第14話 激突、パルティアンショット!
時刻は午後三時。
ナミハナの城まで帰ってきた俺は自室に戻りベッドに倒れこむ。
今日は疲れた。本当に疲れた。
あの後運ばれてきた焼き立てパンとザボン島特産牧場しぼり牛乳も味がわからなかった。
きっとミリアも同じだっただろう。
「ああもう、ああもう! 今日疲れた!」
ベッドの上で独り言を呟いていると、俺の隣に誰かが寝転がる。
……誰?
「我輩も疲れたわー!」
お仕着せ(要するにメイド服)を着たアトゥだ。
とはいえ衣装を着崩して、オールバック(というかひっつめ)にしていた髪もおろしてしまっている。
完全にサボり中の不良メイドだ。
「ヘイ! アトゥ、君は何を当たり前のような顔でサスケの部屋に来ているんだ!」
左腕の妖神ウォッチの中のチクタクマンがアトゥを睨みつける。
そこまで邪険にすることも無いだろうに。
「固いこと言わないでよチクタクマン。我輩、あの執事のオジサマに厳しく修行をつけられてて大変なんだから!」
「アトゥ、お前……生きてるの楽しそうだな……」
俺はアトゥの楽しそうな横顔を見てポツリと呟く。
「どうしたの? 何か嫌なことでもあった? 今朝の敵は昼下がりの旦那様よ、手伝えることがあるなら言って頂戴ね?」
「いや、ちょっと今度仕事で組むことになった相手と喧嘩してしまってさ。しかもまだ俺より子供だってのに……」
「喧嘩? どうして?」
「それについては第三者として私が説明しよう。要するにサスケとその少女は生き方が全く違うせいでお互いの価値観を理解できていないんだ」
「成る程~じゃあ関わらなきゃ良いじゃな~い?」
「身も蓋もないことを言うんだな……」
「だってそうでしょう?」
「そんなこと、今更無理だ。今晩白黒つけようって言っちゃったしな」
「あら、喧嘩するの? 我輩そういうの良くないと思うわ。我輩のような人類とか家畜程度にしか思っていない
「それには同感だな。サスケ、君はあんな子供相手に何をムキになっているんだ?」
「俺は常に自分の考える最善手を指しているだけだ」
「正面からぶつかることが最善手だって言いたいのかい?」
「その通りだチクタクマン」
ミリアがナミハナの同類ならば基本的な思考は戦闘民族的なものだろう。すなわち“強い者を敬う”という思想が有る筈だ。
どう転ぶにせよ、相手にも思いを吐き出させ、俺も自分が甘いだけじゃないことを示す。その為には正面からぶつかり合うのが合理的だ。
命がけの仕事を一緒にする相手だからこそ、なあなあで対立を放置するのは得策とは思えない。
「はーい、我輩サスケちゃんに質問があります」
「なんだ?」
「サスケちゃんって我輩と契約したのは良いけど、まだ我輩の力で魔法を使えないのよね? 今晩その女の子と戦うっていうなら今のうちに覚えたほうが良いと思うわ」
「そうだな。それでお前と契約して何ができるんだ?」
「魔法は至って単純よ。《アトゥの招来/退散》及び《感覚共有》の呪文が使えるわ。サスケちゃん達が乗っているエクサスにどう活かせるかは分からないけれど、生身で使っても強力な呪文よ」
「いいや、アトゥ。それは私とサスケにとって非常に有益な呪文だ」
「あら、そうなの?」
「チクタクマンの言う通りだ。これでケイオスハウルの拡張機能が使える」
最初にミ=ゴの宇宙船で使ったあの機動戦艦ナデシ○のロボット……名前は忘れたけどあれに出てきたようなワイヤー付きロケットパンチを思い出す。俺は飛ばした腕を扱えなかった。
だがアトゥの補助が有ればこれが使えるようになるのではないか?
いいやロケットパンチだけじゃない。隠し腕なんかももっと自然に使える筈だ。
「まあ素敵! じゃあ早速練習をしましょうよ!」
「そうだな、ナミハナにシミュレータを借りてこよう。どうせ今晩使うんだしな」
「機体の調整は私に任せ給え」
「じゃあ俺はケイさんとナミハナにシミュレータの使用許可もらってくる」
「我輩は仕事さぼるー!」
「駄目だ。さっさとケイさんの所戻って仕事しなさい」
「うぅ……」
こうして俺達は晩の決闘の時間までケイオスハウルの調整を開始することになった。
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その晩。
俺とミリアはナミハナの立会の下でシミュレータの有る地下格納庫に集まった。
シミュレータはエクサスの胴体に有るコクピットだけを取り出したかのような巨大な筐体だ。
「いいこと二人共? 勝っても負けても恨みっこ無しよ?」
「シミュレータならば加減が要らなくて助かる」
「何時だって加減無しで戦うのがプロの精神というものであります。その甘ったれた根性を叩きなおしてやるであります!」
俺はさっきまで練習していた通り、シミュレータの中に乗り込んで操縦用のプラグを首のコネクタに接続する。
瞳を閉じて精神を集中。するとまるで本物のような蒼い海と幾つもの大岩、そして奥には洞窟が存在する入江が現れる。
ここが今回の戦闘ステージか。
GET READY!! の文字が目の前に浮かぶ。
「斬魔機皇ケイオスハウル! 出撃する!」
マギカクラフトエンジンが邪神の莫大な魔力を受けて大きく震える。
大瀑布を吐き出すような轟音と共にケイオスハウルは電子の海へと飛び出した。
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俺にはあいつが分からない。
あいつにも俺が分からない。
――――だからこそ、俺達は似ているのかもしれない。
さあ、剣を交わそう。
次回第十五話「熱闘、パルティアンショット!」
邪神機譚、開幕!
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