第28話 チュアリの世界 回帰の世界
「もし仮に今すぐ協力を要請するとすればどちらを選ぶべきですか? 」
ソルジャがそう質問すると
「体術の方ですね。魔法は戦力になってくれる人となってくれない人の差が激しいので安定性に欠けます」
と聖は応える。
「レジスタンスの指令さん・・・損な事を聞いて何を?」
チュアリがそう疑問に思ったのと間を置かずして
「兎に角、今日は一旦休みましょう、戦闘行為もあった以上、疲労が蓄積している筈です」
「そうですね。そうしましょう」
聖は休息を取る様に言い、希有も同調する。そして一行は床に入り、翌日に備える。
そして翌日、聖は一行を人通りが少ない裏道に集め
「私達は只今からチュアリの世界、魔法の世界へと移動します」
と告げる。
「え!?でも・・」
困惑するチュアリに
「昨日のあれは・・・」
と返答するソルジャ、その瞬間
「あっ・・・(察し)」
とその意図に気付くチュアリ。
「私達と共に逃れてきたレジスタンスのメンバーは同行するメンバーと此の世界に残って連絡係を受け持ってもらうメンバーに別れてもらうわね」
「浦島太郎になるのを避けるためにも其がベストでしょうね」
ロザリーの提案に望も同意する。
「ディメンジョン・ゲート、展開完了!!いつでも行けます!!」
意図を汲み取ったチュアリの叫びに
「今度こそ成功させて見せる!!」
と続けるロザリー。そしてディメンジョンゲートを潜り、他のメンバーもそれに続くのであった。
ゲートを潜り終えるとそこは争いとは無縁な雰囲気が漂う長閑な平原が広がっていた。
「ここは・・・」
テレサそう言うと
「マジック・パラインだね。此の世界の全てと繋がっていると言える平原だよ」
と説明するチュアリ。
「長閑ですね・・・こういう状況でなければのんびりと漂いたいです」
「ええ、でも当然ながら今はそんな余裕は無いわ。チュアリ、此の世界のレジスタンスは・・・」
ソルジャ、ロザリーもその閑静さに思わず和みそうになる。
「此の辺りだと・・・ここ、フォレスト・コテージのレジスタンスが一番近いですね」
そう言ったチュアリは森のある方角を指差す。
「随分深そうな森ね」
少し恐怖心が混じった声で生花が言うと
「ええ、実際深いですよ」
とチュアリは続け、
「そんなところに住んでいて大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。さ、行こう!!クイック・ムーヴ」
少し困惑するテレサを諭したチュアリは魔法を使い、一行を高速で森の中に移動させる。
「ちょ・・・一寸早すぎませんか?」
ジェットコースター張りの移動スピードに困惑し耐えながらも辛うじて望が言葉を発すると
「速すぎるかもしれませんが今は時間がありません。辛抱してください!!」
と言い、スピードを優先するチュアリ。その勢いのまま一行が森の中に有る集落に辿り着くとそこには見た目は只の人としか思えない人達がいた。その中の一人が
「チュアリ君?」
と聞いてくると
「ええ、約束通り帰ってきたよ」
チュアリはそう告げる。
「皆!!チュアリ君が帰ってきたよ!!」
その瞬間にその住人は叫び、他の住民も集まってくる。
「チュアリ君、よく戻ってきてくれました。そしてそこにおられるのが・・・」
その中の一人が話し始めると
「はい。異世界の方々です。こんな状況でなければゆっくり自己紹介をしたい所なのですが、今はそんな時間は有りません。略式で自己紹介をした後、直ちに現状を教えて下さい」
と何時になく率先して発言するチュアリ、その言葉からは気合が伝わる。
「分かりました。では・・・」
そう告げたその人は名前だけの簡単な自己紹介を済ませ、その人達から此の世界の現状を聞く。
「戦況は五分以上に押し返しつつある・・・ですか」
「はい。制圧されていたエリアも徐々にでは有りますが奪還出来てきています。此の勢いに・・・」
勢いに乗っている事を確認するチュアリ、だがその顔に余裕は無かった。
「まだ・・・油断は出来ないよ」
体験を伴った顔からただ事では無い事を察したのか
「どう言う事です?」
その人の顔も少し険しくなる。
「別世界で新たに魔王軍に加わった霜月一日と言う少女が居るんです。その少女が加わってから魔王軍の行動パターンに明らかに変化が見える。これ迄の力押しではなく、明らかに策略が加わってきました」
「私達の世界も、ロザリーさんの世界もそれで・・・」
「ええ、だからその少女が動いてくる前に決着を着けたいのだけれど・・・」
チュアリの忠告に望、ロザリーも続ける。
その頃、フリーチェ達も又、一日達を交えて話し合っていた。
「奴等が私の世界に向かった?」
「ええ、ゲートの進路から考えて間違い有りません。回帰先輩の世界に出口の反応が出た事も確認済みです」
一日の告げる事実に表情が曇る回帰。
「しかし・・・ゲートの技術分析はまだ出来て無いんじゃ・・・」
「ええ、ですが其はこの前までの話。昨日シオンのお陰で奴等にもう一度ゲートを使わせる事により不足していたデータを収集する事が出来ました」
ヒリズが質問すると一日は先日の作戦でデータを得た事を告げる。其を聞いたフリーチェは
「恐らく当初から目的は其だったのだろうな・・・やはり恐ろしい少女だ・・・」
と一日に少し恐れにも似た思いを抱くのであった。
「今後は彼等がゲートを使用しても引き続き追跡が可能となります」
フリーチェの懸念に気付いていないのか居るのか、どっちとも取れる澄ました顔で続ける一日。
「しかし・・・私の世界とは厄介な所に移動されたな・・・」
困り顔を見せる回帰。
「厄介とは?」
「ああ、一日には未だ話してなかったな。これを見てくれ」
そう告げた回帰は自身の世界の世界地図と勢力図を出す。
「成る程・・・一度は制圧したものの、徐々に綻びが出始めている・・・と?」
「ああ、情けないがそう言う事だ」
一日の指摘に反論出来ないといった趣の声で返答する回帰。
「此の世界は魔法を使い、全ての人間が自然との共生を行っている。故に逸れに翻弄され、物量で一気に攻める事が出来た当初から徐々に押し返されているのだ」
その説明にフリーチェも加わる。だがその勢力図を見た一日は
「此の動き方・・・各地がバラバラに動いているのではありませんね」
と告げる。
「どういう事だい?」
「何処かに中央となる存在、私達で言うフリーチェ様の様な存在がいると言うことですよ」
回帰の質問に返答する一日、その分析能力も又、彼女の武器の一つであった。
「フリーチェ様、回帰先輩、こちらが劣勢になってからの一連の戦いの内容を拝見させて頂けますか?」
「あ、ああ、構わないが・・・」
「これでいいのか?」
両社はそう言うとモニターに一日の要求したデータを表示する。
「・・・やはり纏まりが見られますね・・・」
そう告げる一日に
「どうしてそう言えるんだ?」
と質問する回帰。
「最初の内は一ヶ所ずつ確実に来ていますが、ここ、戦況が四対六に傾いた辺りから複数のエリアを同時に奪回してきています。
ある程度戦力が整ってきたが故に分散しているのでしょうが、其々の作戦内容に一糸の乱れも有りません。
ほぼ同時刻に仕掛け、そしてほぼ同時刻に終える・・・誰かが指揮していなければ出来ない芸当です」
とその根拠を話す。
「つまり、誰かが作戦を立案し指示していると?」
神消が一日の解説の真意に気付く。
「そう言う事です。そしてそれらから導き出される答えは・・・」
「その指揮官を叩く。そう言う事か」
他の面々もそれに気付く。
「ええ、ですが現状ではその指揮官がどこにいるのか分からない以上、そう簡単にはいかないでしょうね」
一日の現実味を帯びた表情に
「つまり・・・打つ手がないってことか?」
「少なくとも次の攻撃では・・・ですが、その後に此方の打開策が打てる可能性は十分あります」
回帰がそう聞くと一日も残念な顔を浮かべて返答する。
「僕の世界の時みたいに質量で一気に・・・って訳には行かないのかい?」
ヒリズが質問するが一日は
「ええ、現状で彼等は自分達の行動が私達に気付かれているとは思っていません。その為下手にこちらから動くと相手のガードが固くなり、指揮官の位置を割り出すのがより困難になる可能性があります」
と現実的な観点からそれを断念する。
「先ずは割り出すのが第一って事か。まどろっこしいが仕方ねえ。力業だけだったからここまで押し返されてきたんだからな」
「恐らく彼らは直ぐにでも次の攻撃に移ってくるでしょう。そして申し訳有りませんがその戦いは私達の負け戦となります。ですが・・・」
神妙な顔をして告げる一日にフリーチェは
「その際に反撃に転じる準備をすると言う事か」
と告げ、それに首を縦に振る一日。それに続けて
「はい。犠牲を出すことをお許し下さい」
と謝意を述べる。直後に「私からもお願いします」
回帰も共に頭を下げ、其を見たフリーチェは
「わかった。具体的な作戦は任せる」
と言う。
同じ頃、聖達も又今後の行動について話し合っていた。
「今の内に一気に奪回を進めるのは分かったけど、具体的にはどうするの?」
「まずは此の二ヶ所を奪回します」
チュアリの質問に現地住民は地図をみせ、その場所を指差す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます