第49話 変わり始める 動き始める

本部へと帰還した一日は街で別行動をしていた命達と合流しお互いの状況を報告し合う。


「君達の方はどうだった?」

「住民の確保はある程度出来たし制圧は思いの外簡単だったよ。やっぱり敵の注意が一日ちゃんの方に向いていたからかな?」

「敵戦力の割り振りを見誤り、他がおろそかになる・・・典型的な策に溺れるtパターンですね」


命、暗を初めとする街制圧チームは声高々に報告する。


「こっちも朗報だよ、神消先輩が本来あるべき状態になってくれた。ま、そこに至るまでは少々ヒヤヒヤしたけどね・・・」

「本当ですか!?」

「ここで嘘を言ってどうするのさ。そしてこれで私の疑問、仮説はかなり核心に近付いたといえるわ」

「なら、最終目的も・・・」


一日の言う疑問と仮説、それは彼等の間だけで共有されている物であり、他の誰も気付いていない。それが分かる彼等はその内容を聞く事もせず喜びに沸くのであった。


「で、次はどうするのですか?」


喜びに少々水を差す様に言う暗。


「主要エリアを抑えた以上、彼等も迂闊には動いてこないでしょうけど、逆に言えば主要エリアの奪還は常に考えてくると見ていいわね。それに今回の戦いを見る限り、上層部だけが知っている地下通路がある可能性も高い」

「地下通路?そんな物があるのですか?」

「ええ、彼等が退却する時、その地下通路らしき物を使用していくのを見たわ。そして神消先輩が言うにはそこには侵入者迎撃用の罠が大量に仕掛けられているという事なの」


暗の問いかけに対し、水を差した事を何か言うでもなく冷静に対応する一日、やはりこの冷静さはどこか不気味さも漂わせていた。


「となると、その地下通路を使って今回彼等はこの街まで移動してきた・・・そう考えてまず間違いないでしょうね」

「ええ、だとするとただ単に追いつめても逃げられる可能性は十分ある・・・でも他のエリアを全て制圧する作戦は以前使っているから警戒されているでしょう。となると・・・」


一日の分析を受け、それに続く言葉と木の葉。


「一旦は様子見ね。現状で下手に動くと逆にこちらが不利になりかねない。それに敵は彼等だけではないのだから」

「彼等だけでは・・・ああ、例のアメーバですね」


アメーバの発言に一転して警戒心を強めるシオン。


「ええ、このままあのアメーバが私達を泳がせておくとは思えない。必ず何か動きを見せてくる、そんな気がしてならないのよ。それが何時かは分からないけどね」


そう話す一日の警戒心が表情には出ないものの増す。それは先日の命の一件が確実に影響している事を現していた。


「報告は以上です」

「なら、私は貴方達が捕獲してくれた兵士の処置とフリーチェ様への提言を済ませて来るわ。貴方達は休んでて」


そう言って一行は分かれる。


命達と別れた一日は彼らが捕獲した民間人の元に向かい、街中と同様に平定なる和を用いて彼らを幼児化、性転換させる。

そして目を覚ました彼等に様々な事を一通り伝えるとその足でフリーチェの自室へと向かう。


そこには既に神消達が揃っており


「遅いよ一日、何してたの?」


と一日にからかっているとも不満とも取れる口調で話しかけてくる。


「情報交換よ。つい話し込んじゃって、ごめんなさいね」


その話し方に対応したトーンで切り替えす一日。


「それで、収穫はどうだったのさ」


早く聞かせてほしいと言わんばかりの口調で話すヒリズ。


「勿論大成功よ。制圧、戦力確保共にね」

「ああ、何しろ遂に奴等の中の一体、テレサとの決着を付けられたからな」


慌てなくても言うからというトーンで対応する一日に大きな区切りをつけた神消も続ける。


「テレサと決着を!?それは凄いね!!今まで何度やっても最終的に互角の戦いになっちゃったのに」

「それはお前らも同じだろうが」

「まあ・・・そうだね、でもどうして今回決着を・・・」

「さあな、運が良かっただけなのかもしれねえし、はっきりと白黒がついたのかもしれねえ」


からかうような回帰の質問に対し同じようなノリで返す神消、だがその様子を見たヒリズは


「何だろう?神消から違和感を感じる・・・悪い方じゃないけど・・・」


何か違和感を感じずにはいられなかった。


「ん?どうしたヒリズ、そんな顔して?」

「え!?ううん、何でもないよ」


不意に来た神消からの問いかけに少し動じた雰囲気を隠せないヒリズ。傍から見ていてごまかしているのは明らかな返答だった。


「今の反応・・・まあそういう事なんだろうが・・・悪いな、これは俺の口から言える事じゃねえんだ・・・自分自身で気づかねえとな・・・」


それを見抜きつつもそっと口を閉ざす神消、テレサの一件は簡単には口に出せない事を理解しているが故の行動であった。


「作戦は無事成功したか」

「はい、フリーチェ様」


そこにフリーチェが現れ、確認するように話しかけてくる。


「それは喜ばしいが、これからどうするつもりだ?」


更に確認を取る様に話しかけるフリーチェ。


「今後敵は迂闊に動いて来る事は無いと思いますが、このまま黙っているとも思えません。再び押し返されるのを避ける為にも敵戦力の集中は防ぐ必要があります。

幸い、今回の制圧で敵を二つに分断する事が出来た為、それぞれ各個に・・・」


そう一日が言いかけた時、内部に警報が鳴り始める。


「何だ!?まさかもう奪還に来たのか!?」


思いもよらない警報にらしくなく動揺する神消。直後、目の前のディスプレイにヒリズの世界の世界地図が映し出され、その一部が赤く点滅する。


「僕の世界!?一体何が・・・」


ヒリズがそう言うのを横目にモニターに駆け寄る一日。


「これは・・・この世界の首都、リューションタウンに例のアメーバが出現しました!!」


モニターを見た一日が大声で叫ぶ。その声には動揺が少なからず混じっていた。


「ヒリズの世界に例のアメーバが!?でもどうして?ヒリズの世界は今表立った反抗活動も弾圧もしていないのに・・・」

「・・・首都・・・もしかしてあれが!?」


困惑する回帰に対し、やはり自分の世界故か何か心当たりがある顔を見せるヒリズ。


「兎に角早く対応しないと、あのアメーバが相手だと首都に居る兵士だけじゃ・・・」


直ちに出撃しようとする一日、だがそこに


「駄目だよ!!一日ちゃんと神消はさっき戦って来たばっかりで疲労してる筈だ!!」


そう言って一日を制止する声をヒリズがかける。


「ヒリズ先輩・・・」

「ここは僕の世界なんだ、だから僕が行く!!」

「私も付き合うよ、ヒリズ」


強い決意を感じさせる顔で語るヒリズに回帰も言葉を添える。


「だが、あのアメーバは一日すら追い込んで・・・」


思わず心細い声で言う神消、すると


「ならば私も出撃しよう!!それなら心配は要らない筈だ」


とフリーチェが声を上げる。


「フリーチェ様!?」


その声にその場にいた全員が困惑し驚嘆する。


「彼ら二人だけで不安なのであれば私も同行すれば済む話だ。一日、神消、お前達は今後に備えて休息をとれ、これは私の命令・・・否、頼みだ」


そう言うとフリーチェはヒリズと回帰の元に歩いていく、その言葉には魔王としての発言では無く、純粋に二人を思う親の様な思いが含まれている事を一日と神消は察した。


「フリーチェ様がそう申し上げるのであれば・・・ですが油断はしないで下さい」


歩いていくフリーチェを見ながらその発言を了承する一日、それを聞いたフリーチェ、ヒリズ、回帰は部屋から外に出て行くのであった。


「珍しいな・・・」

「何が?」


移動中、ふと回帰はヒリズにそう話す。


「色んな事がさ。ヒリズが自ら出撃を志願した、それも守る為の戦いに。神消が僕達を案じてくれた、フリーチェ様が彼等を休ませるために自ら出撃を決めた、その他にも色んな事がさ」

「それを言うなら回帰が僕に付き合ってくれた事だってそうだよ」


不可思議だと思っているトーンで話す回帰の発言を聞いたヒリズも同様のトーンで返答する。

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