クリスマスカード
水円 岳
第一話 片思い(音沼哲矢)
「はあ……」
もうすぐクリスマスだってのに、溜息しか出ない。その溜息すらこぼすのが勿体ないっていうほど、切羽詰まってる。あさっての模試が最終模試。年が明けたら、もう本番。センター試験があって、すぐに願書出して、本番だ。
最終模試は、完全に本番のシミュレーションになってる。その成績の善し悪しで行き先をどうこうするっていうステージじゃない。もう具体的に志望校を決めてて、最後にそれをクリアできるかどうか模試で確認するって感じ。そこでD判定出されてるようじゃ、最初から玉砕するって言われてるみたいなもんだよな。
はあ……。
だけど、俺はずっとD判から上がったことがない。このままS大受けても、確実にアウトだろう。だから、俺にとっては今回の模試は他の連中と意味が違う。ラストチャンス。AやBの判定がもらえるなんて贅沢は言わない。せめて。せめてC判定が出ないかと。追い込みの成果が少しでも出て、C判定が出ないかと。そうだよ。こんなとこで、溜息なんて漏らしてる場合じゃないんだ。
でも、俺の手は動かない。シャーペンのけつで問題集をこつこつ叩いて。また、溜息をつく。
◇ ◇ ◇
俺には好きな
モミは、顔つきも、言動も、性格も派手だ。一見アイドル系に見えるけど、好き嫌いがはっきりしてて、気まぐれで、ものっすごく口が悪い。あいつの見かけに惹かれて付き合うやつはいっぱいいたけど、三日と保った試しがない。そしてあいつは、別れた相手をぼろっくそに言う。クラスの男連中が、あいつわけ分かんねえよって敬遠する。それがモミだ。
そうさ。俺に釣り合わないのは分かってる。ちょー地味で、むっつりで、ネクラな俺に似合わないのは分かってる。だけど、好きか嫌いかってのは、そういう合う合わないとは全く別のもんだよな。俺が一方的に想ってるだけなら、誰に迷惑かけるでもないし。俺もそれでよかったんだ。同じクラスにモミがいる。それだけでよかったんだ。でも……。
秒読みで、別れは近付いてきてる。俺がただ見てるだけで、何もしないでいるだけで、そのままで。ゆっくり別れは近付いてきてる。俺には……それが我慢できそうにない。
はあ……。
◇ ◇ ◇
「ちょっと、哲矢!」
耳元でお袋のがなり声が聞こえて跳ね起きる。いけね。いつの間にか居眠りこいてた。
「あ……うう」
「いいご身分ね」
視線が冷たい。
「いいけどさ。うちは浪人はさせられないからね。もし志望校落ちたら、そっから先は自力でやんなさいよ」
言い捨てたお袋が、さっと部屋を出た。机の上にはコーヒーとお菓子。口ではきついことを言ってるけど、お袋なりに気にしてくれてる。
もうぐだぐだしてる場合じゃないんだ。分かってる。頭の中では分かってる。でも、それが心までは律してくれない。全ての雑音を排除して、ぎりぎりまで集中しなきゃならないのに、そう出来ない自分がもどかしい。
たかが女じゃないか。確かにそうなんだ。ちゃんと志望校に合格出来れば、そこにはいっぱい女の子がいるだろうし、出会いもあるんだろう。でも、今の俺にはモミが全てだ。そして、モミと接点を持てる日はどんどん少なくなってる。
終業式から先。もう俺たちの登校は不定期になる。クラスで全員顔を合わせる機会は、何日もないんだ。それが、俺の焦りに火を点ける。
どうすればいい? 俺は……どうすりゃいいんだ!
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