青+白=空

空音

プロローグ


 僕には最近日課ができた。日課というと少し違うかもしれない。

 例えばクリスマスの朝にサンタさんが、子どもたちを起こさないようこっそりプレゼントを置いていくように。またはテストが返却され、思った以上に悪い点数だったとき両親に見つからないように机の奥に隠すように。

 少しのスリルと何かを期待して行動する。


 朝起きると、天井には真っ白い空に烏が飛んでいるかのような黒い模様がある。白い格子の上の真っ白い布団を剥ぎ取り部屋を出る。

 建物独特の消毒液の匂いやその日の朝食であろう美味しそうな匂いを嗅ぎながら長い廊下を歩く。突き当りまで来ると屋上へと続く階段があり、非常口の人が書かれた鉄の扉を開ける。太陽の光で目の前が一瞬見えなくなり、まぶしさを我慢しながら外に出る。

 本来そこは立ち入り禁止の表示がされている。けれど鍵はかけられていないため誰でも入ることができる。

 僕は毎朝ここに来て日課をしている。

 朝の少し冷たい空気や朝日を感じながらここで写真を撮っているのだ。祖父がくれたカメラを使い、空や街並みを写す。最近は桜が満開を終え、花びらの舞う景色ばかりを写している。本当は輝く海や広い草原に出かけ思いっきりはしゃぎながら写真を撮りたい。

 けれども僕にはそれができない。

 僕の行動範囲はこの敷地だけだ。一年前から続いているこの生活にもだいぶ慣れ、暇をつぶすのも得意になりつつある。

 

 その日もことなく日課を行うつもりだった。けれど階段を上っていると話し声が聞こえた。どうやらその声は僕が向かう場所と同じようだ。少し迷った。もし関係者に見つかってしまうと今後使えなくなるかもしれないからだ。けれどその声はそんなものじゃなかった。

 まるで小さな子が迷子になり泣き出しそうになりながら母親を探す、そんな声だった。僕はすかさず扉を開けた。

 そこにはフェンスのはるか遠くを見つめ、独りで何かをつぶやいている少女がいた。風が強く、桜の花びらが舞い上がった。

 しばらくその様子を眺めていると、こちらに気づき顔をそむけてしまった。髪は肩より長く僕とは色違いのそれを着ていた。彼女はゆっくり顔を上げ、僕を睨みつけながらつぶやいた。

「…‥聞こえた?」

 朝のせいか、やけに透き通る声だった。頬は少し赤めいていた。

「何を言っているのかはわからなかったけれど…」そう伝えると少し安心したように彼女は微笑んだ。

 これが僕と彼女の出会いだ。




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