第50話 生体兵器の悲劇

「雑談は事を片付けてからにしろ、現場に移動するぞ!!」

「あ、はい!!」


フリーチェの発言で現実を再認識した回帰とヒリズ、その二人を連れ


「ディメンジョン・カット!!」


といい、空間を切り取って目的地まで移動するフリーチェ。


彼らが現場に着くと既にアメーバは出現しており、兵士、住民見境なく襲おうとしていた。


「既にアメーバは出現しているか、被害が出る前に片付けないと!!」


ヒリズはそういうと手から黒い球を放ち、それをアメーバに当てて消滅させていく。


「そうだね・・・このままじゃこの世界がアメーバの手に落ちかねないもの」


そう言った回帰も手から剣を出現させ、その剣でアメーバを切ると同時に何かのエネルギーを注ぎ込み、そのエネルギーでアメーバを消滅させる。


「だが、ここには先日一日達が遭遇したという新種は居ない。温存しているのか、それとも何か別の目的があるのか・・・」


そういったフリーチェも又、両手から黒い稲妻を放ちアメーバに当てて消滅させる。


「・・・妙ですね」


そう口にしたのは回帰だった。


「何が妙なの?」

「一日の話だとこのアメーバは僕達の兵士だけを狙う筈だ。なのに今目の前にいるアメーバは明らかに住民も狙ってる」

「それは多分、その狙われている住民が組織の残党だからだと思う」


疑問を口にした回帰に対し、明確で自信を持った返答をするヒリズ。


「その組織というのはこの世界に侵攻した時に君が叩き潰したという組織か?」

「はい。ですが一日達のおかげで完全には叩き潰せていなかった事は既に判明しています。もしかしたらここではそいつらが密かに息を吹き返しつつあったのかもしれません」

「つまり、襲われている住民は組織の残党であり、その組織の残党は僕達の兵士と同じ様な思考、特徴を持っている、そういう事?」


過去を思い出しながら質問するフリーチェに明確な返答を返すヒリズ、それに回帰も続くのであった。


「そうか・・・だが今は・・・」

「分かっています、アメーバを殲滅します!!」


諭そうとするフリーチェに対し、心配無用という返答の代わりの意気込みを見せるヒリズ。そんな彼等にアメーバが迫りつつあった。


「この世界から消えろっ!!」


そういうとヒリズは手に銃を出現させてアメーバに弾丸を打ち込んでいき、その弾丸から何かのエネルギーを出してアメーバを消滅させていく。そして打ち終わった時、迫っていたアメーバは全て消え去っていた。


だがその直後、金属が崩れるような音が聞こえてくる。


「今の音は!?」

「まだアメーバが残っているのか?」


そう言うと音がした方に一目散に走っていくヒリズ


「ま、待てヒリズ!!」

「つっ・・・私達も行くぞ」

「は、はい!!」


回帰の制止の言葉も聞かずに走っていくヒリズ、それを追う回帰とフリーチェ


そして二人がヒリズに追いつくとその目の前には人間と戦車が入り混じった様な姿の何かが存在していた。


「あ、あれは?アメーバとは違うようだけど・・・」

「組織が密かに製造していた生体兵器ですよ。以前廃棄された失敗作と思われる存在と一日ちゃんが交戦した事は聞いていましたからもしかしたらとは思っていましたが・・・」

「生体兵器・・・」


回帰の問いに冷静に返答するヒリズ、だがその言葉には怒りが混じっており、冷静さはその怒りを隠そうとして居る様にも見える。


生体兵器は腹部からガトリング砲を展開し乱射する。


「くっ、見境なしって訳・・・これじゃ民間人まで・・・」

「それが組織のやり方ですよ。奴等に道理何てありません、あるのは欲望のみです」


そう言うとヒリズはガトリング砲を躱しつつ接近し、「サンダー・ブレード」と言って雷の剣を出現させてガトリング砲を切り落とす。


すると生体兵器は両肩からミサイルを撃とうとするがその前にヒリズがなます切りにし、兵器を破壊する。だが直後に同じ兵器が多数出現する。


「くっ、何体出て来るの・・・」

「このクラスの兵器はそんなに多くは量産出来ませんから恐らくこれで打ち止めだと思います。そもそも生きた人間を兵器にする、そんな実験に態々付き合う人はいないでしょうから」

「生きた人間を兵器にするだと!?」

「ええ、これに混ぜられた人間は全員生きていた人間ですよ。組織に対し疑問を抱いた為に連れ去られ実験台にされた・・・ね」


ヒリズの解説には相変わらず不自然なまでの冷静さとその裏に隠されている怒りが感じられた。それを感じ取ったのか、フリーチェの声も困惑が混じった物になる。


「なら、私達に出来る事は・・・」

「楽にしてやることだけか・・・ヘヴンズ・ゲート」


フリーチェはそう言うと全ての兵器の下に光の輪を出現させ、その光で兵器を包むと輪をくぐらせ、ここでは無い別の何処かへと飛ばす。


「組織の負の遺産がまだ残っていたとはね・・・徹底的に洗い出さないと」


そう呟くヒリズの顔にはどこか怒りが浮かんでいた。


「ヒリズ・・・」


回帰が心配そうな声をかける。


「分かってる、らしくなかったね・・・焦ったり、怒りを感じたりするなんて」

「ええ、以前の貴方なら飄々と流していた筈なのに・・・やっぱりこれも・・」

「一日の影響・・・なのか?」


生体兵器は退けたが、一同の中には新たな疑問が芽生えていた。


全滅した生体兵器の後続は出現せず、アメーバの全滅も確認出来た為フリーチェ達は来た時と同じく「ディメンジョン・カット」で本部へと帰還する。


帰還したフリーチェ達を待っていたのは命達であった。


「君達か、一日は?」

「今はお休み中。やっぱり疲労してたんだと思う」


ヒリズが質問するとシオンが明確に返答する。


「連絡事項は僕達が伝えておきます、なので・・・」

「分かってる、心地よく眠っている女の子を無理やり起こす程私達は無神経じゃないわ」


頼み込むような口調と顏で言う命に対し回帰は冗談めかした口調で返す。


「もう、からかわないで下さいよ!!」


その返答にどこか反発心を見せる命、その光景は大人気ない人にからかわれた親戚の子供のようにも見える。


「さて、じゃ僕達も休もうか」

「そうだな、それが良いだろう」


そういうとフリーチェ達も自分の部屋に戻っていく。


一方、中心部となる相道街の制圧を許し、更にテレサを失った聖達は初めに来た街に戻り、今後の話し合いをするものの、考えはおろか、その方向性すら定まらずにいた。


「子供兵士の正体は分かったが・・・それだけではどうしようも・・・それにテレサさんが・・・」

「此方の戦力をそのまま転用し自軍に加える・・・勢力拡大として効果的な手段ではありますね・・・認めたくはありませんが」

「次はどこに攻撃を仕掛けてくるか・・・相道街からではどこに向かうにも同じ程度の時間しかかかりません」


希有、キーパー、ムエがそれぞれ話した言葉からも現状の困難さ、方向性を定めるハードルの高さが見える様である。


「つっ・・・考えなきゃいけない事が多すぎる・・・それも一度に・・・」

「一度に考えても上手く行かない・・・そんな事は分かっているのに・・・ですね・・・」


聖やロザリーも状況に動揺を隠しきれない。


「では、まずお聞きしたいのですが・・・あの敵幹部の少年はどうしてテレサさんを吸収出来たのでしょうか?」


苦悩渦巻く状況の中でのキーパーの一言、それは一つ一つ整理していきたいという意思表示の表れでもあった。


「そう言われればそうだな・・・何故あんな事が・・・」

「恐らくはテレサとあの幹部が元は同じ存在であった事に理由があるとは思いますが・・・

「元は同じ?」


ムエの質問と問いかけ、それに対し聖は確証を得られなくも自身が考えうる返答を行い、フリーチェが現地で協力者を得る為に用いた方法をムエやキーパーにも説明する。


「成る程、つまりあなた方はフリーチェの力に抗う側の、敵の幹部は従う側の存在として分離したという訳ですか」


ムエは納得した様で冷静な復唱を行う。

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