第12話 偽りの先へ

聖の案内で取り合えず身を隠すことにした秋月家と命の母達だが、その顔は落ち込みが支配していた。


「命・・・せっかく見つけられたのに・・・」


落胆を隠しきれない生花。


「ええ・・」

「お兄ちゃんの偽者が現れたってことは、お兄ちゃんは・・・」


その落胆は秋月家の面々も同じであった。


「現状では未だ何とも言えませんね・・・今は皆さんここにいて気持ちを落ち着かせてください」


聖はそう言って部屋の外に出、そこにいた他のメンバーと会話する。


「それにしても気になるわね・・・」

「ああ、命君の後を付けていたら突然走りだし、その先に探し人の偽者がいた。此は偶然にしては出来すぎてる。だがこれ迄の奴等の動きから見てこの世界で動いているのは相当な策士と考えていい。そんな奴がこんな安易な失策を投じるだろうか?俺でも此の位の疑問は分かる」


ロザリーとテレサの疑問に


「考えられるのは、これ自体が何かの布石か・・・兎に角、日本を占領かに置かれた事も踏まえると敵の策を防いだとは考えない方がいいかも知れませんね」

「ああ、それについに奴等の戦力も動き出した。この点も警戒が必要だろう」


チュアリと聖は一応の回答を付ける。


「そう、じゃ上手く撒いたんだね。」

「うん。やっぱり思った通りだった」


それと時を同じくして今回の追跡対象、命はシオン、一日、木の葉、言葉と会話をしていた。


「これで、日本に置ける障害は絞り込めたわね」

「例の事件の直接の関係者ですね」

「ええ、彼らは今の世界においてなお、共通の目的があるが故に繋がっている。そしてその繋がりはそう簡単には切れないでしょうね」


現状を分析、解説する一日。そこに木の葉が


「しかし、であるなら何故、あの様な陳腐なイミテーションを送り込んだのですか?」


と問いかける。それを聞いたシオンが


「陳腐なって、木の葉・・・」

「失礼、言葉が過ぎました」


諭すと木の葉は謝意を述べるが


「構わないわ。私自身、あのイミテーションは陳腐な物だと思っていたから。予想以上にあっさりと見破られたもの。でもね、一度フェイクを具材にしておくと・・・」


と一日はまるで意に介さない反応をする。


「具材・・・?」


そう言葉が聞くと


「ねえ、人間が一番絶望を感じる時って何時だと思う?」

「其は簡単ですよ・・・あっ(察し)」

「そういう事。そろそろ例の法案も通る頃だし、次の一手を考えておかないとね」


言葉の疑問への返答になる様なならない様な、そんな発言をする一日、だがその顔は又しても邪悪な笑みを浮かべていた。


一方、秋月家と命の母達は落ち着きを取り戻し、聖達と向かい合って今後の事について話し合っていた。


「皆さん・・・私達は決めました。秋月家の皆さんと同様、私達も皆さんに協力します」


決意を固めた顔で告げる生花。それを見た聖は


「其は大変ありがたいです。ですが・・・」

「分かっています。決して勝手な行動は致しません。例え命が関わっている事だとしても」


生花の顔が変わらない事を確認した聖は


「分かりました。では今後ともよろしくお願いします」


と同意する。だがその直後、聖の元に何かの連絡が入り、それに応対する。


「何ですって!?」


直後に驚嘆した表情を浮かべる聖。それを見た未末が


「一体何があったんですか!?」


と聞くと聖は


「たった今、今後外国から日本に入国する人間に対して例の怪事件に関する身辺調査を義務付ける法律が成立したとの情報が入ってきました」


とその内容を告げる。


「つまり、今後は日本への入国が非常に厳しいものになると?」


希有の解説を聞き、スマートフォンの検索をかける未末。


「でも可笑しいよ!!そんな話、ニュースでもネットでも全然流れてない!!」


実際、未末の開いた複数のニュースサイトではそんなニュースは何一つ流れていない。望は慌ててテレビを付け、各チャンネルを確認するがこちらも流れていない。


「だとすると考えられるのは一つだね。外部への情報が一切提供されないままに成立した」


そう断言するチュアリ。


「そんな事が有るのですか・・・」

「普通に考えれば有り得ないでしょうね。でしょうけど・・・今の日本は内部に侵入した魔王軍に実質占領されている状態です。恐らく今日遭遇した兵力のような存在が既に政治、司法も侵食しているのでしょう。現状魔王軍に不利な政策は実質行えません」


狼狽する望に対し解説を行うロザリー。


「しかし、外国からの入国を制限すると入っても既に先日の条約は世界中で見られています。日本に入りにくくなることは分かるのでは?」


希有が疑問を出すと


「恐らくこの成立はテストケースと考えられます。より大きな法案を成立させるための」


聖はその疑問に直ぐ様応える。


「首相も今は法案の成立を少し送らせるのが精一杯だ。魔王軍と直接関わってしまった以上、法案の拒否をしたところで退任に追い込まれ、奴等の息がかかった別の内閣が生まれるだけなっちまうからな。現状では今の首相に少しでも長く任期を全うしてもらう他はない」


そう解説するのはテレサであった。


「しかし、そんな事をすれば日本にも少なからず影響が出るのでは?」

「経済は既に入り込んだ勢力が循環させている。そして国際社会から孤立したところで魔王軍がいる以上安泰・・・と考えるのが筋なのでしょうが、どうもそれだけじゃない気がするんです。もっと裏に何か、別の大きな目的があるような・・・」


言いしれぬ不安を抱えた状態である事を改めて実感するロザリー。


「とにかく現状では命君の現在の居住先を特定し、保護する事が最優先事項となるでしょう」

「では、明日も小学校を?」

「ええ、現状、それ以外に有効な手だては見つかりません」


そう言う聖の提案に反対する者は居なかった。

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