第48話 否定では無く許容するべき物
「一日!?」
一日の口は動いていない。だが神消には確かに一日の声が聞こえた。
「はい、今私は心なる盟友の力で時を止め、先輩にだけ話しかけています」
「他に聞かれたくない話って事か・・・だが、何が違うんだ?」
一日の叫びの意図が掴めない神消。そんな神消に一日は
「先輩が抱く苛立ちの原因、それは彼を倒して否定するものではなく、彼を倒す力を得る為に肯定するべきものです!!」
と告げる。
「イライラの原因を肯定する事で力を得られるだと?」
「はい、先輩と目の前の彼は元は同じ存在、同じ存在から分裂してしまった存在。欠けてしまった存在、なのです」
「一日、何を言っているんだ!!確かに奴と俺は元は同じだったが、今は・・」
一日の発言に対し、自身の疑問の答えにならないと言わんばかりの荒い声を上げる神消。
「俺のイライラの原因はこいつの・・・だから俺は・・・」
そう言いかけた神消の口が止まり、その頭の中で何かが回り始める。
「一日が来てから俺達は・・・」
それは一日が来てからの自分達の記憶であった。死の直前でもないのに記憶が走馬灯のように回り始め、それに戸惑う神消。
「これは・・・俺の・・・いや俺達の・・・そして受け入れる・・・そうか・・・!!だから俺達は・・・受け入れ、肯定する・・・そういう事か!!」
神消の表情がさっきとは一転する。その直後に時間が動き出し、テレサが神消に踵落としを食らわせようとするが神消しは横転してそれをかわす。
「まだ動けるのか!!」
「ああ、俺はまだ終わっちゃいねえ!!いや、寧ろ勝負はここからだ!!」
すぐさま立ち上がり身構える神消。
その気迫を感じ取ったのか、子供兵士も聖達に熾烈な攻撃を加えていく。
「くっ、これじゃテレサの援護も・・・それにこの子達を・・・」
「あら、真剣にぶつかる二人を邪魔するなんて無粋ですね。皆、こいつらを先輩の元に近づかせないで!!」
テレサの元へ向かおうとするチュアリ、だがそれを見た一日はお得意の挑発をかける。
対峙する神消とテレサ、先に動いたテレサは神消に向かって殴り掛かろうとするが神消は難なくそれをかわし、続く回し蹴りもかわして逆に顔面に蹴りを入れる。
「ぐあっ・・・」
口から唾液が飛び出し、地面をこすりながら蹴り飛ばされるテレサ。
「何だこの力・・・さっきまでとはまるで違う・・・」
思わず顔に動揺が出てしまい、言葉にも出してしまうテレサ。その隙を見逃さなかった神消はテレサに近づき、格闘技を次々に叩き込んでいく。
「ぐうっ・・・つうっ・・・ああ・・・」
神消の猛攻はテレサを追いつめ、その体に付く傷や痣は瞬く間に増えて行く。
「テレサ!!」
何時にない声で聖が叫ぶがテレサには最早神消の攻撃を躱す体力は疎か、叫びに返答する余力すら残っていなかった。
「くっ、ここからじゃ・・・」
そう口にしたロザリーは唇を噛み締める。その行く手には子供兵士が多数立ちはだかっていた。
「くっ、幾ら子供でも、この世界の住民であったとしても、これ以上は・・・ライトニング・バスター!!」
キーパーは叫び、手にした槍から雷撃を子供兵士に向けて放つ。
「鉄壁たる友愛!!」
その雷撃が子供兵士に当たろうとした時、一日は叫んで子供兵士の前に黒い幕を出現させ雷撃を防ぐ。
「その子達をやらせはしないわよ。そして先輩の邪魔もね!!禍々な樹縛」
そう言うと一日はキーパーの下から無数の蔦を出現させ、その体を絡め捕る。
「ぐうっ・・・ぐううっ・・・」
「キーパーさん!!」
そう叫んだ望は手にしている銃を蔦に向けて撃つが全く効果は無い。
「テレサ・・・皆さん・・・このままでは・・・」
キーパーとテレサ、両方を視線上に捕えつつも打開策を見いだせないムエ。
テレサは先程の神消以上に消耗し、既に膝をつく寸前の状態であった。
「はあっ・・・はあっ・・・」
口から漏れ出る荒い息がその消耗を物語る、一方の神消はまだ余裕がある様子を見せる。
「やっと分かった。どうして俺とお前がこれまで一度も決着を付けられなかったのか・・・否、どうして俺達がお前達と決着を付けられなかったのかが!!」
「どういう・・・事だ・・・」
「その答えは一日が教えてくれた、ついさっきまでの俺も、そしてお前達も否定し続けてきた物、それを受け入れ、肯定できるか否かがその答えだったのさ!!」
「否定し続けてきた・・・だと・・・」
ぜえぜえと荒い息を立てながらも辛うじて神消に問いかけるテレサ、それに対し神消は明確に、且つ強気に返答する。
「ああ、これがその答えだ!!ダークネス・ナックル!!」
神消はそう言うと右手を黒く染め上げ、その染め上がった右手でテレサの腹部を殴打する。それを受けたテレサはその場に崩れ落ち、倒れ込む。
「テレサさん!!」
その光景を目の当たりにし、思わず叫び声を上げる生花。
倒れ込んだテレサを見下げる神消、そしてその口は
「さあ、一つに戻るときだ、テレサ・・・否、俺の半身・・・」
と動く。
次の瞬間、テレサの体が光の粒子となり、その粒子は神消に吸収されていく。
「テ、テレサが光の粒子に!!それに・・・」
「あの少年に・・・吸収された!?」
その光景を見たロザリーとチュアリが驚愕の声を上げる。
「・・・そうか・・・これが・・・なら、他の二人も・・・いや、もしかしたら・・・」
そういった神消の顔は何かを悟ったような、気付いた様な、そんな顔をしていた。
「くっ、テレサ・・・」
ムエはそういうと顔を歪ませる。その歪みには悔しさが滲み出ていた。
「さて・・・先輩が本来あるべき状態に戻ったけど、どうしたものかしらね?」
その光景を見ていた一日が不意に意味深な言葉を口に出す。
「それは・・・どういう意味だ!!」
「気付かない?私が態々これだけ時間をかけてあなた達の相手をした本当の意味を」
「本当の・・・まさか!!」
聖が顔を上に上げると街内に
「くっ・・・ここから・・・ああっ!!」
という声が響き渡る。
「今の声は・・・街中に声を出す中継器から・・・という事は!!」
「ええ、既に私の仲間がこの街の司令部を制圧したわ」
「そ・・・そんな・・・私達は誘い込まれたの・・・」
狼狽え、動揺する望、そんな望を見た一日は
「そんなことも気づかないの?あれだけ分かり易く行動してあげたのに、ま、先輩がピンチになるとは流石に思わなかったけど・・・」
多少の顔の変化は見せるものの、あまりにも動じない一日、最早その精神は人を超越しているようにも見える。
「くっ・・・止むを得ない・・・この街を放棄する」
そう言ったムエは手元に何かのスイッチを持ち、そのスイッチを押して街中にサイレンを鳴らし始める。
「ちっ、避難用のサイレンを流しやがったか!!」
「早く、こっちです!!」
神消がサイレンについて行っている間にムエは聖達を近くの地下道に案内しその入り口を閉ざす。
「あっ!!このままじゃ逃げられる」
子供兵士の一人が聖達を追跡しようとするがそれを見た神消は
「止めておけ、行っても無駄とは言わないがこっちも消耗しちまう」
と制止する。
「何故です?今なら・・・」
子供兵士は食って掛かろうとする。だが神消は
「この地下通路は災害や万が一の敵襲に備えてこのサイレンが鳴ると強固な防衛システムが作動するようになってるんだ。そこに飛び込むのはリスクが高すぎだ」
と続け、制止を止めない。
「深追いは禁物という訳ですか。流石によくご存じですね」
「自分が生まれた世界の事位良く分かってるさ、ま、全て思い出せたのは一日、お前のおかげだ」
そう発言する神消の顔はかつてない笑顔が浮かんでいた。
「ありがとうございます。今命達から連絡が入って制圧は完全に完了したとの事です。さあ、私達も帰りましょうか」
一日がそういうと一日、神消、子供兵士も引き返していくのであった。
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