第六十三話 残された希望

「延長線上・・・」

「ええ、人の心を操作し、世界を分断し、一方に加勢し、もう一方を侵略者にする。これはその場凌ぎの知恵で出来る事ではありません。初めからここまでを計算していた、そう考える方が筋でしょう」

「じゃあ、未末越しに私達の情報を入手していたのも・・・」

「他の世界の情報を入手し、迎撃態勢を整えていたのと同時にこの世界で動きやすくする。恐らくこの二点が目的でしょう。ここに戻ってくるまでに発生した異空間移動中の奔流も含めて」


聖の的確な解説にただ頷くしかで出来ない他の面々。夜の闇ではなく、更なる黒が彼等を覆いつつあった。それから一行は一言も話さずに秋月家に戻り床に就く。否、正確には話さないのではなく話せないのであった。絶望に閉ざされたこの先を予想してしまったのだ。


そして翌日、案の定世界は昨夜の話題で持ちきりとなり侵攻した国は槍玉にあげられ、命を奪う事無く事態を収拾したフリーチェは、少なくともその恩恵を受けている国では半ば英雄の様な扱いを受けていた。


この事が話題になっていたのはフリーチェ達の元も同様だった。


「凄いな・・・これで世界の大部分は此方に抗う戦力を失った事になる」

「しかも此方が悪人にならない形で・・・こんな事、今まで進攻したどの世界でも有り得なかった・・・」

「これが・・・一日の最終作戦。やっぱり彼女は・・・」


回帰、ヒリズ、神消が口々に一日の最終作戦の感想を口にする。


「これで私達は大股でこの世界を歩く事が出来ます。ま、あの病院でアメーバについての情報が手に入れば更に良しだったのですが、さすがにそこまで話は上手く進みませんね」


満足げな笑顔を浮かべ、フリーチェや他の三人に語る一日。


「既に各国の内部事情はほぼ把握出来ています。最も、能力による心理操作のみでは流石に限界はありますが、反抗作戦を企てるにしてもかなり先の話となるでしょう。なので恐らくはその前に・・・」

「奴等との決着を付ける・・・か?」


一日の言葉に続けたのはフリーチェであった。


「ええ、私の予想が正しければそろそろ・・・」


一日がそう言った次の瞬間、引き寄せの法則の如く警報が鳴り始める。


「来ましたね・・・」


一日がそう言って自身の世界の地図を出すとそこにアメーバの反応が表示される。


「この場所は・・・例の病院か?」

「研究対象になっていた仲間の心配をしに来たって訳かな?」


その図を見て思わず皮肉った言い方をする回帰とヒリズ。


「そうかもしれないが、早く出撃しないと好き勝手されるぜ」


神消はそんな二人に行動を促す。


「はい、急ぎましょう」


一日の言葉を切っ掛けとし、フリーチェ以外の面々はアメーバ迎撃の為に出撃する。その様子を見送ったフリーチェは


「あの連携・・・一日が加入してからの物が更に強くなったのか・・・?何だ、私の中に・・・」


と何か違和感を覚えるのであった。


「敵はまだ出現していない様ですね」


現地に到着した一日の言葉通り、まだアメーバは出現していなかった。だがその直後


「と言っても猶予がある訳では無さそうですよ」


とヒリズが告げる。その言葉通り、既に空には異空間への扉が開かれていた。

それを見た一日は


「輝ける修就」


と言い、手から光の球を異空間への扉目がけて放つ。


「先制攻撃で殲滅するの?」


そう質問するヒリズに


「いいえ、これだけでは殲滅は出来ないでしょう。今現在の殲滅は・・・」

「そうか、なら迎え討とう」


一日の返答に意味深な物を感じるヒリズ、だが一日の事を考え、その点は敢えて言及せずに迎撃態勢を取る。


そしてアメーバが襲来すると一行は技を使い、次々と薙ぎ払っていく。


「この前の戦いから力が増している・・・なら、この勢いで!!」


回帰がそういったのを皮切りに


「ああ、一気に行こう」

「今更こんな奴等に苦戦してられるか!!」


とヒリズ、神消も続きアメーバを次々に蹴散らす。


「皆さんの勢いが増している。やっぱり先日の戦いで欠落した物を取り戻したのが大きいみたいね。そしてあのアメーバの正体はやはり」


その光景を見た一日は何かの核心を得るのであった。その後も勢いは止まらず、次々に現れたアメーバを殲滅させるまでには十分もかからなかった。そして後続が来ない事を確認すると


「これで打ち止めか?」


と神消が確認し


「ええ、反応なしです」


と一日が返答する。


「それにしても、今回の襲来は一体何が目的だったんでしょう?」

「それはこれから検証する所よ。最も、目的何てないのかもしれないけど」

「無かったとしてもそれはそれで、でしょ」

「そういう事です」


打ち止めを確認した一日達は本部へと帰還し、フリーチェに事の顛末を説明する。


「そうか、アメーバの侵攻は阻止出来たか」

「それだけではありませんよ。これを見て下さい」


フリーチェの労いに更なる収穫がある事を告げる一日、そしてモニターにその何かを表示させる。それは何かのデータだった。


「これは・・・」

「アメーバが通過していた異世界間を繋ぐ通路の詳細です。これを分析すれば」

「奴等がどんな世界から来ているのか分かると言う事か」


フリーチェの問いかけに敢えて黙って一日は頷く。


「はい。ただ解析は流石に直ぐという訳にはいきませんが」

「構わない。元々一日に頼りっぱなしなんだ。少し休みながら位が丁度良いさ」


一日を労う神消の言葉に一日は仄かな笑みを浮かべて頷く。その笑みには不気味さや嫌味さは無く、純粋な嬉しさが浮かんでいた。


「では、解析結果が出るまでの間は休息としよう」


フリーチェの発言の後、真っ先に部屋を出た一日を見送ると


「神消、さっきの言葉・・・」

「自然に出てきた。ああ、嘗ての・・・一日と出会う前の俺だったら出てこない言葉だな」


自分で言っておきながら疑問を持つ、だがその理由も今の神消は分かっていた。


「なら、次の戦い、負ける訳にはいかないね」

「うん。何としても勝たないと」


ヒリズ、回帰も自然と気合が入る。それを見たフリーチェは


「彼等の様子が・・・やはり一日が何らかの影響を・・・いや、私自身も・・・」


と何かを感じ取るが、その一方で自分の中に何かの違和感を抱く。


一方、部屋を出た一日はそこに居た命達と共に本部内の分析室に向かう。


「一日ちゃん、分析はしているけど、完全な特定にはもう少し時間がかかりそう」

「分かったわ。まあ、元々そう簡単に分析が完了するとは思っていないから焦らないで。それよりも・・・」


申し訳なさそうに言う命に対し一日は特に気にする素振りは見せない。だが他に何か気がかりな事が在るのは明確な返答を返す。


「それよりも・・・何なの?」

「彼等に此方が情報入手に用いていた手段を見破られたのよね。そしてその対策を取られたのか、彼等の会話が耳に入ってこなくなった。あの場所にいるのは確かなのに」


命が聞くと一日は聖達が未末に仕掛けていた魔術を見破った事を告げる。すると暗が


「それは恐らく言語遮断の魔法障壁を用いているのではないでしょうか?」


と唐突に口に出す。


「それってどういう物なの?」

「その名の通り、一定エリア外に言語が聞こえなくなる様に張る障壁、ま、つまりは防音装置だよ。ただ、この世界にある防音設備と違うのは視覚で認識出来ないってところだね」


木の葉が質問すると暗は丁寧に説明する。


「それって、暗の世界の住民なら誰でも使える物なの?」

「うん。初歩中の初歩だからね。多分キーパー辺りが使ってるんだと思う。直接攻撃すれば簡単に壊せるけど、遠距離から障壁だけ無効化するっていうのは難しい」

「となると、現時点では放置して置くのが得策ね。下手に動くと裏付けを取らせるだけになってしまうもの」


こうした会話が続くなかでも分析は進められていく。

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