとつにSNSサイトのプロフィール画面があった。

 プロフィールを見てみると、成陵市に住む大学生二年生との記載があることから、同一人物で間違いなさそうだ。プロフィール画面には本人と関係のあるタグがいくつか記載されていた。成陵大学、経済学部、ロックバンド、ライブハウス、家庭教師、ロサンゼルスなど。

 プロフィール画面以外の公開範囲が友達のみに設定されているらしく、詳細情報は得ることができなかった。

 二人目の後藤よし子については、インターネット検索しても、本人と思われる情報は一切出てこかなかった。歳が歳だけにインターネットとは無縁なのだろう。

「うーん。あまり成果ないね……」

 早くも行き詰まり感を覚えた。

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