エッセイ 朝

目が覚めた。

目が覚めたというよりも寝ぼけ眼でふらふらと歩いているのと等しい。これはもう一度布団の中にダイブしそうだ。

そう思いながらもふらふらと立ち上がり、部屋とダイニングのはざまの引き戸をガラガラと開き、キッチンへ向かう。殺風景な部屋にいままの部屋の様子をイメージさせながら、シンクの前に立つとコップを取り水を入れた。

ドバドバと蛇口をひねりすぎて多く水が出るが、私はそれをうまい具合にコップ一杯に入るように調節した。

茶色と黄色のマグカップ。一人暮らしを始めるときにロフトで一目ぼれしたものだ。

カップの底にはバナナが描かれている。茶渋が付き始めると熟したバナナになるところもなんだかおもしろいと思う。

そのお気に入りのカップで水を一杯飲み、軽く口をゆすぐと、真横の玄関に手を伸ばした。開けると日差しが温かくまぶしい。今日は花粉の猛威に充てられるなぁと思う。

ゆっくりと閉まるドアを無理やり引っ張り締めて、ドアについている郵便受けを開ける。

バサバサバサ

詰め込まれすぎた広告が流れ落ちてきて私は大きなため息をついた。

誰が読むんだ新聞の勧誘広告。同じものが二枚も三枚も。これはノルマを達成するために独り暮らしの家にぶち込んだとしか思いようがないほどの新聞勧誘広告の山山々。

そういえば引っ越してきたときに、新聞屋のおじさん「ノルマがあってどうしても新聞取らないといけないから助けてくれ」と尋ねてきたときがあった。

田舎から出てきたというそのおじさんは鉛もなくきれいな標準語をしゃべっていたところから営業も「嘘も方便」かと、あきれて断った記憶がある。

その会社の新聞勧誘広告の山。

私はそれをまとめ、紙ごみの山にどんと置いた。必要なものは何一つないから困ったものだ。

けれど、その山の中に紛れ水道電気ガスの明細表が紛れていたりするのだからそれもまた困る。

大きなあくびをして部屋に戻ると、布団が私を呼んでいた。

ここだよ。君はここに戻るんだ。

そんな声が聞こえる。私の体にすっかりくたびれたマットレスと敷布団。それはそれは体に合って眠ったらもう気持ちがよいだろう。けれど今日はこれから用事があるのだ。

そしてなんだか少しおなかがすいてきた。

私は、お布団に戻りたい気持ちをぐっと抑えて、逆にお布団を整え始めた。四方をピッピッと引っ張り伸ばし、枕が傾いているのも直角に直し。布団の上にかけてた断熱毛布をきれいな伸ばす。

こうすることで眠りへ向かおうとしている心的状況を回避して、次は着替えに映れるのだ。

今日はサルエルとパーカー。毎日サルエルとパーカー。

だって楽。サルエルって又下がダボダボしているズボンのことを言うんだけれど、これをはいていると足が短いのもばれないし、決して長いのを主張していることもない。

そして何より楽

髪の毛は梳かし、高い位置でポニーテールを作りターバンを巻く。伸ばし放題のこの頭を落ち着かせるためにはターバンが必須なのだ。今日は赤いターバンにしよう。前髪をかき上げるとホッとする。

体全体がアジアンテイストになったところで、ご飯をどこで食べようか考える。

冷蔵庫も洗濯機も引っ越しの業者さんに持っていかれて、食べるものは何もない、あるのはコーヒーだけ。それもこの後持っていってしまおうとしているから使うのは忍びない。

今日の朝ごはんはカレーにしよう。 それは名案だ。

頭の中で勝手に提案して勝手に応対する。今日はなんだかご機嫌なのかもしれない。


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