○四天王

僕は武器になれるのと魔力コントロールの修行のために寮に帰宅直後にギルドに向かった。

アホが喫茶店に行こうとか言ってきたが当然無視した。


「というわけでカンル平原近くの依頼は勧めないでくださいっす。準備が出来次第出動するからギルドを頼んだっす」


「はい、了解です」


ギルドの中に入るとブラウトさんが丁度受付の女性と話していた。


「ん?クロス君じゃないっすか?

そういえば今日は武器と使い魔召喚の日っすね。早速戦闘系の依頼を受けて修行っすか?」


「流石ブラウトさん察しがいいね」


「なら丁度いいのがあるっすよ。

サンレスの森で最近増殖しまくってるストーンモンキーっていう猿型の魔物10匹討伐っす」


「じゃあ、それ受けます」


「急用があるからさよならっす」


「あ、はい」


「では、こちらにサインをお願いします」


受付の女性が死んでも責任は取らないという旨の誓約書とペンを渡された。これは毎回書かなければならないらしい。


「書き終わりました」


「はい、確かに。

では生存確認ペンダント、カウントブレスレット、サンレス森への転移魔方陣、ギルド帰還用の転移魔方陣をお受け取りください。ペンダントとブレスレットは必ず身につけてください」


「はい」


ペンダントは対となるペンダントがあり身につけた者が死ぬと対になっているペンダントが壊れるって仕掛けで、ブレスレットは魔物を殺すとその魔物の種類と数が記録され魔力を流すとそれらが確認出来る。


なんか御都合主義っぽいアイテムだな。


「カンル平原に魔族が現れたので決して近づかないように気をつけてください」


魔族は人型の魔物で数は少ないが、どれも人類最強集団の帝じゃなきゃ戦いにすらならないぐらい強いらしい。

ブラウトさんと修行で何度も戦ったがいまだに底が見えない強さだからニワカに信じ難い。


「まあ国から見てサンレス森とは真逆の方向にあるから平気ですね」


「そうですね。

じゃあ行ってきます」


サンレス森への転移魔方陣が描かれた紙に魔力を流すと木で太陽が見えないが何故か明るいという不思議な森の中に転移された。


「ここがサンレス森か噂には聞いてたけど本当に太陽が見えないぐらい木で覆われてるのに明るいな……と、いかん!ストーンモンキーを探すか」


迷っても帰還用の転移魔方陣で帰れるからマーキングとかもせず念のためにこくとーを出し適当に探索をした。というか森の中からのスタートだからマーキングしても意味がないね。


探索を始めて数分でストーンモンキーの群れが見えた。近づいてみると、赤黒い光沢のある鱗を鎧のように全身覆っている男と戦闘しているのに気づいた。


「ちっ何で俺があんなやつを復活させるために動かなきゃならんのだ」


男は愚痴をこぼしながらストーンモンキーの頭を素手、しかも1撃で貫き潰している。


こいつはまさか……


「ん?なんだ人間か?

丁度いい単純作業に飽きてたところだ。

少しは楽しませてもらうぞ!」


……魔族!


魔族と出会った時は逃げるのが鉄則、僕は帰還用の転移魔方陣を出し魔力を流そうとした。


すると魔族が急接近し顔目掛けて手を伸ばした。

ストーンモンキーと同じようにされると思ったから防ごうと構えた刀と魔族の腕が接触し金属音が鳴り僕と魔族は弾かれた。

更にその反動で転移魔方陣が手から離れてしまった。


「!?……貴様、名を教えろ」


一瞬驚き迷ったが口を開いた。


「クロスだ」


「クロス、俺は魔王直属四天王序列1位カイオス。貴様に興味を持った。もう少し力を出すが期待を裏切るなよ」


四天王序列1位!?普通は序列最下位が来て、やつは四天王でも最弱フラグじゃねぇの!?


カイオスは少し跳躍し消えた。


「って!?消えッガハア!」


消えたと勘違いする程のスピードで接近され腹に攻撃をくらう直前に何とか刀で防いだが、吹っ飛ばされ木に衝突してしまった。


「流石だな!今のも耐えるか!」


「くそ!『ダークボール』発動!」


「そんな魔法で何とかなるとでも?」


カイオスはダークボールを素手で握り潰そうとした瞬間、ダークボールは爆発した。


「なっ!?」


爆風でカイオスは飛ばされたが擦り傷の1つもついてない……僕、チートを貰ったはずだよね?

勝てる気しないんだけど……


「今のは魔王と同じ技……

ふははは!クロス!お前を気に入ったぞ!

だが、まだまだ貴様は弱い」


「!」


気付かない内に背後に回られた。


「こんな風に本気を一瞬出すだけで殺せるぐらいにな」


「くっ」


「だが今は殺さない。

俺を殺せるぐらい力をつけろ!

そうしたら……!」


カイオスは後ろを振り向き眼前まで迫っていた黒紫色のレーザーを素手で防いだ。


「今のを防ぐとは流石魔族だな。

クロス無事か!」


「レイト兄さん!?」


なぜかレイトが双剣を構え立っていた。


「ん?兄さん?……クロスの兄ということか。

なるほど、貴様も俺を楽しませてくれるのかな?」


「何を言っている!俺が気を引きつけるからクロス、お前は先に転移魔方陣を使って逃げろ!」


「転移魔方陣とはコレのことか?」


僕の手から離れた転移魔方陣をカイオスはレイトに見せた。


「なっ!?魔族め……」


「何を勘違いしてるか知らんが、俺はコイツを殺す気はないから安心しろ」


僕は主人公のように清く正しくない。カイオスの頭は鱗で覆われていないから硬くないはず。この僕から気が逸れた今がこいつを殺す最大のチャンス。


ん?待てよ何で殺す必要があるんだ?


そんな考えが刀が頭を捉える寸前によぎった。


しかし、そんな迷いは無意味だった。

カイオスは無傷のままだ。


「そういう行動をとるとは、ますます気に入った。しかし残念だったな。俺の体は決して傷つかない」


不意打ちをしても殺せないのか……


「 クロス!俺が何とかするから、お前は逃げろ!」


「俺を何とかする?人間が?ハハハッ!

大口を叩くんだ。ガッカリさせるなよ人間?」


「ハアッ!」


「なっ!?」


カイオスが目にも留まらぬスピードでレイトに接近したがレイトは前方に黒紫色の鏡のような魔法を展開させたことによりカイオスは魔法に当たる直前で止まった。


というか、なんだアノ魔法は見たことないぞ。

ダークホールに似ているけどアレは浮かせたりは出来ないはずだ。


「ダークミラー……与えたダメージを倍にして返す代わりに発動中は術者が移動出来なくなる古代魔法。なぜ貴様が使える!」


あ、ご丁寧に説明してくれた。


「魔族に教えることなどない。

ロウきてくれ」


レイトの目の前に白銀の毛を持つ狼が現れた。

恐らく使い魔だろう。

カイオスはそんなのお構いなしに再びレイトに接近していったが、狼がレイトを背中に乗せ避けている。


「レイトよ。この魔族を殺せば良いのか?」


「いや、出来るなら生け捕りが望ましい。

それと少しの間、1人でやってくれないか?

俺はクロスをギルドに戻してやりたい」


「魔族如き我1人で十分だ」


「ははっ頼もしいな」


「戦闘中に会話とか余裕だな!

それと生け捕り?その狼1匹で十分だあ?

こんなのまだまだ本気じゃねえんだよ!」


カイオスは更にスピードを上げたため僕は目で追うことが出来なくなった。


「クロス」


「!?」


いつの間にかレイトが背後に立っていた。


「アイツが挑発に乗って周りが見えなくなるタイプで助かった。ロウに乗ってる俺が魔法で作られた偽者だと気付かれなかったからな」


「へ、へぇ」


ちょっと強すぎない?


「じゃあ、これに魔力を流して帰りな」


そう言ってレイトは懐から取り出した帰宅用転移魔方陣を僕に渡した。


「レイト兄さんはどうするの?」


「暫くしたら帝様が助けに来てくれる手筈になってるから安心して帰りな」


「うん、わかったよ」


悲しいけど、僕がいても足手纏いになるだけだから素直に従い、魔方陣に魔力を流した。


「ウグッ!?」


景色が変わる寸前、宙に舞うレイトの左手とカイオスが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る