第二十四話 クリスマスカード
俺は、きれいごとは嫌いだ。口先でいくら愛だ恋だ友情だって言っても、それが俺にカネやチャンスを持って来るとは思えねー。だけど、全力で生きるってことがチャンスに繋がって行くのなら。それはすっごい嬉しい。
俺はクリスマスカードを出したことがない。もちろんもらったこともない。いるかいないか分かんない神様に誕生日おめでとうって書いても何も起こらないし、きっと神様もそれはいいやって言うだろう。
でも俺と同じようにじたばたしながら生きてるやつが、俺に向かってメリクリって言ったら。それは嬉しい。素直に嬉しい。
だから、それがカードの形をしてなくても。俺がメッセの詰まったカードだと思えば。それは俺にとって、掛け替えのないクリスマスカードなんだよ。
「ただいまー」
「ねえ、大丈夫だったの?」
「ああ、大したことじゃなかったわ」
「なら、良かった。ケーキ取っといてあるわよ」
「食う、食う。腹減ったー」
◇ ◇ ◇
きっと。今日はたくさんあるクリスマスの一つに過ぎないんだろなー。でも、あたしが手にしてるクリスマスカードは、これが最初で最後だ。不思議な、とても不思議なカード。
あたしにがんばれって言ってるのは、恋人じゃなく、友だちでもなかったやつ。これまで、そいつが誰かすら気に留めなかったクラスメートたち。そいつらのシンプルなメッセが、がんばれっていうメッセが、これからのあたしを支えてくれる。
あたしは、カードをそっと机の上に立てる。
「由香里! どこ行ってたの!」
「マックで、友だちとだべってた」
「あんたに友だちなんていたの?」
「出来た」
「へえー」
◇ ◇ ◇
俺が俺に宛てて出したクリスマスカード。本当なら誰の心にも届くはずのなかったメッセ。それが。俺の手を離れて、モミのところで光ってる。俺は……俺が書いた単なる文字の羅列が、みんなに命を吹き込まれて輝く奇跡に素直に驚き、感動する。
失恋は確かに辛い。でも、俺は今の精いっぱいをあのカードに注ぎ、失ったものよりもずっと多くの宝をあのカードから受け取った。
俺は。モミに言えたありがとうと、三村から受け取ったありがとうの響きに揺られながら、クリスマスの歓びを胸に刻み込む。見えない、でも永遠に色褪せない一枚のクリスマスカードとして。
「哲矢。あんた、どこ行ってたの」
「ああ、クリパ」
「ちょっと! そんなことしてる暇あんの!?」
「もう、ないよ。今日だけさ」
「ならいいけど……」
◇ ◇ ◇
わたしは大失敗した。あんな……あんなクリスマスカード、書かなきゃよかった。でも、わたしの失敗作はちゃんと作り直されて、わたしの目の前にある。
作り直す。わたしがいつまでもぐずぐずしてて、これまでは出来なかったこと。失敗したらどうしようじゃだめなんだ。失敗したその次を、その先をどうしようって考えないと、何の意味もないよね。
逃げるな。三村くんの残したメッセはすっごい重い。でも重いからって目を背ければ、わたしは間違いなくチャンスを逃がすだろう。出来損ないの自分を作り直すチャンスを逃がすだろう。小さなクリスマスカードがずっとわたしを戒めてくれるようにって、三人の名前の並んだカードをじっと見つめる。
「唯菜。あんた、大丈夫なの?」
「なにが?」
「本番よ。模試、ひどかったんでしょ?」
「惨敗。だから志望校変える」
「ランク下げるの?」
「ううん。わたしに合ってるとこにする」
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