エピローグ

エピローグ

 ここは秘密基地の中。

 変身端末を開いた俺は、ある不可解な表示に戸惑っていた。


「……あれ? 隊長、どうしたんですか?」


 顔を顰めている俺に気づいてヒナタが声をかけると、なんだなんだと皆が集まってくる。


「うーむ。急にこの表示が出てきてな、何か入力しないと駄目らしい」


 みんなが見つめる変身端末には、以下のような文面が表示されていた。



 『公開するユニット名を入力してください』



「……公開……ユニット名……? どういう事かしら」


 クウが不思議そうに呟いた直後、みんなに向けてテレパシーが届いた。


「おめでとう。君達は一人前の魔法少女ユニットとして認められたんだよ」


 この声は、鳩野郎だ。


「――鳩野郎か? お前、俺達がゴルカッソスと戦ってた時何してたんだよ?」


「スタジアムには複数の魔法少女ユニットが集まっていただろ? ああいう時、我々は姿を現さないようにしているんだ」


「まったく……相変わらず胡散臭ぇ奴だな」


「勿論、君達の活躍はモニタリングさせてもらったよ。厳しい状況の中で、実に素晴らしい戦いぶりだった」


「ああそうかい。まぁそれはいいとして、この表示は一体何なんだ?」


「それは君達が、一人前の魔法少女ユニットとして『ワールドデビュー』するって事さ」


 鳩野郎の言葉に、俺を含め全員が声を揃えて驚いた。



「「「ワールドデビュー?」」」



「ああ。宇宙生物の危険度を示す☆の数。この☆五つ分の宇宙生物を倒すと、ルーキーとして非公開にされていたユニット情報が、全世界の魔法少女に公開されるようになるんだ」


「全世界に……? それで、一体何が変わるんだ?」


「より沢山のサポートをCのクオリアから受けられるようになるし、他地域における宇宙生物の発生地点や、その宇宙生物にどこの魔法少女ユニットが対応したのかなども、互いに閲覧出来るようになる。だからまずは、公開に備えて君達が名乗るユニット名を決めなくちゃいけないのさ」


「おい……三匹の宇宙生物を倒したら、それで終わりじゃなかったのかよ?」


「はて? そんな事は一言も言っていないよ」


「……おまえなぁ……」


 相変わらずのいい加減で趣旨不明な態度に俺が苛立っていると、珍しく、少しだけ優しげな口調で鳩野郎はこう言葉を続けた。


「何にしても、君達はこの街を守ったんだ。それは誇っていい」


「…………ふん……」


 俺は振り返り、三人に尋ねた。


「……それで、お前達はなんて名乗りたいんだ?」


 俺の質問に対して、三人は一斉に返事をする。


「えー? それ聞くのー?」

「隊長、いつものやつでいいですよ」

「別に、異存は無いわ」


 三人の反応を見て、俺はやれやれといった感じで変身端末に向かう。


「……これでいいか?」


 入力したユニット名を見て、三人は笑顔で頷いた。

 全員の同意を得た俺は確認ボタンをタップする。入力を終えると、今まで表示されていなかったボタンやウインドウが一斉に表示され出した。


「これは……魔法少女達の活動ログか? 知らない名前も沢山表示されている……」


「その通りだ。今は半径五十キロメートル圏内の活動ログが表示されているはずだ」


 鳩野郎の説明を聞いて、みんなが変身端末に記されたログを覗き込んだ。

 ログには、以下のように表示されていた。




・ルーキーが、ウズルズを撃破しました。

・三羽烏が、ザンダルフィアを撃破しました。

・ウズメ愚連隊が、セステトを撃破しました。

・ウズメ愚連隊が、総討伐数30を達成しました。

・三羽烏とルーキーが、ネプリフォーリオを撃破しました。

・暗闇ヲ纏ウ漆黒ノ哭竜奇士団が、バーダクローを撃破しました。

・木漏れ日一家と地球防衛部とチェルシー×2が、ボルドボーグを撃破しました。

・三羽烏とルーキーが、ゴルカッソスを撃破しました。

・姫結衣魔法少女隊が、ワールドデビューしました。




 遡ってみると、まだまだ沢山のログが記されている。


 それは俺達が経験した二週間より、遥か以前より紡がれてきた魔法少女達の活動ログ。魔法少女達の歴史ヒストリア


「わわわぁぁーっ。こんなに沢山の魔法少女が居るんだーっ」

「みんな、それぞれの街の平和を守っているのでしょうか?」

「姫結衣魔法少女隊が……ワールドデビュー……」


 普通の地球人が生涯知り得ないような世界が、そこには広がっていた。

 モニターに見入る俺に向けて、鳩野郎は更なる難題を提示する。


「世界中の魔法少女ユニットには、それぞれ管理者プロデューサーが居る。魔法少女は女、管理者は男というのがユニットの基本的な枠組みだ。君達『姫結衣魔法少女隊』がこれから魔法少女達の中で上手くやっていく為には、管理者であるタイトが他のユニットの管理者達と、上手に調整していかなくてはならないだろう」


 こいつ、本当にまだ俺に何かやらせるつもりらしい。


「はぁ……活動の事前調整するなんて、まるでアイドルのプロデューサーじゃねぇか……」


 頭を抱えながらも俺は先々の展開を、そして自分がこれから何をすべきかを考える。


 まずは他の魔法少女ユニットについて調べて、挨拶に行った方がいいだろう。

 新たな宇宙生物が発生した場合も、今後はこいつ等の安全を最優先にして、自分達の手に負える敵なのかを慎重に判断しなくてはならない……。


 もっともっと訓練して、三人の基礎能力を向上させる必要もあるだろうし、思念性トゥルパーズ古代遺物アーティファクトを含めた強力な衣装も探さなければならないだろう……。


 俺は思いつく限りの課題に思議を費やしていた。


「……まったく。とんでもない世界に踏み込んでしまった気がするぜ」


 そう呟きながら俺は、どうしてこうなってしまったのかと記憶を遡っていく。



 僅か二週間前、花火大会の帰りに俺が秘密基地へ行こうと提案した事。

 秘密基地への道中で謎の光を目撃し、自称宇宙人に誘拐された事。

 宇宙船の中で、魔法少女をプロデュースしろと言われた事。

 意外にも、三人が魔法少女になった事を喜んでいた事。


 初めての変身。

 ウズルズとの戦闘。

 ネプリフォーリオとの戦闘。

 クウのピンチと黒い魔法少女。

 サスライと共闘する為の猛特訓。

 そして迎えた、ゴルカッソス攻略戦……。



 指でモニターをなぞり過去ログを眺める俺は、もっともっと昔の記憶を辿っていく。そうして俺達が小学生だった頃にまで思いを巡らせていると、幼馴染三人が満面の笑顔を浮かべて俺の肩にもたれ掛かってきた。


「隊長ー」

「隊長っ」

「隊長」


 いつものように無邪気な声で、こいつ等は俺の事をそう呼んでくる。

 呼ばれた俺はいつも短く返事をするのだ。


「……おう」


 そして、静かに考える。

 こいつ等の幸せについて。


「……お前達を立派な魔法少女にプロデュースしないとな……」


 三人は俺が零した言葉を聞いて、少しだけ、しがみつくように指先に込める力を強くした。



 夏休みもまだ半ば。

 これからまた、一波乱も二波乱も何かが起こりそうな気がする。


 秘密基地の中。

 不安で一杯の俺を他所に、幼馴染三人は幸せそうに笑っていた。








           『Cのクオリア』第一部 魔法少女をプロデュース 完

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