くろがねの歌9 銀の鳥かご
恐ろしい黒幕、二位の長老シドニウス様。
かの方の真意を、僕はすぐに知るところとなった。
ひとしきり花火の話で盛り上がったあと、ヒアキントス様はレストに、瑠璃色の小瓶をさりげなく差し出したのだ。
「さて、私はぺぺさんを二位の御方のもとへお届けします。レスト、そなたはこれを。これは二位の御方にスメルニアから特別に取り寄せていただいた、「石皮病」の特効薬です」
すると金髪のレストは、パッと目を輝かせた。
「最長老様がわずらっている病の特効薬ですか! 二位の御方は、蒼鹿家が手に入れたことにせよと仰せなのですか?」
「ええ」
「なんというご配慮! 最長老様はきっと大変喜ばれて、お師さまの覚えがめでたくなりますね。二位の御方のお引き立てに感謝しなくては!」
「ですがレスト、私はこの栄誉を白鷹家に譲ろうと思います」
「えっ?」
「最長老様に渡すのではなく、スポンシオン様の弟子のフェンに、これを差し上げなさい。薬の効能をちゃんと説明して、どこかに置き忘れたふりをして、わざと盗らせるのです」
「え? ぬ、盗ませるんですか? 手癖の悪いあいつなら、確かにくすねるでしょうけど……」
「フェンのことです、実家の白鷹家から取り寄せたと嘘をついて師に渡すことでしょう。スポンシオン様は喜んで、この薬を最長老様に献上なさるでしょうね」
「なぜ二位の御方がお師さまにくださった手柄を、白鷹家に?」
不満げなレストに、ヒアキントス様はわざとらしくニッコリなさった。
「先日スポンシオン様から、美しい瑠璃石のゲーム盤をいただきましたからね。そのお礼です。でも私は表立って人に恩を売りたくはないのですよ」
「はあ。お師さまは本当に、人がよろしいというか。お心が広いというか。まあ、僕はお師さまのそんなところが好きなんですけどね」
レストは眉を下げて師に感心しながら、蒼一色の部屋を出ていった。とたんに肩をすくめて嘆息したヒアキントス様が、かごの中の僕を見やる。
「全く……将来蒼鹿家に戻って大公家を支えねばならぬ身なのに、我が目論みが読めぬとは。あなたは気づいているようですね、虹色の子」
「きゅう!」
注意を向けられたのは、僕が血相を変えて籠をがじがじ齧って出ようとしているからだ。
レストに渡した薬は、たぶん特効薬などではない。
二位の御方はくろがねの兵士で金獅子州に脅威を与える一方で、かの地方の後見人であられる最長老様を……。
ヒアキントス様はきっと、暗殺を命じられたのだ。でもおのれの手を汚したくなくて、他のお方の手を借りるつもりなんだろう。
あの頭頂ハゲのスポンシオンさまは、北五州の白鷹州公家の後見人。
その弟子のフェンは、白鷹家のもと第二公子。
彼らが下手人に選ばれた理由は、なんとなくわかる。
北五州をそれぞれ統べる五つの州公家は、永いこと争いあっている。
寺院内でも、各州公家ご出身の方々の仲は微妙。表面上はとりつくろってるらしいが、水面下ではいがみあっている……という噂はちらと聞いた事がある。
金獅子家出身の最長老様のもとでは、他の大公家出身の方たちはどなたも長老の位にない。
最長老様の暗殺が白鷹家のしわざとなれば――
「きゅううう!」
氷結の御方はそうですよとうなずき、涼やかな目をすうと細めた。
「金獅子家と白鷹家、両家の関係は最悪になりますね。
それから、ごぞんじですか? あなたの師アスパシオンは、実は白鷹家の庶子なんですよ。その彼がバルバトスに操られているとはいえ金獅子州を破壊するのも、金獅子州公にとっては、また面白くないこと。これでは、金獅子家と白鷹家の全面戦争が起こるやもしれませんね」
我が師が、州公家の血を引く庶子? まさかそんな……初耳だ。
しかしこれで他の州公同士が争えば、蒼鹿家はゆうゆうと高みの見物。なにかと利することとなるのは目に見えている。
さらに。
もし最長老様が暗殺されれば、次の最長老となるのは序列第二位のシドニウス様。
そして七人目の長老の席が、一人分空く……。
「きゅうううう!」
「そうですよ。新しい最長老に、新しい長老として推薦されるのはこの私」
それでこの方は、シドニウス様に協力しているのか!
「金獅子家州公は、シドニウス様に大きな借りをつくることでしょう。二位の御方はこれから金獅子州に赴いて、『宵の王』を倒す英雄となるのですから。ああ、あのお方はこう申されておりましたよ。兵士たちをとめるのは大変だろうと。金獅子州は蹂躙され、メキドの女王陛下は殺められる。しかし
氷結の御方は冷たい笑いと共に、恐ろしい言葉を形良い口からもらした。
被害が大きくなればなるほど。悲劇が起これば起こるほど。その原因が駆逐された時のありがたみは増大すると。
そんな。トルは、二位の方の踏み台にされる――!?
「きゅうううう!」
僕は必死に籠に齧りついた。これは大変な事態だ。
一刻も早くここを出なくては。陰謀に巻き込まれている人たちに、真実を伝えなければ!
フェン。スポンシオン様。最長老様。
そしてトル。だれよりもトルに……!!
だが銀の檻はとても硬くて、少しも傷つかない。
「無理ですよ。あなたは逃げられません、ペペさん。あなたはシドニウス様のものになるのです」
ヒアキントス様が勝ち誇った顔で僕が入った籠を抱えあげる。
どうしたらここから出られるだろう。どうしたら……!
『弟子ぃいい!』
ああもう。なんでこんな時にあの人を思い出すんだろう。およそ役にたたない人なのに。
爽やかなつむじ風は、二位の方の風に引き離されて以来ついぞ吹いてこない。
寺院の結界に阻まれているんだろうか。
しかしあの風になにができる? 魂だけの人に僕を助けられるわけがない。
おのれでどうにかしなければ。
どうにか!
僕ら導師見習いや導師様たちは、神への信仰をもっていない。
大陸諸国の多くが崇める太陽神すら崇めない。
神は生ける人間のためのもの。死者となって湖をわたった僕らには、必要ないものとされている。
しかしこの時僕は父さんや母さんや、犠牲となったあのテレイスの顔と一緒に、と天上の神々まで頭に思い浮かべて祈った。
どうか小さなウサギの我が身に、籠を破る力が宿るようにと。
ねっとりした手でメイを撫でまわしていた二位の方。あの方のものになるなんてまっぴらごめんだ。
平気で街を焼いて、テレイスを殺した人のものになるなんて絶対に……!
天は――僕を見捨てなかった。
ヒアキントス様が銀の籠を抱えて回廊に出るや。
「ぺぺさんの様子を見せて下さい!」
凛とした声が氷結の御方の足を止めてくれた。まっ白な羊皮紙と鉄筆を持った白肌のリンが駆けてきて、籠をひったくらん勢いでのぞきこむ。
彼女の後ろには蒼き衣の弟子たちがぞろっと、五、六人もついている。僕を見舞おうという子たちだ。
いの一番に街への復興に志願しそうなリンが寺院に残っているのは、正直驚きだったが。今からシドニウス様に元に戻してもらう、だから安心しなさい、と氷結の御方が黒き衣で籠を隠すと、リンは咳払いして羊皮紙を掲げてみせた。
「私は街の復興へ行かれるメディキウム様に、寺院の救護室を切り盛りするよう命じられました。寺院の弟子たちの健康管理は、救護室の管理者の務め。留守を預かる私は、弟子たちの様子を師に報告する義務があります。報告書類を作りますので、解呪の前に、ウサギの状態のままのぺぺさんを診察させて下さい」
「ぺぺさんの容態の所見は、昨日書いて救護室に送ったはずですが?」
警戒する氷結の御方に、リンは必死に食い下がった。ちら、ちら、と菫の瞳で心配げに僕を見ながら。
「いえ、自分の目でじかに患者を診察しなければ、薬術学の修行になりません。どうかお願いします」
「しかし――」
「あっ……ぺぺさんが、仰向けにひっくり返ってます!」
突然。リンは蒼白な顔でそう叫んだ。
「なんですって?」
「やけどがひどいそうですが、もしかしてショック症状が出たのでは?」
リン!
これは……!
彼女の意図するところを察して、僕はとっさに顔をゆがめ、こてんとあおむけになった。
氷結の御方が憮然と僕をのぞいてくる。
「……なるほど? なぜか死んだふりをしているようですね」
「死んだふり? ふりじゃないでしょう? 微動だにしないじゃないですか!」
リンが目をむいて訴えると、見舞いの子たちがわらわらと氷結の御方を取り囲んだ。
「あっ、ほんとだ!」「うごかないぞ」「うそ、ぺぺ……」
わざと白目をむいてやれば。見舞いの子のひとりが、僕が期待する言葉をするっと言ってくれた。
「これ、ほんとに死んじゃったんじゃ……」
「まさかそんなことは」
ヒアキントス様のため息が、籠の隙間から僕のお腹にかかる。
く、くすぐったい。でも我慢だ。
「ぴくとも動いてないじゃないですか! 急いで救護室へお越し下さい、処置します! シドニウス様はぺぺさんを弟子にのぞまれているんでしょう? こんな状態を見たらお嘆きになりますよ」
「ふむ……そう言われると痛いですね」
執心している僕に何かあれば、氷結の御方は管理不行き届きだと二位の方に睨まれる。
暗にそこを突いたリンは、籠持つ人をぐいぐい救護室に引っ張っていった。
白い敷き布の寝台が並ぶ部屋に押し込むや、籠をひったくるようにして取り上げ、ドンと診察台に置く。彼女はじっと菫の瞳で、まだら模様の僕を見つめてきた。
「外傷は直っているように見えますが、本当に動きません」
はぐぐ。死んだふり、しんどくなってきたんだけど。まだ動いたらだめだ……。
「まさか。さっきまで元気でしたよ? レストが救護室からいただいた軟膏で治療しましたからね」
「いいえ!」
リンは哀しげに首を横に振った。
「手足の先が硬直してます。これはもうだめかも……心臓をマッサージしてみます。籠の扉が、韻律で閉じられてますけど……」
「大事に保護しなければなりませんからね」
「開けてください。このまま死なせたら、本当に大事になりますよ」
強気のリン。す、すごい。導師様を脅すなんて。
むっつり顔の氷結の御方は二位の御方が怖いのだろうか、渋々韻律を解いて格子の入り口を開けた。
すっと入ってくるリンの白い手。
まだ我慢だ。籠の外に出されるまで、なんとか白目を維持しないと……。
「目が動いたんじゃないですか?」
氷結の御方が目ざとく気づいたその時。
僕をつかみ出したリンは、救護室の戸口に向かって思いっきり僕をぶん投げた。
「あっ……!」
わざとらしい声をあげ、まるで噛まれたかのように手をおさえながら。
しゃがんでちらと僕を見る彼女の菫の瞳が、逃げて、と叫んでいる。
リン!
リン、君は僕が囚われていると察してくれたんだな?
ありがとう……!!
僕はばねのような後ろ足で踏み切った。とっさに後ろ足でそこらへんの花瓶やら薬ビンやらツボやらを氷結の方に向かって蹴り飛ばし、足止めの韻律を唱えられるのを阻止。するとリンは顔をしかめながら立ち上がった瞬間、
「きゃあ! すみません!」「なっ……!」
僕がころがした花瓶にわざとけつまずいて、氷結の御方の右腕にしなだれかかってくれた。
右手を封じられたら韻律は放てない。なんて援護だ、すばらしい!
感謝しながら一気に戸口から外に転がり出ると、見舞いの子たちがのんきに歓声をあげた。
「飛びだしたぞ!」「息吹き返した!」
「でもなんかすごくてんぱってたよ」「おしっこがまんしてたんじゃないの?」
「ああ、
ドッと起こった笑いを背に、僕は弾丸のように駆けた。
力いっぱい足を動かしながら、寺院の最上階、最長老様の部屋をめざして。
僕は寺院の一階の回廊を駆け抜け、らせんの石階段をびゅんびゅん登った。
救護室は、すでにはるか後方。
ウサギの脚力のすごいこと。氷結の御方は簡単に追いつけないだろう。
二段抜かしどころか、三段四段、あっというまに飛び越えていける。
最長老様の居室は寺院の最上階にある。
入り口に獅子のタペストリーが下がっている執務室に飛び込み、きょろきょろ。
室内にある岩をくりぬいたアーチ型の戸口をいくつか抜ける。
応接室。読書室。書庫。ひと部屋しか与えられない普通の導師とは違い、最上階全部が最長老様お一人のものだ。
一番奥の寝室で、めざす人をようやく見つけた。
金地のタペストリーが一面にかかっている寝室は、北側の岩壁が削られないまませりだしており、ゆるやかなドームになっている。
最長老様は金地の絹の敷布が敷かれた猫足の優雅な寝台に座り、とても辛そうに腕をさすっておられた。左腕を病んでいるのだ。石皮病とは、患部が徐々に石のように硬くなっていく病。このままだと、いずれぴくとも動かなくなってしまう。
――「お加減はいかがです?」
寝室に飛びこもうとした僕は、部屋にたくさん人が集まっているのに気づいて凍りついた。
今のねっとり
長老様たち。それから北五州の後見人がそこに揃っておられた。
赤豹家のガイウス様。黒竜家のテムニオン様。そして、白鷹家のスポンシオン様。
どうやら最長老様が、皆様を部屋に召集なさったようだ。
「具合はかんばしくない。石皮病は不治の病であるからな。しかし蒼鹿の御方は何をしているのか。ウサギを入れた籠など、さして重くないだろうに」
えっ……。もしかしてヒアキントス様は、ここに僕を運ぶつもりだった?
シドニウス様は「哀れな」僕を公開解呪しようとしていたのか? まさかその場で長老様たちに、僕を引き取ることを宣言するつもりだったとか……。
慌てて隣の書庫に退いた僕の耳に、最長老様の深い嘆息が入ってきた。
「しかしバルバトスの妄執には困ったものだ。さきほどアスパシオンが国境の警備隊を撃破して、金獅子州に入ったと報告があった。ゆえにさきほど州公殿下は、『鉄の獅子』の使用を決断されたぞ」
導師の方々からどよめきがあがる。
「おお、『鉄の獅子』を」
「先のスメルニアとの大戦で活躍したという、あの?」
「大陸同盟から特例で保有と使用が認められている、古代兵器ですな?」
最長老様が自信満々に答える。
「いにしえのものは、いにしえのもので制するのが一番。くろがねの獅子どもがくろがねの兵士を駆逐しよう。
すなわち、他の州に害が及ぶ可能性は全くない。シドニウスどのが事を収めにいく必要もない。
北五州の後見人どのらよ、こたびのことは一切の手出しも援護も無用。我が金獅子家が独力でたちどころに事を鎮めようぞ。州公殿下方には、御心安く過ごされるようにと伝えるがよろしかろう」
「我らを慮ってのご助言、ありがとうございます。しかしこたびはほんに、白鷹家の者がとんでもないことをしでかしたものですねえ」
シドニウス様が、不気味なほど穏やかな声音で場をぶすりと刺した。
「まっすぐ金獅子州をめざすとは、なんと大胆な」
――「お待ち下さい二位の方。それは聞き捨てなりませぬ。
悪しきはバルバトス。アスパシオンは、金獅子家になんら恨みなどない。あれは操られているだけですぞ。それに白鷹州公家出身とはいえ庶子なれば……」
スポンシオン様が大声で反論なさるのを、二位の御方はふんと鼻で笑い飛ばした。
「破門されしアスパシオン、すなわちナッセルハヤート・フォン・アリョルビエールはたしかに庶子なれど、白鷹州公殿下その人の御子。公位継承権を持たぬとはいえ、必ずや父君と内通しておりましょう。そして。あの者がバルバトスと結託した可能性は否定できますまい?」
「な! なんですとっ」
シドニウス様が恐ろしい咎め立てをなさるや、スポンシオン様はうろたえて必死に弁明し始めた。
「最長老様! 白鷹家には、邪心も野望もございません。白鷹州公殿下は、金獅子家こそ北五州の盟主とはっきり認めておられます!」
うう、我が師をだしにされるとは。
ここでレストがフェンに首尾よく毒薬を盗ませたら。
白鷹家の印象は、最悪だ……!
二位の御方に面とむかって太刀打ちできる自信はない。
まずは毒薬がフェンに渡るのを阻止するのが得策だろうと、僕は踵を返して最上階から走り降りた。
レストはどこだ? フェンは?
二階付近までくると、足元に冷気が漂ってきた。まずい。氷結の御方の魔法の気配だ。
踊り場から恐ろしい導師の声が聞こえてくる。
「はなしなさい、メディキウムのリン」
リン?!
「待って下さい! 私がよりかかってお怪我をさせてしまったはずです。救護室で治療を……」
まさか、僕のために時間稼ぎをしようとしているのか?
「甘露を放つのはおやめなさい、メニス! 魅惑の吐息など私には効かぬ!」
「あう!」
ヒアキントス様の叫びと同時に響く、鈍い音。
「きううううう!!」
ああ、まだ人語が喋れない。リン、と叫んだつもりだったのに。
歯を食いしばって降りて見れば、リンは踊り場に腰を落としていた。
凍てつく凍気に跳ね飛ばされ、岩壁に叩きつけられたようだ。
彼女の前に仁王立ちの氷結の御方に向かって僕は飛びかかり――
「く! 使い魔ぺぺ!」
その見目良い顔にゲシリと後ろ足を食らわせて踊り場を越えた。
「きううううう!」
リンから注意を反らそうと、こっちだ! と叫べどやはり人語は出ない。
舌打ちしながら一気に一階まで降りて回廊を走ると、回廊で囲まれた中庭にきらっと金髪頭が見えた。
――レストだ!
フェンらしき蒼き衣の弟子がそばにいる……!
僕は思い切り後ろ足を蹴り、二人の少年の間に弾丸のごとく飛び込んだ。
「ひ!?」「なんだああ?!」
瑠璃色の小瓶、発見!
フェンに自慢げに見せていたレストの手から、僕は渾身の力を込め、身体を回転させて瓶を蹴り落とした。
「必殺! 後ろ足蹴りいいいいいいっ!!」
なぜにそんな技名が出たのかわからなかったが、自然に口をついて出た。
瓶は地に落下。
ダメ押しとばかりに、僕はそいつを思いっきり中庭の彼方へ蹴り飛ばした。
蹴鞠の皮球のごとく。
ぱりんと小気味良い音がして瓶が割れる。
「ま、まだらウサギ?! なにをする!!」
「え? これ、ウサギにされたっていうぺぺ?!」
仰天するレストとフェンに説明しているひまも、瓶を破壊できて安堵するひまも、僕にはなかった。
背後から、空恐ろしい音が聞こえてきたからだ。
ヴン
と、空を斬る音が。
「う?」
眉根を寄せて振り向くと。背後から、大きな白い鳥が中庭に颯爽と入ってくるのが見えた。
それは――大きな鷹だった。
そいつは巨大な翼を広げてすうと滑空し、僕に襲い掛かってきた。
『お待ちなさい、使い魔ぺぺ!』
凍てつく氷結の御方の声を放ちながら。
恐ろしく獰猛な、その嘴と爪で――。
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