第六十二話 漏れていた理由

「それこそが目的とはどういう事です?」

「今の状況はあくまで仕掛けた側が返り討ちにしているという構図です。このまま受けた側が報復すればお互いに・・・となりますが、そうでなければ・・・」

「仕掛けた側が何時までも悪者となり、自分達は被害者であると主張出来る・・・」

「そうなれば受けている側の背後に居る魔王軍は実質的にこの世界を支配出来る事になります」


望、生花の問いかけに返答する聖、その表情に余裕は無く、返答も残酷な物であった。その直後


「臨時ニュースです!!たった今東京都世田谷区の病院においてテロリストが潜伏していたとの情報が入り、その構成員が拘束されました」


と言うニュースキャスターの発言が耳に入り、一行の注意は直ぐ様テレビ画面へと向かう。そこには以前一向に協力を申し出てくれた病院が映し出され、そこにいた研究員が身柄を魔王軍に拘束されている姿が見えた。


「あの病院は・・・私達に協力を約束してくれた・・・」


生花はそう言いかけて絶句する。


「調べによりますと、この病院の研究施設において以前東京を襲撃した謎の生物のサンプルを捕獲し研究、それを兵器に転用しようと考えていたという事です。調べに対し構成員は容疑を否認しているという事で、引き続き裏付け・・・」


ニュースが流れ終わる前に希有が電源を落とし、その場には重い沈黙が流れる。


「くそっ!!これでは・・・」


アメーバの希望が途絶え、重い空気が流れる所に日本首相から連絡が入る。聖がそれに応対すると


「・・・!!何ですって!!」


これまでに無い大きさと驚きの声を上げる聖。


「一体・・・どうしたんです?」


恐る恐る聞く望、その直後聖が語ったのは


「今のニュースで拘束された研究員を仲間と呼び、救出の為に武力を行使する事を進行している全ての国が決めたという連絡が入った・・・更にその為の戦力は惜しむ事無く投入すると・・・」


と言う余りにも残酷な発言だった。


「そんな・・・それじゃまるで世界大戦・・・」

「これが・・・泥沼の戦争・・・」


キーパーがそう呟くが、聖は


「いえ、戦争にもならないかもしれません・・・恐らく奴等はここで反対側の戦力を全て叩くつもりでしょう」


と更に残酷な一言を付け加える。


「くっ・・・私達が不在の間を狙って・・・」

「・・・!?一寸待って下さい・・・何か異質な気を感じます」


望が唇を噛んだ直後、キーパーはそう一言呟く。


「異質な気?」

「はい・・・こっちです」


キーパーはそう言うと二階で寝ている未末の元に一行を連れていく。


「未末・・・」


あの時か全く動かない未末の姿を見つめる望、希有もそれに気付き共に目を合わせる。


「それで・・・その異質な気とは?」


ソルジャのその言葉に望、希有も本来の目的に戻りキーパーの顔を見る。


「一寸待って下さい・・・見えた!!マジック・リアライズ」


キーパーがそう叫ぶと未末の体から靄の様な物が浮かび上がって来る。


「こ、これは・・・!?」


靄を見た希有はたじろぎ、望は思わず壁に倒れる。


「この感じ・・・この靄はあの霜月一日と呼ばれる少女が放っていた力と同じ気を感じます。恐らくこの魔力を通じて此方の情報を入手していたのでしょう」


キーパーが告げた事実、それは希有と望にとって受け入れがたい物であった。


「つまり・・・未末は此方の情報を得る為に利用されていた・・・!?」

「確かにそう考えると此方側の情報の内、この家の中で話した情報だけが向こうに漏れていた事に納得がいきますが・・・」


聖は冷静に答えを告げるが、それを聞くまでもなく望と希有は呆然自失となっていた。


「じゃ、あの時の攻撃は・・・」


生花はそう口にし、デパートの屋上での事を思い出し語る。


「未末への攻撃が・・・くそっ!!」

「あの少女の事ですから恐らくそこまで計算ずくだったのでしょうね・・・」

「昏睡状態の子を放置は出来ない・・・という訳ですか・・・そこを付け込んで知らぬ間にスパイにする。許せませんね!!」


希有、望だけでなく、その場にいた全員が一日への怒りを改める。その直後、聖が手に持っていた通信機から


「君達!!大変だ、今世界各国で東京での拘束事件の被害者を連れ出す為の戦力が続々と出撃している。加えて支援を受けている国へも同罪として攻撃すると・・・」


という日本首相の声が聞こえてくる。未末越しに情報が漏れていた事に気付いた聖達はひっそりと外に出てから返答する。


「こんなに早くも攻撃を仕掛けようとするなんて・・・一体何を・・・」


狙いが読めない為か、聖も困惑を隠せない。


「攻撃開始は本日深夜、その事を知っておいてくれ」


日本首相はそれだけを告げて通信を切る。


「此方の状況を配慮してくれたのでしょうか?」

「かもしれないが、今はそれを嬉しく思っている余裕もない」


あまりにも早い攻撃の宣言、その狙いが掴めない聖達。


「攻撃までの動きの速さ・・・それに規模が分からないから可能な限り支援出来ればする。この考えで行くしかない」


聖の苦肉の策に他の面々も同意するほかなかった。


そして無情にも時は過ぎ、侵攻作戦が開始される。侵攻側の戦力は次々に飛び立ち、或いは既に現地に潜伏して時を待っていた。


「遂に時間が来てしまったか・・・」


秋月家で日本首相から送られてくる現状を見つめながら希有が呟く。


「魔力障壁を張る事でこちらの会話は遮断しています。これならば少なくともこちらの会話が漏れる事は無いと思いますが・・・」

「敵の中にキーパーさんと同じ世界の住民が居る以上、それも過信は出来ない・・・酷な言い方になりますが、そういう事なのでしょう」


キーパーの何処か歯切れの悪い会話、その理由をソルジャは的確に言い当てるのであった。


「未末・・・お前は落ち着いて眠る事すらも出来なかったのか・・・あの少女は何処までこちらを弄する!!」

「自分を世革だと言っていた・・・でも、ここまでするのであれば例えそれが・・・」


怒りと悔しさを必死に抑える望と希有。


「命・・・貴方はそんな奴に虜にされているの・・・」


生花もそれに続く。


だがいざ侵攻が開始されそうになった次の瞬間、突然出撃した全ての戦力が消滅する。


「こ、これは一体!?」


動揺する生花にソルジャは


「これは・・・反応が消えた?それも突然・・・」


その直後、暗い筈の夜空に突如として星明りとは違う何かが映し出される。窓からそれに気付いた一行が外に出るとそこにはフリーチェが映し出されていた。


「これは・・・あの時と同じ・・・」


嘗てこの世界に交流交渉を持ち込んだ時と全く同じ方法で映し出されているのだと悟った聖。映し出されたフリーチェはその口を動かし


「皆さん、私はこの世界ニ侵略戦争を仕掛ける為に来たのではありません。ですが新たな存在との交流が少なからず軋轢を生む。これも又事実なのでしょう。私達としてもその方達に黙って殺されてしまう訳には行きません。

そこで今回は強引ですが、その剣を取り上げさせて頂きました。無論、人命は奪っていません」


そう語ると世界中の映像を見せ、消滅した兵器に搭乗していたパイロット等が全員無事に送り返されている事を見せる。


「我々に対する挑戦は受けはします。ですが民間人を巻き込む様なやり方には賛同できません。来るのであれば真正面から来て下さい」


フリーチェはそれを告げ、映し出していた姿を消す。


「くそっ!!やっぱり事前に察知されていたってのか!!」


腕を下に降り悔しがる希有に聖は


「いえ、恐らくはこの侵攻自体、例の奇病から続く人心操作の延長線上なのでしょう・・・」


と更なる衝撃を告げる。

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