十章 それぞれの覚悟

覚悟 01

 時刻は午前一時半。

 俺達はとうとう、流離夜宵との約束の時を迎えた。


 この数日間、俺達はやれるだけの事をやってきた。それぞれが必殺技を習得し、それを使った連携をみんなで繰り返し何度も練習した。


 何よりも大きな収穫は、あいつ等が魔法少女に、自分自身のキャラクターになりきる事によって、本来の力を発揮出来るようになった事だ。特に、一番不器用だと思われていたクウの成長には、目を見張るものがある。


 俺はというとみんなの訓練を手伝ったり、補強すべき箇所を分析したりしながら、新しい衣装探しも進めていった。こうして鳩野郎も納得する程度に、俺達は充実した数日間を過ごしてきたのである。


「不気味ね……夜のスタジアムって」


 ここはゴルカッソスの出現予定地点、街の中心にあるスタジアムの中だ。クウが警戒を込めて、薄気味悪そうに周囲を見渡している。


 クウが現在肩に担いでいる剣は、いつも使っている剣よりもサイズが大きい。クレイモアという種類の大剣らしいのだが、クウへの相性フィットが高く、攻撃範囲も広かったのでCのクオリアを通して生成ジェネレートしたのだ。


 目的は勿論、ゴルカッソスに対抗する為である。巨大な宇宙生物には、ある程度大きな武器の方が効率的らしい。


 俺は周囲を見渡して、サスライの姿を探す。


「サスライはまだ来て無いのかな? ゴルカッソスの出現予定時刻までそれほど時間も無いから、そろそろ合流したいんだが……」


 そう俺が呟いていると、ツキコが声を上げた。


「あっ、ヤヨイちゃん来たよー」


 ツキコが指した方を見ると、競技選手が控えるベンチルームの影からサスライが姿を現した。その肩には黒いカードを首に下げたカラス、つまりは彼女のお兄さんが乗っている。


 俺達の傍へ歩み寄ったサスライは、俺を含めた全員の表情を見渡して言った。


「……貴方達、魔法少女の姿でここに来たって事は、約束通りに力をつけたという事よね?」


 彼女の問いに、俺は答える。


「ああ。やれるだけの事はやったつもりだ」


「そう」


 彼女が相槌を打つと、カラスがふわりと飛び上がり距離を取った。

 俺もその意味を理解して、魔法少女達との距離を取って変身端末を開く。


「……全員、戦闘準備だ」


 俺はテレパシーで三人にそう伝える。

 三人は無言のまま、それぞれが構えを取った。


 直後。



『バッシィィンッッッ!』



 間髪を容れずに、サスライがヒナタを番傘で殴りつけていた。

 やはり尋常ではなく速い。


 しかし――今日のヒナタは、その傘を両手でしっかりガードしている。

 ヒナタは赤い光を纏いながら、素早く後ろ回し蹴りで反撃に出た。


「ちぇすとぉぉっ!」


 汎用性の高いカウンター攻撃がサスライを襲う。


「――くっ」


 番傘の角度をクルリと変えて素早くガードしたものの、強烈な後ろ回し蹴りにサスライの体は弾き飛ばされる。驚いているのかさえよく分からない、相変わらずの感情に乏しい表情のままサスライが着地すると、その着地地点に向けてツキコの方から光弾が飛んでくる。


 サスライは番傘を広げてそれをガードするが。


『バッチィィンッッ!』


 直前に弾けた電撃属性の全ては防ぎ切れず、幾らか自身の体に通電しているようだった。感電し、一瞬動きを止めたサスライに向けて、今度はクウが切りかかる。その横殴りの斬撃を辛うじて上体を反らして回避したサスライは。


『バンッ』


 かわし際にクウの体を上空へと蹴り上げた。

 そしてサスライは。


「承認」


 と呟く。


 すると彼女の腰布に、扇子のようなものが複数挟まって現れた。恐らく、彼女の兄が変身端末を通じて新たに装備させたのだろう。彼女は傘を地面に突き刺すと、扇子を素早く両手で広げてクウの方へ投げ放った。


 クウは空中でそれを何とか弾き切って着地すると、真剣な表情で剣を肩に担ぐ動作を取った。その直後――――クウの体が、青白い光りに包まれていく。


 どうやら、例の長い名前の必殺技を使う気らしい。


 その様子を見たサスライも表情を硬くし、腰に差した『名刀恋心』に手をかけようとした。そんな二人の様子を見て、俺は大声で叫ぶ。



「ちょっと待ったぁぁぁっっ!」



 クウがハッとした様な表情を見せると、全身を包む青白い光は消え去った。


「お前等っ、本気で殺し合ってどうする! 俺達はこれから宇宙生物と戦わなきゃいけないんだぞっ!」


 俺の言葉を聞いて、ツキコやヒナタも戦闘態勢を解除する。

 こちら側が構えを解くと、警戒しつつもサスライは構えを解いた。


「なぁ、納得してくれたか? もう俺達だって君と一緒に戦える」


 皆が凛とした表情でサスライの方を見つめている。そんな俺達の様子を見渡すと、彼女は僅かに間を置いてから返事をした。


「ええ、合格よ」


 認められた三人の魔法少女達は、互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべた。そんな三人に、サスライは直ぐ様釘を刺す。


「喜ぶのはゴルカッソスを倒してからにして。貴方達が思う以上に、宇宙生物退治では何かしらのトラブルが頻繁に起こるものなの」


 そう彼女が諭すと、それぞれが緊張感を取り戻したようにすっと背筋を伸ばした。


 きっと、サスライや『名刀恋心』のエピソードを知ったこいつ等は、彼女に特別な思いを抱いているに違いない。ヒナタは凄く強い先輩として、ツキコは憧れの魔法少女として、クウは命の恩人として。


「みんなこっちへ来て」


 サスライの呼びかけに全員が集まる。彼女のお兄さんも変身端末を閉じて、彼女の足元へとひょこひょこと近寄って来た。

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