君の頭上に幸せの雨が降りますように

開運犬

第1話



「いつかやると思っていたがこの悪童がとうとう人殺しまでしやがった!」


多くの憲兵に囲まれて体に縄を巻きつけられた男の周りには野次馬が囲んでいた。

縄を巻かれ地に伏せられた男の周りはみな男を捕まえた兵と同じような嫌悪を秘めた瞳ばかり。誰一人として男がなぜこんな凶行に及んだのか。彼の生い立ちを知ろうとするものなどいなかった。


小さな町から売られるようにして出てきた少年だった男が雇い主を殺した。

その程度のことに野次馬根性が沸いて見に行くものはいても深くその犯人までに心情を巡らせる者などいない。


唇を一文字に引き結んだ犯人たる男は凶行時の激昂が嘘のように今はただ無言を貫いた。自分に向けられる嫌悪と蔑みの目も真っ向から受け止め

まるで野生の肉食獣のように煌々と目を光らせる犯人に見物人の何人かは恐れをなして目を反らした。


その内、座らせていた男を立たせると牢へと引っ立てるために立ち上がらせられる。

大人しくそれに従った男だが、ふと道端に咲く雑草が目に入ると目を緩め、

何事か呟いた。


「やったよ、兄ちゃんは。敵をとった」


男が呟いた言葉をいったい誰が聞き取っただろう。



後に数奇な運命が巡る、その中心にいるこれが男の始まりである。



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