第7話


太陽の下に干したシーツのにおいは幸せの匂いがする。

誰が言った言葉か、定かではないが少年もその言葉に賛成する。


少年には両親がいた。優しい両親が。彼が10になるまではどこにでもいるそんな優しい両親の庇護下の許、一つ年下の妹とともに普通の子供として育った。


妹は少しお転婆で、兄の言うことを聞かない聞かん坊のところがあったが、それでも両親の頼み事は良く効くし、素直な子供なので厄介だと思ったこともない。


たまのおねだりもかわいいもので川で一緒に遊んでほしいや

魚釣りの仕方を教えてほしいなど、微笑ましいものだった。


同年代の友達が少ない少年にとって妹はわずらわしいものではなく、時に同等の遊び相手であり、時に守ってやらなければと思わせる庇護欲の湧く雛のような存在でもあった。


それが一層強くなったのは、二人で支えあっていかなければならなくなった日からだった。貧乏な村、とそこまではいかないが普通なのどかな村だったがはやり病が襲えばいっきに住民を失い、村は寒々しくなった。

両親を失った兄弟はすぐに親戚が引き取ることになったが、そこからが苦労の始まりだった。


最後にみた村は帰りたくなる故郷ではなくなっていた。

何人も働き手の大人を失った村は静かだった。同じように親をなくした子供もいたが両親そろっては少年の家だけだった。

簡単に埋葬と葬儀を終え、父の弟の住む町へと連れて行かれる。


父の弟、伯父やその妻の伯母には数えるほどあったことがあったがその子供たちとはほぼ初対面だった。居づらい無理やり他人を家族にねじ込んだようなような町での間借り生活が始まった。


子供はまともな働き手にはならない。それでも一生懸命、気に入られようと良い子でいる。それでも風当たりは大して改善されず、自分は12で妹は13でその家を出た。家を出てそれぞれに奉公先を見つけて住み込みで働く。


12で働き始めた自分は町近くに最初の働き場所に見習いとして仕事を見つけた。

妹は器量よしで町で簡単な通いのメイドの仕事を覚えると、すぐに町よりもう少し大きな街に出て、そこで受けた面接で大きな屋敷で働けることになった。


それが14の時で随分と給料が良いと喜んだ。


それが働き始めて数ヶ月、顔が翳り始めた。


自分はその間、妹には仕事もあるし仕事場が遠いので1,2回しか会えない。

いつも笑顔の妹が2度目に会った時、笑っているのに何故か儚げに見えた。

あの元気に走り回っていた妹が…。両親をなくし、親戚家族で肩身が狭くとも泣き言もいわない子に育った妹はいつの間にか心の感情を吐露することが下手な誤魔化すようにただ笑っている子に育った。


あの時の刹那に感じた不安はどう表したらいいものだろう。

しかし、会って話すのも許される時間は少ない。挨拶程度から近況を話して、妹は笑って再会を約束した。


あの子に兄としてもっと何かしてやれることはなかったか。

少年は過去(うしろ)を振り返りいつも思う。あの子がまだそうしてらいてくれたんじゃないかと。



少年は妹との優しい思い出の夢から目覚めようとしている。

だんだんに意識が上るにつれ、思い出したくないことが頭の中をよぎっていく。



『お前はなぜ生きている』


誰かが問いかける。


自分はなぜ生きている?



わからない。


少年は首をかしげた。自分は復讐を遂げた。その後は_________


妹の下へ行くつもりだった。


『哀れな、死にぞこないか。お前の体は意思に反して再生している』


それはなぜ____________________?











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