第29話 不自然な勝利

「つまり、北のシー・コテージと南のマウンテン・ビルを同時に攻略するんだね」「ええ、司令官によると此の二ヶ所を落とせば戦力差は八対二となり、一気に敵の本陣まで攻め込む事も可能となります」


チュアリの解説に同意する現地住民。


「ねえ、ずっと気になっていたんだけど・・・その司令官とはどうやって連絡を取り合っているの?」


ロザリーが疑問を口に出すと


「あ、そっか・・・未だ説明してなかったね。此の世界の人間は皆自分の中に魔力の源、マジカル・ハートを持っていて、そこから伝わる魔力を通じて連絡を取り合っているんだ。

此は物心つく前から誰でも使えるようになる不変の能力。だから盗聴されることもないんだよ」


チュアリは説明を忘れていたことに気付き説明を行う。


「盗聴されることがないってのは大きいな。だから反撃に移れたって訳か」


作戦が筒抜けになった経験からか、それに大きなメリットを見出しているテレサ。


「はい。ですが指揮官がどこにおられるのか、それは・・・」


「皆さんが異世界からの来訪者ですね」


現地住民が何かを言いかけた直後、一行の背後から女性が現れてこう告げる。


「貴方は・・・?」


聖がそう尋ねると


「私は司令より指示を預かってきたキーパーと言う者です。残念ながら司令の居場所についてお答えすることは出来ませんが」


キーパーと名乗った女性はそう告げる。


「身の安全の為に・・か?」

「ええ、司令の居場所はレジスタンス内でも上層部の極一部にしか伝えられていませんので。私は一応知っては要るのですが・・・」


テレサの質問に頷くキーパー。


「そうですか。では仕方有りません。で、その側近さんが何の用事で?」

「あなた方は次の奪還作戦には参加せず、最終決戦まで此方の奥の手として待機してほしいと言う司令の伝言を伝えに来ました」


キーパーは指令の伝言としてこの一言を伝える。


「つまり・・・今私達が出ていくと奴等に此方の動きを察知されるかもしれないってこと?」

「ええ、申し訳有りませんが・・・」


生花が困惑して言うとキーパーは頷き、同時に申し訳ないという表情を浮かべる。


「ま、仕方ないか。其が得策なのであれば従いましょう」


少し不満そうな顔を見せつつも従う事を提案する希有。そんな希有を見たキーパーは


「ご了承ありがとうございます。実の所次の動きはもう始まっています。ウォーター・スクリーン」


と言って水の液晶を出現させそこにどこかの光景を写し出す。それは此の世界の人と魔王軍の兵士が戦っている工芸だった。


「此は・・・」


聖がもしかしてと言う表情を浮かべると


「ええ、今話に出てきた二ヶ所の作戦行動中です」


と告げるキーパー。どの道間に合っていなかったのだと思い、不服そうな顔をしていた一行の顔も和らぐ。


「もう作戦は開始されてるってことか・・・」

「ええ、この先手の早さで私たちは今まで戦ってきたのですから」


キーパーはそう解説する。だがこの光景を見たロザリーは


「確かに早い・・・でも妙だわ。敵の動きが・・・それに数も・・・」


と違和感を覚える。実際その作戦場所ではその光景を身近で見つめる一日の姿があった。


そして作戦が終わり、魔王軍が撤退すると一日もそれとは別に後退する。


だがその表情にはあの不気味さがあり、


「成程ね・・・見する啓発の効果で奴等のからくりは分かった。次は・・・」


と呟いて手元の端末で何かを調べ始める。そしてあるデータに行き着くと薄ら笑いを浮かべるのであった。


「凄い・・・これならこの世界を・・・」

「ああ、これなら・・・!!」

感嘆し、希望を抱く聖達。だが聖は


「・・・妙だな・・・奴等の抵抗が弱すぎる・・・これは単純に勢いがあるからなのか、それとも・・・」


とロザリー同様、どこか違和感を覚えるのであった。


「それにしてもチュアリ君が異世界に旅立っていたとは」


そう尋ねるキーパーに


「え?僕の事を知っているんですか?」


と困惑するチュアリ。


更にキーパーは


「直接の面識は無いけど君の事は聞いているよ。サンク君から」


と続け


「サンクから?」


と返答するチュアリ。その顔はどこか懐かさが浮かんでいた。


「知っている人なの?」


ロザリーが聞くと


「うん、幼馴染だよ。そして同時にライバルでもあったね」


と頷くチュアリ。



「幼馴染でありライバル?」

「うん。ずっと昔から練習も遊びも勉強も共にしてきた。この世界が侵攻を受けた時に離れ離れになっちゃったけど無事だったんだね」


無事を喜ぶチュアリにキーパーは


「この作戦が終わったらぜひ会って頂きたいのです。彼もそれを望んで居ます」


と告げ、それを聞いた聖は


「なら、その為にも次の作戦、ぜひとも成功させなければな」

「ええ。この世界だけでなく、他の世界の為にも!!」


と気合を入れなおし、それにチュアリも続く。


一方、本部に戻った一日は


「今回の負け戦の結果、逆転に行き着くだけの十分な情報を得る事が出来ました」


そうフリーチェに報告し、それを聞いたフリーチェは


「そうか・・・で、具体的には?」


と問いかける。


「奴等の連携の要を知る事が出来ました故、そこを狙えばいいというのは先日も申し上げた通りです。そしてそれを実践する為に・・・」


と言い、その作戦の内容を説明する。


「何と・・・そんな作戦を・・・」

「俺達であれば到底思い浮かばない作戦だな・・・」


ヒリズと神消が困惑するのを横目に一日は


「後は実行するだけです」


と言う。


「反対する理由は無い、実行は任せる」


フリーチェがそう告げると回帰は


「私の出番もちゃんと用意してくれてるのが嬉しいぜ」

「先輩を差し置いていく訳には行きませんから」


と一日に感謝の弁を述べるが一日の内心には


「私の仮説を証明する為にも・・・ですけどね」


と言う考えもあった。


その後もこの世界のレジスタンスの快進撃は続き、遂にこの世界の最大拠点、ネイチャー・サンクチュアリを残すのみとなる。


「いよいよ最後の解放戦となるのか」

「ええ、ここで勝利出来れば他の世界の奪還にも弾みを着ける事が出来るかもしれません。

だとすれば、ここでの勝利は他の世界にとっても大きな意味を持つ物となります」と


聖とロザリーが気合を入れなおすと


「その為にも絶対に勝たないと行けませんね」


とチュアリも続ける。


そこに来たキーパーが


「間もなく我々は総攻撃をかけます。皆さんには申し訳有りませんが、突入部隊の中核となっていただきたいのです」


と告げるとチュアリは


「了解しました。もとよりそのつもりでしたから」

「快いご了承、心から感謝致します」


と言い、双方の意思は纏まっていく。


テレサの


「あと数分で始まるぜ」


と言う声からカウントダウンが始まり、五分後、レジスタンスと聖達はネイチャー・サンクチュアリに対して全戦力を投入し、一大決戦の幕を開ける。


敵の数をみた聖が


「流石に魔王軍の兵士も多い。無傷では厳しいか・・・」


と言うがチュアリは


「多少の傷は怯んでいられません。一気に攻めますよ。マジカル・ブラスター!!」


と言って両手から光を放ち、その光を魔王軍の兵士に当てて消滅させる。


テレサは


「気合い入ってんな、チュアリ。俺も負けてらんねえ!!バースト・ナックル」と言って両手の拳に力を込めて兵士を殴り、打ち砕いていき、其を見たロザリーも


「私も同じ気持ちよ!!サンダー・ボルト!!」


と言って空から雷を落とし魔王軍の兵士に当てて蒸発させていく。


生花、望、希有も「私達も今出来ることを!!」と言って手に持った銃を確実に撃ち、兵士を確実に仕留めていく。そして数の多さからある程度の負傷者は出、一行も其なりに傷を負いつつもネイチャー・サンクチュアリの中枢となる王宮へと辿り着く。


「ここを奪還すれば後は・・・」


そう言う成果だが聖は


「いえ、未だ油断は出来ません。敵の抵抗に不自然な点があります」と言い、


「其は僕も同じ考えです」


チュアリもそう続ける。


「ええ、霜月一日の配下と思われる子供兵士や魔王軍の幹部達が未だ出てきていない。余りにも遅すぎるわこの中に大挙して待ち構えているかも知れない」


「その可能性はありますが、今は数でも此方が多い、その上で・・・」


希有はそう言うが、聖は


「いや・・・此はいくらなんでも不自然過ぎる・・・もしかして、全く別の目的があるのか?」


内心の疑念を消せない。


後から来たレジスタンスメンバーと共に一行は王宮内に突入する。しかしそこは一行の予想に反して静まり返っており、迎撃に現れたのも魔王軍の兵士のみであった。


「まだ兵士で大丈夫と思ってるって事?」


望は困惑するが一行は兵士を一掃し、王宮内に散開していく。しかし幹部や子供兵士は一向に見つからず、王宮の全てをさがしても遂には出てくることはなかった。


「結局最後まで出てきませんでしたね」

「この世界は既に要済みと言う事か・・・?」


生花と聖の疑問を加速させるように


「魔法で他のエリアや王宮内のレジスタンスメンバーに連絡してみましたが、やはり見つかっていないと言う事です」


とチュアリも告げる。


「チュアリ、有り難う。作戦は成功したよ。」


その直後、チュアリに声が響いてくる。

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