第36話 俺が俺である為に

 前回までのケイオスハウル!


 虚無教団テスタメント四大導師グランドマスターの内、ナイ神父、ミゲル、シャルルの三名による襲撃を受けた丹陽!


 単独でも一軍に匹敵する大導師の力を前に、丹陽は壊滅的な被害を受けてしまう!


 佐助とナミハナは大導師シャルルを打ち倒すものの、ミゲルを逃し、そして戦闘用化身“野獣”へと変貌したナイ神父の手によって絶体絶命の危機に陥る!


 二人の窮地を救ったのは以前から不穏な動きを見せていると噂されていたギルドNo.3“アマデウス”。


 戦闘は終わったものの、佐助は肉体の限界を迎え気絶してしまった。


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「知らない天井だ……」


 ベッドから上半身だけ起こす。


 俺が目を覚ましたのは明治時代の日本で建てられていた洋館を思わせる和洋折衷の部屋だった。


 技術的には西洋のものなのだが、細かなデザインに龍や猿といった日本的なイメージが取り込まれている。


 ここはナミハナの別荘か何かか? 


「失礼します」


 扉が開き、十歳くらいの割烹着を着た少女が部屋に入ってくる。


「あら、お目覚めになったのですか?」


 少女は口を軽く掌で抑えて驚いた表情を浮かべていた。


「あの、失礼ですがどなたですか? 俺は佐々佐助という名前で湖猫をやっているのですが……」


「あらやだ! 存じておりますわ佐助さん。わたしはリン、リン=カルタと申します。このお屋敷でメイドをやっている者です。気軽にリンとお呼びくださいね」


 少女はニコリと微笑む。優しげで、愛らしい微笑みだ。見ていると不思議と安心する。何故だろうか……初めて会った気がしない。


「わかりま……」


「もっと気安く♡」


 初対面の人間相手になんなのこの子……?


 だが異世界で無茶振りに慣れた俺を舐めないでもらおう。


「わかった。リンちゃん。此処は一体何処だ?」


 上手にできました!


「ギルドNo.3“アマデウス”様のお屋敷です。ところでお怪我の具合は如何ですか? いかんせん普通の人と治癒魔術の勝手が異なったものですから不安だったのですが……」


「怪我?」


 俺は自分の腹に左手を当ててみる。


 痛くもなんともない。傷口もきれいに塞がっている。


「…………!」


 大変だ。


 怪我どころではない。


 左腕にチクタクマンの入った妖神ウォッチがついてない!


「あら、治ったんですね! 良かった~! 心をこめて看病しましたから! これでも私得意なんですよ治癒魔術!」


 リンに動揺を悟られないように笑顔を作る。


「お陰さまで無事みたいだ。サイボーグにも治癒魔術は効くのか?」


「扱う魔術の性質次第です。私はそういうのも得意でしたから」


 リンはそう言って自慢気な表情を見せる。


 口調こそ大人びているが、本質は割りと子供っぽいようだ。


「ところで佐助様。お怪我の具合がよろしいのなら、主人に会っていただけませんか?」


「主人? アマデウスさんのことか?」


「ええ、主人は佐助様に興味があるのだそうです。なんでも虚無教団テスタメントを追いかける同志だのなんだのと……」


虚無教団テスタメントを知っているのか?」


「海賊退治を代わりにやってくれた恩が有ると申していました」


「海賊退治、あれか。分かった会おう。ところでナタリ……ナミハナは?」


「ギルドNo.10のナミハナ様ですか? あー……そこら辺の細かなことは主人の口から聞いた方がよろしいかと……」


「成る程、厄介な事態が起きているのか」


「察していただけたようで何よりです」 


「じゃあ案内してもらえるかいリンちゃん」


「勿論です! ちょっとアトゥ! 入って来なさい! 佐助様をアマデウス様のところまで案内して!」


「えっ」


 何やら今聞き覚えのある固有名詞が聞こえたぞ。


「はーい!」


 俺の嫌な予感は見事的中。


 ひっつめ髮にメイド服のアトゥがドアを開けて入ってきた。


「なんでお前ここで働いてるの……?」


「我輩、お嬢様のところクビにされちゃったのよ! そんな時にアマデウス様にここでサスケちゃんが目を覚ますまでとりあえず働かないかって誘われたから……」


 ということはチクタクマンも無事な可能性は有るのか。


 ここらで心配しておかないと流石に怪しまれるし、少し聞いてみるか。


「クビ……? それよりチクタクマンはどうした?」


「ケイお爺ちゃんからクビって手紙が来てそれっきりよ。チクタクマンについては我輩も知らないわ」


 アトゥが嘘をつくとも思えない。


 チクタクマンはアマデウスに囚われている可能性有りだな。


 となるとアトゥは俺を守る為に向こうにくみしている可能性も出てくるが……。


「話はそこまでです。ひとまずアマデウス様のもとへ向かってくださいませ」


 そう促されて俺達はアマデウスの居るという彼の工房へと向かうのであった。


********************************************


 アマデウスの工房は高校の化学室みたいな部屋だった。


 あるいは漢方薬店か。


 得体のしれない生物の標本、中にはまだ動いているものもある。


 あれはヴーアミ族の頭骨か? あれは深きもののホルマリン漬けか? 見ているだけで頭がどうにかなりそうな光景だった。クトゥルフ神話に出てくる様々な生物がそこでは只の動物扱いされているのだから。


 そして工房の主人がまた一層変わっている。


「やあ! ようこそ来てくれましたね佐助君……おや、リンはどうしたかな?」


 無地の仮面、白衣を改造したような白いローブ、頭を覆うフードのせいで髪の色さえわからない。


 声と背の高さから辛うじて男だということは分かる。


「リン先輩なら部屋に残ってたわ。案内を命じられたのは我輩だけ」


「そうか……まあそれなら良い。さてアトゥちゃん、只今を以って君はクビだ。佐助君の所に帰りなさい」


「やだ、我輩また無職!」


「給料出せないよ?」


「やだ、我輩ついに無給!」


 アトゥはこっちをジッと見つめて瞳をうるませる。


 何処の国の人間とも言えないその整った顔立ちで見つめられると、なんだか恥ずかしくなるのだが……まあ狙っているのだろう。


 そして彼女はそのつややかな桜色の唇から嘆願をこぼす。


「……でもね、我輩無給で良いの。だからサスケちゃん! 星の潰えるその時までずっと傍にBe with you!」


「ノーサンキュー! それ絶対意味違うだろ! 良いから大人しく帰って来なさい!」


「駄目だわ、メインヒロイン不在時に既成事実作成作戦失敗よ! これだから嫌なのよ機械に頼るって!」 


 アトゥは悔しそうにICレコーダーを床に叩きつける。絶対にそのICレコーダーに罪は無いと思うんだけど黙っておこう。


「ああ、でも一応使い魔再就職だけはしておくわね。我輩の本体、佐助ちゃんの体内に仕込んでるし」


「……というか有るんだ、この世界にICレコーダー。いや、それよりも……」


「我輩、サスケちゃんにずっとBe with youよ!」


 ああ~~~~こいつとしばらく二人旅かあ~~~~~!!!!


 助けて何処に居るかわからないチクタクえも~~~~ん!!


 君がいないからこの女に行住坐臥覗き見されるよ~~~~~!!


「……あの、アマデウスさん。会ったばかりで不躾なお願いかと思うのですが、今何が起きているのか説明していただけませんか?」


「ふむ、僕には邪神に迫られて追い詰められている若き魔術師が見えるね」


「ちがう、そうじゃない」


「ああ、そういうプレイ? いやー若いっていいね。僕も若い時は妻と熱々だったっけか……まあ頑張って歳とか種族とかの壁越えていけば良いんじゃないかな。人間って


 この仮面の男、フランクすぎないか?


「何おっしゃっているんですか……?」


 アマデウスはゆったりと頷くと工房の小さな椅子に腰掛ける。


「まあ冗談はこのくらいにして、座り給えよ」


 俺は大人しく工房の小さな椅子に腰掛ける。


「ざっくばらんに行こう。千貌導師マスター・オブ・ニャルラトホテプ・佐々佐助」


「なんですそれ!?」


 寝ている間に格好いい二つ名ついてる!


「君はニャルラトホテプの狂信者、そしてが沈没した事件の重要参考人として今は軍から追われる身の上だ」


「ああー……まあ、そうなりますか。そのリスクは踏まえて力を使ったつもりですし」


 虚無教団テスタメント大導師グランドマスター二人を相手にして、あの時のナミハナを守る為にはそれしか無かった。それに、俺一人だったとしても勝つ為に迷わずそうしていたことだろう。


 後悔は一切無い。


「冷静だね。そうだ、それで良い。合理的だ。しかもナミハナ氏を守る為にそうしたと聞く。理性と感情の融合、その先の自己犠牲……美しいよ」


「それよりもナミハナは……」


 そう言えばこの人、まるでシャルルみたいなこと言うな。


 まさか……まさか父さんって事はないよな?


 もしこいつが父さんなら―――――あれ?


「どうしました佐助君?」


 アマデウスが仮面の下から心配そうな瞳をこちらに向けている。


 うわさに聞くよりもひょうきんで、心優しい人らしい。


 そうだ、ナミハナのことについても聞かなくちゃ。


 なにか忘れているような……いや、今はそれよりもナミハナだ。


「ナミハナはどうなりました?」


「それについては僕でなく、もう一人の客人から説明してもらおう」


 ドアが開いて妖神ウォッチを左腕につけた少年が工房に入ってくる。


 レンだ。丹陽でダゴンとハイドラ相手に熱戦を繰り広げていたことまでは覚えていたが、無事だったのか……良かった。


「レン! それにチクタクマン……其処にいたのか」


 そして何よりチクタクマンだ! やったアトゥにこれ以上這い寄られなくて済む!


「あら、鉄と油臭いのが帰ってきたわね。せっかく我輩とサスケちゃんで二人きりだったのに」


「グッモーニンッ! 前回よりは早い目覚めだねサスケ! そしてアトゥ! 君は虚無教団が片付いたら真っ先に始末する! 覚悟しろ!」


「助けてサスケちゃん!」


「お前らちょっと黙ってろ……」


 レンも二柱の様子に苦笑いだ。


「ご無事なようで何よりです。佐助さん」


「ああ……その時計つけられるのか?」


 俺はレンの左腕を見つめる。


「ええ、僕も第四世代型エクサスの適合者ですから邪神による精神汚染への耐性はべらぼうに高いんですよ。今はチクタクマンさんに手伝ってもらってケイオスハウルの改修をしていました」


「ケイオスハウルを?」


「オフコース! これからの戦いは総力戦になるだろうからね!」


「ついでに僕のアステリオスも強化してもらいました」


「成る程、それについてもう少し詳しく……」


「後で機体はお披露目しよう! それよりもレンの話を聞いてやってくれないか?」


「レンの?」


「そうですね。佐助君、まずは状況の把握をすべきでしょう。レン君、先ほど相談したとおり佐助君に現状の説明を」


「ええ、分かりました。佐助さん、叔母さんが……ナタリア叔母さんが攫われました」


 ……なんだと?


「誰がやった。そいつを殺す」


 虚無教団の連中か。一体何が狙いで……まさか生け贄に?


 そんなこと絶対に――――


「相手は僕の祖父、長瀬重工現会長のナルニアです」


「……話だけは聞いた方が良いな」


 ナミハナのお父様なら一応挨拶とかしないと……。


「いえ、そもそも話し合いが通じるなら貴方の看病は叔母さんがしています。なのでやってしまいましょう。するとドサクサにまぎれて僕の父が会社の実権を奪い取れます」


 思い切り良いなこの十二歳!?


 雰囲気からしてその父親とかいうのはスゴク怪しいが、今の俺には選択肢が無い。


「成る程、それでナミハナが帰ってくるならなんでも良いぞ」


「話が早いですね君達!? 少し状況の整理とかしましょうよ!」


 アマデウスが何やら驚いた様子だ。


 しかし理由が分からない俺とレンは顔を見合わせて首を傾げる。


 この状況で一体何を迷う必要があるのだろうか……。


「祖父はナタリア叔母さんが家を出る時に条件をつけていました」


「ああ、それなら聞いたことがある。一度でも依頼にしくじったら家に帰って来いとかいう奴だな?」


「はい、丹陽の沈没を以て依頼の失敗とみなし、治療にかこつけて叔母さんを長瀬一族の屋敷に軟禁しました。湖猫ギルドによる再三の抗議も無視している状況です」


「あいつが大人しく軟禁されているとも思えないが……」


「祖父は我々長瀬一族において最強です。生身でも、エクサスに乗っても、それは一切変わりません。叔母さんが逃げようとしたところで、ラーズグリーズくらいなら素手で真っ二つにします。というかされてました」


 簡単に想像できるから怖いよ長瀬一族……。


「ケイさんは?」


「それが不思議なんですよね。意外なくらい大人しく祖父に従って……」


「……そうか、分かった」


 多分空気読んで俺が来るまで待ってるんだろうな。


「孫がこんなことを言うのもおかしいですが、ありゃバケモノです」


 なるほどね、ナミハナがゴリラならばキングコングって感じなんだろう。


「勝てるのか?」


「ええ、僕はナルニアの真名を知っています。それを佐助さんに教えれば、佐助さんが奴に魔術で対抗できる。魔術さえ通じれば!」


 成る程、ナルニアって妙な名前は仮の名か。


 日本からの夢見人だということはナガセという苗字から推測していたが、ナルニアというのはそういう事情だったか……。


「ニャルラトホテプの力で打ち破れる、か」


 レンは興奮した様子で頷く。


「そうです! 一緒に戦ってくれるよね、佐助さん!」


「勿論!」


 俺はレンと固く握手を交わす。


 隣でアマデウスはパチパチと拍手していた。


「お二人共話が早くて助かります。ただ、一つだけ聞かせて下さい」


「なんですかアマデウスさん!」


「長瀬会長の私兵集団はどう突破するおつもりですか? 長瀬重工現社長のユリウス様から、内通の用意は整っているとは伺いました。ですがそれだって動かせるのは会社の警備兵まででしょう。長瀬会長の抱える大量の私兵と、長瀬会長自身を同時に相手取る方法はお有りで?」


「あっ……どうしよう佐助さん」


「大丈夫だレン君。アマデウスさん、俺に考えが有ります」


「ほう、有るのかい? 聞かせてくれ」


「相手が数を揃えているならこっちだって揃えれば良いんですよ」


 それを聞くと、アマデウスが仮面の下でにんまりと笑った……ような気がする。


「長瀬会長の私兵集団と渡り合える人材を君が揃えられるのかい?」


「決して多くは有りませんが、事情を話せば手伝ってくれる仲間は間違いなく居ます」


「それでも足りないなら、我輩とチクタクマンが何か召喚するわよ」


「待てアトゥ、それは流石に足がつく」


 アトゥは頼りになるが、そういうところが大雑把だ。


 チクタクマンが無人機あたりを作ってくれるのではないかと踏んでいるが……。


「チクタクマン、どうだ?」


「安心し給えサスケ! 私もその辺りの問題に関しては既にレンと相談している。残る問題は予算だけだ」


「安心して下さいサスケさん。僕達にはスポンサーが居ます」


「スポンサー?」


「先ほどアマデウスさんも仰っていましたが、僕の父ユリウスも今回の計画に裏から協力すると。父にとっては祖父が目の上のたんこぶですから。それに……」


 レンはアマデウスの方をチラリと見る。


「ええ、ギルドも佐々佐助を旗印にナミハナ氏強奪を支援しますよ」


 アマデウスは頷く。


「ギルドも?」


「考えても見て下さい。我々湖猫ギルドとしてもナルニアの独断で戦力No.10を奪われたままとはいかないでしょう。お金やその他戦争に必要なものはユリウス様とギルドでサポートしましょう」


「予想以上に大掛かりな計画になっていたみたいですね……」


「遅かれ早かれ始まる戦いでした。このテートでも異世界から来た夢見人は政治的な勢力を強めています。そしてそれをよく思わない人々は多い。社会的に成功した夢見人の筆頭たるナルニア会長に不満の矛先が向かうのは至極当然のことなのですよ。そして都合よく君という代表者が生まれた。恋人を奪われた若き湖猫という被害者の代表が……ね」


 汚い話だ。だがそれならば納得はいく。


 内原さんの仰っていたテート及びアマデウスに絡む怪しげな影というのはこういうことだったのか。


「アズライトスフィアもそこまで牧歌的な世界じゃないんですね。足の引っ張り合いは世の常か……」


 だけど、その御蔭でナミハナを救うチャンスが手に入るというなら、いくらでも祭りの神輿になってやる。


「佐助さん。佐助さんの元居た世界がどんな世界かは知りませんが、人間の居るところなんて何処だってそんなものですよ」


「だよね……まあ良いさ」


 俺は俺の望むことをするだけだ。それが良いことだの、悪いことだの、そういう評価をするのは他人の勝手だ。


「――――ともかくだ。早速動かないといけない。アマデウスさん。これから言う相手と秘密裏に会う為の算段をつけてくれませんか?」


「良いでしょう。誰だか言ってみてくれないか?」


「まずはスポンサーのユリウスさん。ザボン島の湖猫のミリア=アルミリア=アストラル、同じくザボンのシド・マキシマ、それに……アヲノ。ギルドNo.7“魔弾”の弟子のアヲノを雇いたい」


「良いでしょう良いでしょう。このアマデウスが彼等と話す場を設けると約束する。だがそれだけではまだ足りない気がしますね」


「と、言うと?」


「僕からも人材を貸し出しましょう。先ほど君の世話をしていたリン=カルタというメイドが居たでしょう?」


「ええ、彼女がエクサスを?」


「優れた魔術師は同時に優れた湖猫たりえます」


 あんな小さな女の子が其処まで強いとも思えないが……アマデウスさんが言うならば信じるとしよう。


「分かりました。あと……紅蓮さんにもできれば会いたいのですけど……」


 レンが首を左右に振る。


「それはダメだ。母さんは今、軍の病院だよ。事情聴取を受けてるから。まあ刑務所じゃないだけマシさ。母さんは少数民族の生まれだから軍の中でもやっかむ人が多いし、ろくなことにならない」


「もしかしてユリウスさんが焦っている原因はそれか?」


「多分ね。無理にでも自分に権力を集中させて軍に働きかけるつもりだと思う。本人は絶対に否定するだろうけど」


「まあ素敵! 我輩そういうの憧れちゃうわ!」


「やめたまえアトゥ! 真面目な話し合いをしているんだ!」


「僕も……正しいかどうかは別として、誇らしいな」


 レンはボソリと呟く。


 チクタクマンが意外そうな表情を浮かべている。


「あら! あらあら! レン君ったら可愛いこというじゃない!」


「レンをからかうのはやめたまえ!」


「チクタクマン、それにアトゥ」


「ほら見ろ! サスケに怒られるぞ!」


「やだもう! 我輩はチクタクマンと違って浮気なんてしないわよサスケちゃん!」


 もうこれからやるべきことは決まった。


 この会話で最後に、そして再び歩き出す為に最初にやることを始めよう。


「今回の戦いは虚無教団テスタメントと関係が無いと思う、多分。ぶっちゃけ俺のミスの尻拭いだ。チクタクマンは勿論そうだし、アトゥにとっても別に参加して旨味の有る戦いにはならない。それでも来てくれるか?」


 チクタクマンとアトゥは珍しく顔を見合わせる。


 そして二人一緒にこれみよがしに溜息をつく。


「だってナミハナお嬢様ってば我輩のライバルだし」


「彼女は今後の戦いにおいても貴重な戦力となる! ここで救出しないという手は無いと思うが?」


「……そうか、ありがとう!」


 こうして俺は再び歩き始める。


 世界を守る為ではない。俺が俺である為に。


********************************************


 アマデウスの庇護の下、サスケは自らの協力者を集めるべく行動を始める。


「――――だからミリア、今回は助けてもらう」


「勿論であります!」


 斬魔機皇ケイオスハウル 第三十七話前編「集いし願いは光差す道となりⅠ」


 長き旅。その意味は今ここに。

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