第十五話 星は集まる(音沼哲矢)

『十時。サト銀とこの角のマック』


 俺の耳の中に、モミのセリフが焼き付いてる。


 俺は九時半にはもう着いて、入り口のところでおりの中の熊みたいにうろついてた。いつもは遅くまで賑わってるマックも、さすがにイブの夜はかなり空いてる。まあ、こんな日に一人でもしゃもしゃ店内でセットを食うってのは、みじめ以外の何ものでもないよな。俺だって、頼まれてもそんなのはしたくない。だけど、今日は一人じゃない。他にどんな惨めなことがあっても、俺はそれだけを強く心に刻むだろう。


 モミ。あいつは気紛れだ。俺を呼び出しておいて、やっぱ行く気が失せたってすっぽかすかもしれない。そうしたら、俺はただの道化になる。でも、俺は信じてた。あいつは来る。もしあいつがカードのことを何とも思っていないのなら、そもそも俺んとこに電話なんかかけてこない。ゴミ箱に放って終わりだろう。わざわざ向こうから俺の電話番号を探してかけてきたってことは、俺になんらかの関心があるからだ。


 いい。俺は、それだけでいい。俺には、それだけで立派なプレゼントになる。


 ああ。やっぱ、クリスマスってのは悪くないな。これまで、この日が嬉しいとか楽しいと思ったことは一度もないけど。今日は、俺には特別な日になる。きっと、俺の姿は気味悪かったに違いない。わけもなくにやにやして。


 もうすぐ十時か。きっと、モミは遅れてくるだろう。それが十分か、三十分か、一時間か、それは分かんないけど。でも、俺は待つ。じっと待つ。


 ん? マックに入ろうとしてる若いカップル。明らかに様子が変だ。男がぶりぶり怒ってて、女がしゅんとしてる。って、三村と鈴野じゃん! げー。


「お? 音沼ー。どしたー?」


 う、やっぱ気付かれたか。いきなりこんな時間に、こんなところで知り合いに出くわすとは思ってなかった。逃げ出したいけど、モミとの待ち合わせをすっぽかすわけにはいかない。俺が黙り込んでいたら、背後からモミの声がした。


「お待たせー。って。なんで三村と鈴野がいるわけぇ!?」


 とんがったモミの声。


「それは俺が聞きたいわ! なんでおまえと音沼がいんのよ?」


 三村がモミに指を突き付ける。モミはショルダーバッグから一枚のカードを出して、それをひょいと俺に見せた。


「ってことなん」


 そう言って、俺をじろじろと見回す。


 俺が俺宛てにこっそり出したカード。それが、なんでモミのとこに行っちまったんだ? くそおっ!


 だけど俺は、その苛立ちを顔に出して突っ込まれたくなかった。俺が黙っていれば、三村や鈴野には分かんないだろう。でも。


「ほ。モミ。それ、捨てんかったんか」


 そのカードを見た三村が、にやっと笑ってそう言った。


 えっ!? 俺は三村のセリフに仰天する。な、なんで三村が知ってんだよ!?


「ちょっと! どゆことっ!?」


 モミは、俺よりはっきりと三村に苛立ちをぶつけた。


「まあ、中で話そうぜ。さみー」


 つらっとそう言った三村は、俺たちの反応なんか見もしないで、すたすたと店内に入っていく。俺たちは、その後に付いていくしかなかった。


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