第二十二話 進路(鈴野唯菜)
「ちったあ、クリスマスらしくなったな」
からっと言った三村くんが、いつもの明るい顔に戻った。わたしはそれを見てほっとする。さっき三村くんがわたしにすっごいきつく当たったのは、わたしがだらしないからだけじゃない。三村くんもまた、いっぱいいっぱいだったんだろう。
音沼くんが身を乗り出した。
「よう、三村。おまえ志望校どこ?」
「S大の経済だよ」
それを聞いて、わたしはひっくり返りそうになった。
「うっそー!!」
って叫んだのはわたしだけじゃない。樅山さんも、口をあんぐり開けてる。
「あたしも、だよ?」
へ!?
「俺も、だ」
ちょ、ちょっと。音沼くんも!?
「おい、鈴野。そのびっくり顔は、おまいもってことか?」
「う、うん」
三村くんが、やれやれって顔でわたしたちを見回した。
「よりにもよって、みんな同じかよ。ライバルだな」
「成績がよけりゃな」
元気なく言った音沼くんが、肩を落とした。
「俺は、今回の模試はさいてーだった。きついぜ」
「なに、音沼。D判か?」
三村くんのダイレクトな突っ込みに撃沈する音沼くん。
「なんだ、俺と同じかよ」
げ!!
「え? 三村もか!?」
音沼くんがのけぞった。
「今回はきつかったなー。年末はバイトがたて込んで来るから、勉強時間がっつり持ってかれてよー」
樅山さんは完全に沈没してる。確か、試験中に教室を退去させられたんだよね。
「鈴野は?」
「う……」
「おめーも要領悪そうだからなー」
ううう。三村くんは遠慮無しだ。
じっと三村くんを見据えていた音沼くんが、真っ直ぐ切り込んだ。
「三村、志望校、変えんの?」
「変えん」
退路を断ち切るみたいに、きっぱりと三村くんが答えた。言い切った。
「落ちたら、後のことはその時に考える。でも、俺はここで逃げたくねえ」
三村くんは、さっと笑顔を消した。
「チャンスは追わない限りこねーよ。だったら、必死に走らねえとな」
う……。
「俺は、ここでいいと思ったらそっからもう上を見る気力がなくなる。まだ諦めたくねえんだ」
「そうか」
何度も頷いた音沼くんが、三村くんと同じようにぴしりと決意を放った。
「俺も食いつかないとな。へたってる場合じゃないよな」
三村くんは、音沼くんの決意表明を聞いて本当に嬉しそうにした。
諦めない。最後まで死力を尽くす。音沼くんは、ちゃんとチャンスをものにして樅山さんに想いを伝えた。それはきっと、次に生かされる力になるんだろう。
わたしは……わたしは。
「おう、鈴野。おめーはどうすんだ?」
「うん。今までちょっと踏ん切りが付かなかったけど」
「ん」
「わたしは志望校を選び直す。今のままじゃ、どうにもなんないもん」
「諦めるのか?」
「諦めるって言うより、わたしには最初からS大目指す理由が……ね」
「ふん?」
「大学で何か勉強するっていうより、そこだったらわたしがわたしでいられるかなって。でも、それって変」
「ああ、そうだな。そういうことか」
三村くんが頷いた。それは、さっきわたしに向けられた恐い顔じゃなかった。わたしがちゃんと理由を考えること。自分を見捨てないこと。わたし自身で、自分の活かし方を考えること。きっと……それでいいんだろう。
「モミは?」
三村くんが、樅山さんに振った。樅山さんは、ふうっと大きな息をついて首を横に振った。
「クラスの連中に、あたしがS大入れるならサルでも入れるって言われてさ」
「はん?」
「悔しいけど、その通りさ」
三村くんが、樅山さんに聞き返す。
「どうすんだ?」
「S大は受ける。でも、今年は受けるだけ」
「浪人すんのか?」
「そうするかどうかもこれから考える。あたし、何かを頭痛するまで考えたことないんだよね」
それを聞いた三村くんが、なんだかなあという風に苦笑いしてる。
「そうかい」
「うん。だから頭痛するまで何年でも考えるわ。そうすりゃ、あたしを変えずにあたしが変われるんだろうからさ」
ポテトをつまみながら、わたしも考える。
どこの大学に行くかが大事なんじゃない。どうしてその大学に行くのか。そこで何をゲットできるのか。そして、自分がそれを心から納得できるか。きっとそれが大事なんだろうなあと。
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