深淵の歌4 真珠玉―創砥式7340―


 深淵の泉に響き渡ったのは、低いしのび嗤いだった。

「最長老がつけた印が消えた? 本人が消さないで? へええ?」

 僕もリンもハッとその「事実」に気づく。

 禁欲のために刻まれる炎の聖印は、もともと呪詛として編み出されたもの。 

 強制的に、術者と隷属関係を結ばせる。

 その解除方法は、二つしかない。

 印を刻んだ術者が自ら消し去るか。それとも。術者が死ぬか――。

「まさか、最長老様が……」「身罷みまかられた?!」

 リンの眉間に深い皺が寄る。僕の顔もたぶんこわばっているだろう。

 しかし兄弟子様は――髭ぼうぼうの顔に薄ら笑いを浮かべている。

「くくっ……きっとそうなんだろうなぁ」

 そんな!

 毒薬での暗殺を阻止したばかりなのに! 

 二位の御方は、すぐさま他の方法でレクサリオン様を殺めたっていうのか?!

「こわいなぁ。ホントあそこは、嫌になるぐらいこわい……」

 兄弟子様はうなだれて、くつくつ嗤った。口の端を引き上げた、暗く不気味な貌。まるで狂いの色が入ったかのような表情で。

「くくく。あの寺院で最長老が天寿を全うすることは、まずないぜ。大陸の縮図たる黒の寺院……ここほど、生存競争が激しいところはない。そしてレクサリオンは、ついに天罰をくらったようだなぁ。まあ、いい気味だ」

 兄弟子様は、死んだかもしれない人のことを微塵も悼もうとしなかった。

 むしろ、その推測がどうか当たっていてくれとひどく期待しているようだ。

 なぜならば。

「レクサリオン。あいつが……」

 兄弟子様のぼさぼさの頭が逆立つ。ぱちぱちと本当に音がするぐらいに。

 それが怒りからくる、まさに怒髪天だと気づいたとき。どすの聞いた低い声が深淵の泉に響いた。

「あいつが率先して、俺の師匠を殺りやがったからなぁ!」





 レクサリオン様が。とても高潔そうで慇懃なあのお方が。

 我が師の師匠を、殺した?

 そんなまさか。あの方は前最長老カラウカス様のご遺言に従って、僕をその生まれ変わりだと断定して、わざわざ寺院へ連れてきた方じゃないか!

 兄弟子さまは、息を呑む僕の訴えを一蹴した。

「そんな遺言、俺の師匠は残さなかったぜ?」

 レクサリオン様を筆頭とする反カラウカス派。

 彼らは以前から、大国スメルニアの後見であられたカラウカス様に、ことあるごとに楯突いていたらしい。

 反カラウカス派は十代の天才導師誕生を格好の攻撃理由とし、呪いの波状攻撃を絶え間なく繰り出して、カラウカス様をついに殺めた。 

「俺の師匠の防御結界を砕いた奴こそ、レクサリオンその人だ。おかげで導師どもの呪いがお師匠様にもろにふりかかった。お師匠様は内臓がズタボロになって、血を吐きながら亡くなられた。俺もハヤトも必死に呪いを払ったが、追いつかなかったよ……」 

 だが。

 反カラウカス派は、標的の魂をうっかりとり逃してしまった。

 高位の導師は生前の記憶をもったまま、転生することができる。

 ゆえに暗殺に手を染めた導師たちは仕返しを恐れて、カラウカス様の生まれ変わりを探した。その者を見つけて寺院に入れ。魂を取り出し。永久に封じ込めんとして。

 しかし公式に記録されているカラウカス様の死因は、「病死」。

 転生者探索の理由は、「遺言を遂行するため」。

 これは寺院に少なからずいた親カラウカス派に、反抗の大義名分を与えないための姑息な措置だった――

 兄弟子様が鬱々と語る真実を、僕とリンはただただ慄きながら聞いた。

「で、ウサギのぺぺは師匠の仇を討とうとして半殺しにされて。それがもとで、死んじまったんだけど。おまえ全くそのことを覚えてないようだな。それで今、お目こぼしされてんだろうなぁ」

 お目こぼし……。

 もし僕が触れ込み通りの生まれ変わりだったら。そうでなくとも、しっかり前世のことを覚えていたら。魂を抜かれて、この寒い封印所に封じられたってこと?

 想像すると背筋が凍る。

 怖ろしい。

 本当にこの寺院は、怖ろしいところだ……。

「レクサリオンのやつ、たまにここに来てたが、俺には地上の事は何も教えてくれなかった。ハヤトを導師にしてやったのはなんか魂胆がありそうだが、しっかし導師名が、アスパシオンだぁ?」

 兄弟子様はふん、と鼻で笑った。

「神聖語で『歓迎』って意味だろ。そりゃまた、嫌味な名前を付けられたもんだ。今回の黒幕の子分のヒアキントスって導師名も、初めて聞くわ。俺が囚人になったあとに導師になったやつだな? そいつ、どこか後見してるの?」

「蒼鹿家の後見人です。三年前に病死されたミストラス様から、後を継がれました」

 白いかんばせをますます白くしているリンがいうと、兄弟子様はたちまち気色ばんだ。

「ってことは、ミストラス様の一番弟子のメルちゃんかよ……俺と同い年の、あの何考えてるかわかんねえやつ?」

 ヒアキントス様は、たしか三十代前半のはず。兄弟子様は髭が生えているのでずいぶん年を取っているように見えるが、まだ結構……若いらしい。

「シドニウスはずいぶん優秀な奴を子飼いにしたなぁ。メルちゃんなぁ……魔力自慢のなぁ……うへえ、やっぱめんどく――」

 う。またサボりたい病発症?

 ぎろっと睨みつけてやると、兄弟子様は生唾を飲み込んでぐぐっと黙った。 

 残念だが、最長老様の安否を確認しているひまはない。

 二位の御方が最高権力を握ったというのなら、なおのこと、急いで助けるべき人たちを助けなければならない。

 湖に結界を張っている寺院から抜け出すには、やはり……鍾乳洞を抜けるしかないだろう。寺院の地下に広がる鍾乳洞は広大だ。北の海に抜ける、というルートしかないから大遠征になる。つまり旅の糧食が大量に要る。

「え? おい! ぺぺ! 何してんだ?」

 僕はさくさくと深淵を出て、兄弟子さまの住処に入り、魚がたっぷり詰まった籠を抱え上げた。勝手にさわったらだめじゃないとリンにたしなめられたが、我が師に輪をかけて扱いにくそうな人のやる気が出るまで、待ってなどいられない。さっさと準備とお善立てをしてやって、勢い急いで出発するのがいい。

「食べ物は、ここのものを洗いざらいもって行きましょう。兄弟子様は、変身してくださいね」

「おいこらぺぺ、仕切るな」

「足の速い動物になってください。僕らが荷物と一緒にその背に乗ります。そうすればすごく早く進めます」

「進めますって、なんでおまえが俺に命令するのよ」

「変身、できますよね? 鷹になったメルちゃんみたいに」

 わざと目を細めてヒアキントス様の名を出すと、兄弟子様の顔がとたんに引きつった。同い年と聞いてまさかと思い、対抗心をつついてみたわけだが……

「そ、そりゃできるけどぉ? でもマジで、鍾乳洞抜けるの? 無理だろそれ」

 めんどくさがりの兄弟子様は乗って来かけたが、なぜか尻込みなさった。

「他にどこから脱出できるっていうんですか? 我が師はあなたがなんとかしてくれるっていってたようですけど、でもそれって、鍾乳洞を一緒に踏破してくれるってことじゃないんですか?」

「う……」

 口をむんとへの字にして一瞬考えたのち。髭ぼうぼうの導師様は渋々答えた。

 僕らはその言葉に度肝を抜かれた。

 それはおよそ、にわかには信じられないことだったからだ。

「たぶんハヤトは。封印所の『船』を使えっていいたかったんだろうな……」

 船。

 つまり水に浮かべて進ませる乗り物。

 たしかに封印所にはいろいろな遺物が収められているけど、そんなものまでここに?

「一番新しい封印所……第三十三窟にある。ていうか、一度こっそり使ったことが……あるわ」 

「それって、かつて寺院を……」「抜け出した事があるってことですか?!」

 唖然とする僕らに。兄弟子様は引きつりながらうなずいた。

「うん。む、昔々な……カラウカス様と二人の弟子と使い魔ウサギが、それを使って大冒険……まあ、万能鍵もあるようだし。そ、そこに行ってみたらいいんじゃね?」





 ひづめの音をたてて、黒い馬が鍾乳洞を疾走していく。

 たてがみの長い駿馬だ。腹の両脇に酒と水を入れた空気袋をさげ、食糧を入れた籠を背にくくりつけている。

 籠の一番上には、きちんと畳まれた黒き衣。その衣の上に座る僕は、飛ぶように過ぎていく狭い岩壁を眺めた。小さな小さな、ウサギの目で。

 兄弟子様は馬になり。僕はウサギに変じてもらった。

 そして。

「兄弟子さん、あの岩肌すごいですね! 陽光みたいに輝いてます」

「ああ、あれは金脈だな」

「あのキラキラはなんでしょう? 星空みたいな岩です」

「橙煌石。熱をすっかり吸収する岩だ」

 ウサギの僕のかたわらには、可愛らしいハツカネズミがいる。

 白肌のリンだ。

 変身術は、輪廻で経験したものの姿にしか変じることができない、といわれているから……つまりリンは、ハツカネズミとして生きていたことがある、ということだ。

 このネズミ、真っ白でちっちゃくてすごくかわいい。

 馬が跳ねるたび、僕にしがみついてくる。ほんと、かわいい。 

 黒馬はすばらしい足取りで軽やかに封印所を駆け抜けていく。

 でこぼこな岩場も、ぬるぬるするコケだらけの沢もなんのその。

 賢いリンは知識欲がはんぱない。くりくりっと赤い目を動かして興奮していた。

 地層的には深遠の上部に重なる、一般の封印所。その通路は網の目のようにいりくんでいて、とても広かった。

 馬が疾走する間中、僕もめずらしい色合いの岩肌に目を見張ったが。

「……あの、兄弟子さま」

「なんだねぺぺくん」

 僕は時計鍵を眺めつつ黒馬に文句を垂れた。

「わざと、ぐるぐる回ってませんか? さっきの通った金脈の岩をまた通り過ぎましたよ」

「おっと。ばれた?」

「早く第三十三窟に行ってくださいよ!」

「ほ、ほんとに行くのお? 俺とここでぬくぬく、地熱療法生活した方がよくない?」

 僕は馬の首に思い切り噛み付いた。

「よくない!」

「いてえ! なにすんだこの腹黒ウサギ!」

「そこ! 左に進んで!」

「うえええ」

 深淵が開けられ番人が連れ去られた。

 そんな一大事だというのに、地上からは誰も何も、封印所の様子を見にくるものも追ってくるものもなかった。

 おそらく上では最長老レクサリオンが亡くなって、大騒ぎになっているのだろう。

 隙をついて寺院を抜け出すなら今が絶好の機会ともいえる。

「あ、ちょっと! そこは一番右の穴に入るんですよ」

「ちっ……」

 それにしても兄弟子様はとっても消極的だ。何か理由があるのかと思っていたら。


「偉大なる灰色の業師、鋭き研ぎ石のルデルフェリオ!」


 時計鍵を見ながら鍵の名前を唱え、一番新しい封印所に入るなり。

 黒馬は、ぶるぶる震えだした。

 そこは深淵とよく似た地底湖で、湖の岸辺一面にウジャウジャと、茶羽の羽蟲のようなものがはびこっていた。

「え。こ。これ……」「ご、ゴキ……」

 それがいたのは岸辺周辺だけではなかった。

 僕らが飛ばす灯り球に照らされて見えたのは。地面一面に蠢く……

「ひ。ひいいいい! やっぱりいるし! 這ってくる! 這いのぼってくるー!」

 いや怖い。これはたしかに怖い。

 踏むのはちょっと、勇気が要るよこれ。そりゃあ、ここに来るの嫌がるよね。

 黒馬は悲鳴をあげながら大きく跳躍して、ニ、三歩で湖の中に飛んだ。

 ざぶんと水しぶきをあげて着地した湖面には、大きな白い球体がひとつ浮かんでいる。

 どう見ても巨大な卵にしかみえないこれが――なんと『船』だった。

 背後でうじょうじょびっしり蠢く茶羽たちの絨毯にうろたえながら、黒馬は鍵の名前を唱えた。

「えっと……偉大なる灰色の業師、鋭き研ぎ石のルデルフェリオ!」 

 卵の表面にうっすら線が現れる。四角い枠線となるや、その線内の壁が音もなく押し込まれていき、左右に開いて消えた。

 船内に入ろうとして、黒馬が躊躇する。

 またこれに乗るのかよ、とがっくりうなだれている。

 どうも、封印所を多い尽くす茶羽たちよりむしろ、この卵の中に入ることがとても嫌なようだ。

 その理由は僕らにもなんとなくわかった。

 とても狭い、円筒形の部屋。四方にずらりと金属の筒だの細かい金属片の突起だのがびっしり浮き出ている。とにかく、狭い。人間はニ、三人ぎりぎり入れるかどうか、程度。

 これは。みるからに、息が詰まりそう。

 そして。 

 いきなり正面にはまっている真っ赤な石から、なんとも艶めかしい声が聴こえてきた。

 

――『あら、お客さんかしら? 乗船許可証はお持ちですの?』


 女の人の声、だろうか。

 声音の音域が女性にしては低めで妖しげな雰囲気がぷんぷんする。

 兄弟子様は人間の姿に戻り、観念した顔で卵の中に足を踏み入れたが、僕らはウサギとハツカネズミのままで乗船した。でないと本当にぎゅうぎゅうづめで呼吸困難になりそうだったからだ。

『許可証を見せてくださいませんこと?』

 淀みない艶声が促してくる。

 兄弟子様が、時計鍵を宝石の前のくぼみにあてろ指示してきたので、嵌めてみると。赤い宝石のふもとに、真っ赤に光る文字が浮かびあがった。


           うるわしき真珠玉 

            まるがれーて 

            創砥式 7340 

 

 年号は若干違うが、時計鍵と同じ刻印がある。

『ああんっ……あはんっ……まさしくこれはマエストロの印……!

創砥ソート様のこ、く、い、ん……認証……しましたわ』

 艶々しい女性の声がとても気持ち悪い反応をしたと思いきや。

 開いていた扉が、しゅうと閉じられた。

『おねえさんと、イきたいのね?』

「へ、へい……そうっす、お、お、おねえさん」

 兄弟子様が震えながらしゃがみこむ。

『マルガレーテおねえさま、って呼んで。イき先は、天国? 地獄? どっちがよろしいの? 上になる? 下になる?』

「あ、頭が上だと、うれしいんすけど。あのぉ、とりあえず北の塩湖までいってくれますかね、お、おねえ……さま」 

『善処するワ』

 瞬間。僕らの体は衝撃で宙に浮き。

 それから――。

 天地がもろに逆になった。

「だから頭を上にイイイイイ!!」

『あら、どっち? こっち?』

 ぐわんとゆれる船内。はずむ僕ら。回転が速くなる。

 はずむ。はずむ。

 回る。回る。

 ぐるぐる、回る。ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐ……

 

  

『きもちわりいいい! はなれろハヤト! 何が悲しくて、おまえとぴったり密着しないといけないんだよ』

『せますぎてむり。でもこれ、ひどい回転だね。普通、重力固定しない?』

『ううん、そうじゃなあ、さすがのルデルフェリオ様が、そこを考えないはずないんじゃが。これはこういう仕様なんじゃなぁ』

『ルデルフェリオ様って、こ、これ創った人?』

『そうじゃよ。エリクが寺院にきた年に亡くなった、あの業師さまじゃ。俗世におられた時から、大変腕利きの鍛冶師であられてなぁ。創砥ソートの打銘でいろいろな物をお作りなさった。わし、あのお方にずいぶん仲良くしてもらってのう。二人でよくこっそり、この卵で寺院を抜け出して遊んだものよ。うう、しかしやっぱりきついのう。目が回るのう』

『うえええええ! もうだめ。俺様もうだめえ!』

『エリク兄様、僕の頭の上で吐かないでよ?』

『うぎゅ……うがあ! お師匠さまあ! エリクぅ! ハヤトぉ! 息できないよう。きついようっ』

『ああぺぺ、大丈夫かね? わしらも小動物かなんかになった方がよかったかのう。ここは人間三人使い魔一匹にはちと、狭すぎるのう』

『ええっ?! 変身術? そ、そんなことしたら、ここ一発で破裂しちゃうよ』

『そ、そうだよお師匠様。ハヤトの言う通りだよ。変身術は生前なったもんにしかなれないんだよ。エリクはさぁ、エリクは……うおええええ!』

『うわあ! 吐くなぺぺー!』




「アスパシオンの、しっかりして」


 ここ、は?

 

 なんだか、なつかしい人たちの声が、聞こえていたような。

 なつかしい人たちのぬくもりを、感じていたような……。

 目を開ければ、真っ青な蒼穹。

 澄みきった青空を背景に、白ネズミがくりっくりっと首を傾げて、僕をのぞきこんでいる。

 僕はまだ、ウサギのままだ。気絶したままで、運び出されたらしい。

 真っ白に輝く湖の岸辺に横たわる僕のすぐ横に、あの大きな卵がぷかぷか浮いている。

 目的地についたんだ……。

 つまりここは、塩の湖? 真っ白い湖面はもしかして一面、塩?

「ここ。寺院の北の果てにある湖なんだぜ……」

 岸辺にうずくまっている黒き衣のおじさん――兄弟子様が呻いた。

 あの封印所の湖からこの白い塩の湖まで、どうやら一直線に通じる抜け道があるようだ。

 白い卵はそこを凄まじい勢いで回転しながら、ちびちびと進んでいったらしい。 

「おねえさまに所要時間五時間かかりました、とかいわれた……俺、偉い。よく耐えた。ふっ、ふふふっ、よく発狂しないで耐えぬいたぁ!」

 兄弟子様はなんだか自画自賛している。勝利の雄たけびのようだが、しきりに口を拭っているから、それなりに被害は受けているようだ。

 僕も気が遠くなったし。 

 リンも歩こうとして、よたたとよろけている。

 ああ、まっすぐに歩けない。ななめに行ってるよ。あ、ぱたりと倒れた。

 うわぁ、ほんとかわいいな、リンネズミ。

 動けてるの、すごいな。僕はまだ、ちょっと起き上がれそうにない……。

「へへ、ついに抜け出したぜえっ!」

 兄弟子様はよろけつつも立ち上がり、空をふり仰いだ。

 横たわる僕も天を眺めた。

 なんて蒼いんだろう。そしてなんて、広いんだろう。

 嬉しさで手足が震える。

 ついに。

 ついに僕らは、抜け出したのだ。外に出たのだ。

 あの陰鬱で怖ろしい寺院から。広い広い、世界へ――




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