第3話 心を一つに
えみるを無事送り届けた翔が帰宅した。
翔に詰め寄るホストの面々。
それを遠巻きに見つめながら、通常業務に勤しむ黒服たち。
「しょ、翔さん!どういうことですか?!」
動揺を隠せない勇人。
「相手はライバル会社の息子ですよね?」
確認を怠らないあかり。
「どうやってお嬢様守るんですかぁ?」
自分に何が出来るかわからない理。
取り敢えず、矢継ぎ早に言われても困るので、翔は皆に静止を掛けた。
「いきなりで俺も整理がついてないんだ。焦らず、一緒に考えよう。
それにまだ皆に話さないといけないことが……。
だけど、先に確認したいことがある。
答えによっては長引くかもしれない。
それくらい重要な話だと思ってくれ。」
流石に皆、黙り込んだ。
いつも冷静なリーダーが困惑気味に言うのだから、誰も何も言えない。
「じゃぁ、一人ずつVIPルームで話そう。先ずは、勇人。」
「え?あ、はい…。」
翔は目をあからさまに不安顔の勇人を連れてVIPルームへと入っていく。
「オーナーは無謀だからなぁ…。流石の翔さんも困ってるみたいだな。」
真聖はソファにもたれながら、煙草を加える。
ナチュラルにあかりが火をつけた。
「…お嬢様、可哀想ですよね。
いきなり何も告げられずにこのような場所に呼ばれること自体、よくわからないでしょうに…。」
女性に無条件に優しいあかりだが、当然の対応だろう。
「放送回数が減ってましたからねぇ。何かあったのかもしれないっすね…。」
きゅうんと子犬のように縮こまる理。
「彼女も人間ですから。だけど…、俺らの知ってる『えみるん』らしくなくて、何か…大人し過ぎましたしね。」
話ながら、真聖は転た寝を始めた。
数分して勇人が戻ってくる。
何を話したのか、少し戸惑った顔をしていた。
「…浮かない顔ですね?」
いつものようにからかうわけにはいかない。
「何か怖いなぁ…。何聞かれるんだろう。」
理はぷるぷるしながら、勇人をみやる。
「ん~…、何ってほどでもないようなあるような?
理…、次はおまえだとさ。」
「うへ…。マジっすか…。行ってきますぅ。」
しょぼくれながらVIPルームへと重い足取りで向かう。
目の前なのに、遠い気がした。
「理、行ってらっしゃい。」
あかりが優しく笑いかける。
緊張をほぐせればと。
「ふぁ~い…。」
あかりの気遣いもあまり効果なく、子犬のようにしょげてノックし、入っていく。
「そういえば…星兎と太騎はどこに?」
二人の姿がないことに今更きがついたあかり。
「ああ、今日は非番から終わったと思って帰ったぜ。
あいつら楽観的だからな。非番は仕事と関係なくナンパしたがるのは頂けないなぁ…。」
吸い終わった煙草を消し、マイペースにまたくわえる。
またあかりが火をつけた。
「あれ?真聖さん、寝てたんじゃ?よく煙草大丈夫でしたね…。」
転た寝しながらも煙草を落とさないヘビースモーカー。
…どうでもいいスキル。
「ああ、暇だから寝ようとしていただけ。」
話している間に理が戻ってくる。
勇人以上に複雑な顔をしていた。
「楽しくない話のようですね。」
理の顔を覗きこむ。
「だ、大丈夫っすよ。ちょっと考えてただけです。
あ、真聖さん起きてたんすね。次は真聖さんだそうすよ。」
真聖を真っ直ぐ見ながら告げる。
「…分かった。」
吸い始めた煙草を消し、向かう。
「ランダムのようだけど…。理、星兎と太騎を呼び戻して下さい。」
「え?あ、はい。」
あかりの言葉に慌てて携帯を取り出し、星兎にかけ始めた。
「あ、星兎さん!お休みかもしれないですけど、まだ終わってないみたいっす。
太騎さん連れて戻って下さいっす!はい、ありがとうございます!」
すぐに繋がり、要件を伝える。
「これで揃いますね…。」
溜め息を溢す。
然程遠くにいなかったらしく、真聖が出てくるのと同時に二人が帰宅する。
「んだよぉ…。折角、可愛い子ちゃんに声掛けようとしてたのにぃ~。
ま、お嬢様のが可愛かったけどぉ~。」
「…翔さんのお話をちゃんと最後まで聞いてからまた行けばいい。
しかし、さっきのは…ギャル。はずれだ…。
確かにお嬢様は可愛かった…。」
「だぁからおまえは堅いんだよぉ。要はノリだっての!
…だろ?あの可愛さで三十路手前とは、たまんないね!」
帰るなり星兎が喧しい。
「…煩いですよ?」
笑顔の圧力。
「「…すみません。」」
逆らえない二人は謝るしかない。
「…いいか?無駄にテンション高い星兎。
次はお前だ、翔の所に行け。」
助けなのか否か。
空気をものともせず、真聖が声をかける。
「あ、はぁい。」
生返事をし、けだるそうに向かう。
「この分だと僕が最後かもしれませんね。」
あかりが、苦笑いをする。
「あれ?高多さんたちは?」
変わらない黒服たちを見渡す理。
「俺たちホスト陣がメインなんだろ。
受付の高多さんやホールの奴らは殆ど空けられない立場だ。
聞かれる内容は皆一緒だろうし、サポートならあまり必要ない。」
気だるそうに説明してくれる。
「何かの確認作業ですか?」
「まぁ、そんなところだな。」
話している間に星兎が出てきた。
何故かふてくされている。
「元気な星兎まで黙るとはね…。何を聞かれるやら。」
「空哉、次おまえ~。」
テンション低く、空哉を呼ぶ。
「あ、俺?はい、わかりましたー。」
二人の会話についていけていない分、素直に向かう空哉。
……一分もしないで戻ってきた。
「何かあっと言うまでしたねー。あ、太騎さんどうぞー。」
何事もなかったかのように。
「…分かった。」
そのままソファに腰掛ける。
「まぁ、十人十色と言いますからね。…やっぱり僕が最後ですか。」
「内容の解釈次第じゃないですかね。」
太騎もすぐに戻ってくる。
「…あかりさん。」
「ええ、行きましょうか。」
笑顔のまま扉の向こうに消える。
…体感だけではない。
実際にあかりだけ数十分出てこないでいた。
「同じはずなのになぁ…。」
困惑している理や皆の心配を他所に、やっと顔を出す。
いつもの優しい笑顔のまま。
「おまたせ。」
「…おまえはいつも無駄話が多いんだよ。どっちが聞いてるかわからないじゃないか。
さて、確認は完了だな。」
皆をソファに座らせ、再度口を開く。
「皆を疑うような真似をして澄まなかった。
ただ、皆の気持ちを確認したかったんだよ。
『オーナーに感謝しているか』、『オーナーへの正直な気持ちを教えてくれ』。
俺たちは理由は様々だが、一人一人オーナーが居なければ…路頭に迷っていた。
皆、感謝していることが解って良かったよ。
二点目は様々。俺自身、不審に思っていたお嬢様のことだ。
大半は『イマドキ珍しくない』との返事だった。『オーナーは過保護』ってね。
さっきお送りしたときにも塞ぎ込んでいてね。
俺だけが決めるわけには行かないから意見を求めようと思ったんだ。
協力していかないとならないから。」
なにかを含んだ物言いに皆が翔を見た。
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