みんなで紡ぐ物語 04

「確か四年生の頃だっけな。ヒナタが転入してきたのは……」


「うん。夏休みの直前だねー。あの時は本当にびっくりしたよー。だって突然『妹ができた』だよー? 普通は赤ちゃんが生まれたって思うのに、同じクラスに転校してくるんだよー?」


「はははっ。でもなぁ、一番びっくりしてたのは俺だぜ。出張先で突然親父が死んで、とうとう家族が誰も居なくなっちまったと思っていたら、今度は突然新しい母親と妹が引っ越して来たんだぜ? 悲しみやら、戸惑いやら、憎しみやらで、どうにかなりそうだったぜ」



 小学校四年生の時、俺の家の直ぐ傍に、ヒナタとその母親が引っ越してきた。


 引っ越して来た頃のヒナタは恥ずかしがりやで、俺に対してもずっと態度や口調がぎこちなかった。今じゃ想像し難いが、俺が話しかけても目線すら合わせてくれなかった程だ。


 だけど学校でツキコやクウを紹介し、その日の帰り道に秘密基地へ連れていってからは、まるで本性を現したように明るくなった。俺の事をタイトさんと呼んでいたのが、ツキコやクウと同じように『隊長』と呼ぶようになったし、裸足で秘密基地周辺を駆け回ったり、パンツ一丁で川を泳いだり、釣りや昆虫採集に行こうと頻繁にせがむようになった。


 妹というよりも、まるで弟か子分ができたみたいだった。


 きっとヒナタは、苗字が変わり、家族も変わり、住む場所も変わり、アイデンティティが定まらずに苦労していたのだろう。それこそ一年前のクウのように。だから俺の妹である事よりも、ツキコやクウと同じ幼馴染の一人として輪に加わる事を望んだのだ。


 ツキコやクウと同じように、互いに支え合って、笑い合うような関係で在りたかったのだ。



「お父さんから再婚したって話、全然聞いてなかったのー?」


「全っっ然だな」


「ひゃー」


「まったくあのクソ親父。殆ど俺に姿を見せないどころか、俺の知らない所で勝手に再婚して、再婚を俺に伝える前に勝手に死んで……俺を……天涯孤独にしやがって……」


「孤独じゃないよ。私達が居るじゃない」


 ツキコは少し顔を真顔にして、俺の目を真っ直ぐ見つめながらそう言った。


 そうだ。今の俺は、最も大切なものに囲まれて日々を過ごしているのだった。

 俺はツキコに謝る。 


「……ああ……そうだったな。すまん」


 俺がそう言うと、ツキコはまたすぐに笑顔を膨らませる。


「ううん。それにね、お父さんが再婚してたから、この街にヒナタちゃんが来てくれたんでしょ? お父さんにも感謝しなきゃー」


「ふむ……それは考えた事もなかったな」


「きっとね、私達が出会って、クウちゃんが転入してきて、ヒナタちゃんが隊長の妹になって、それでとても良かったんだよ。それがとても良かったんだよ」


 いつも通り曇り一つない、幸福と愛情に満ちた表情で、ツキコは俺達の関係を総括する。俺はただそれだけで、自分の人生がとても充実したものであるような気になれた。


「……まぁ、今夜宇宙生物を倒して、平穏無事にこの街で盆を迎える事が出来たら、墓参りくらい行ってやるか」


「うんっ、みんなで行こうよ。隊長とヒナタちゃん、二人のお父さんだもん」


「そのついでにみんなで盆祭りにも行こうぜ。……んで、その後は秘密基地に行くんだ」


「えーっ、またさらわれちゃうよー?」


「はははっ」


 膝を細かく開いたり閉じたりしながら、ツキコは夜空を見上げた。つられるようにして、俺も夜空に視線を泳がせる。東の空からは、西に沈んだ太陽と入れ替わるように丸い月が昇り始めていた。


 ゴルカッソスと戦う頃には、南中に達しそうである。


「でも……こうして振り返ると、みんなおんぶしておんぶされてなんだね」


「ん……? 持ちつ持たれつの事か?」


「そうそうそれそれー。ねぇねぇ、いつも隊長がみんなをおんぶしてくれているんだからさ、今日の夜スタジアムに行く時は、私が隊長をおんぶしてあげるね」


「おいおい、お前に出来るのか?」


「うん。変身したら私も結構力持ちなんだよー。ヒナタちゃんには全然適わないけど」


「アイツは空手やってたせいか、変身する前から結構強いからな……」


「えへへー。そうだねー」


 沢山の話をして会話が途切れ、夜風と共に心地よい沈黙が訪れる頃、ツキコはお尻を払いながら立ち上がり、愛情深く姫結衣市を全身で包み込むように、両手両足を広げて気持ち良さそうに伸びをした。


「うぅーんっ! なんだかすっきりしたー」


「おっ、約束の時間まで、ちゃんと眠れそうか?」


「うんっ! 気持ちがすっきりしたからぐっすり眠れそう」


「そりゃ良かったな」


 俺も腰を上げて、ツキコと並び立つ。


「ずっとみんなが仲良くいられるように、ずっとみんなが幸せでいられるように、まずはこの街を守らなくっちゃ。隊長、付き合ってくれてありがとうねー」


「まぁ、お前達を万全な状態にするのも、管理者としての役割だからな」


「えへへー。宜しくお願いしますね。姫結衣魔法少女隊の管理者さんっ」


「もう隊長なのか管理者なのか分かんねぇな……」


「私にとっては王子様だよー」


「あー……はいはい」


「だから、これからも幸せにしてね、王子様」


「お……ぉぅ……」


 そうして俺達は雑談しながら山を降りて、集合時間まで別れた。


 ツキコの為と思って付き合った散歩だったが、何だか俺の方が安心させられたような気がする。これなら集合時間まで、ぐっすりと眠れそうだ。

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