第十三話 寂しいサンタクロース(鈴野唯菜)
「さぶっ……」
店の裏手。保冷庫の前で、わたしはぼんやり立ち尽くしていた。バイトって言いながら、今日はわたしは何もしてない。店の中は厨房も店舗もてんてこまいだもん。ぐずのわたしがうろうろしたら迷惑がかかるから。でも、わたしは高階さんに伝えてある。今日は、わたしは家にいたくないって。バイト代要らないから、店にいさせてくれって。
わたしは。わたしは、とことん追いつめられてた。模試の惨敗は、わたしにゲンジツをごつんと突き付けた。合格目指すどこの話じゃない。あんた、
もうS大、無理なんだろうな。そしたら、これからどうすればいいのかまるっきり分かんなくなっちゃった。泣いてる場合じゃない。泣いても、ほんとはそれが悔し涙じゃないとならないのに。わたしはただ、自分の惨めさに打ちのめされて泣いてる。バカみたいだ。
家族はわたしを扱いかねてる。わたしに分かんないことは、他の誰にも分かんない。わたしがどうしたいのか、誰にも分かんない。だから、気遣いの空気だけがどよんと漂ってて息苦しい。だから……家にいたくない。
「ぐすっ」
分かってる。わたしに足りないもんが何か、分かってる。それは、後戻りできないところに自分を立たせる度胸と、そうする決心だ。
どうせ。どうせ。どうせ……。
自分がぐずであることをどこまでも言い訳に使って、わたしは逃げ回ってきたんだ。自分にはここまでしか出来ない。ここが限界。こっから先はもう無理。リミットが他の子よりもずっと低いところにあったのに、それをなんとかしようって気がなかった。だって、これがぐずのわたしだしぃって。
でも。わたしは、どんどん動けなくなってる。みんなが本番前にエンジンかかってるのと、まるっきり逆だ。もともと少ないやる気と力が、だらだらこぼれていって。もう残り少なくなってる。それが全部こぼれちゃったら。わたし、どうすればいいんだろう? いや……どうなっちゃうんだろう。
「さぶい」
そんなくだらないことを考えてるなら、単語帳の一つでもめくりなさい。母さんと高階さんのきつい口調が聞こえてきそう。でも、薄暗い保冷庫の前にぼんやり立ってるわたしの耳に届くは、時々吹き寄せられる薄っぺらいクリスマスソングの破片だけ。
寂しい。寂しいクリスマスイブ。ごちそうも。ケーキも。プレゼントも。おめでとうの言葉も。何一つない。何一つ届かない、寂しいクリスマスイブ。あ。また涙で景色がにじむ。わずかな明かりがイルミみたいにちかっと光って。それが、無性に寂しい。
わたしがぐすぐす言いながら目を擦ったら。店舗が急に騒がしくなった。誰か、酔っ払いでも入って来たのかな?
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