セリス=マゼリア

林 奎

序章 THE WHITE STAR

 序章-1 とある授業風景

「21世紀中葉。世界は大きな歴史の転換期を迎えた。」



 2178年4月20日。

 太平洋小笠原沖に浮かぶ人工島にして自治都市でもある東京都白帆市、通称しらほし


「枯渇する地下資源。《大王》の顕現による《零異変》が発端となった世界規模の大寒波による飢餓。そして世界を三分して争った《第3次世界大戦》。それらは人的・技術的共に衰退をもたらし、いよいよ滅亡と言う文字が現実味を帯び始めた。」


 中央島西部に位置する第九区『みずのえ』。

 その中央部にある公立高校。《白帆市立美笠高等学校》。

 南側の校舎の3階の教室では世界史の授業が行われていた。


「そんな中、《ジョン・タイター》と呼ばれた男がある論文を発表したことが、更なる転換の始まりとなった。」


 横5列縦6列の30人の机が並べられた教室。

 沈黙に包まれたそこで1人の男の通る声が響く。


「彼は宇宙の外側とは違う意味での世界の果てにして世界の間を遮る壁――《世界間》と命名したソレを発見した。最初はそんな荒唐無稽な話などほとんどの人間が信じなかった。」


 そこで教鞭をとるのは美笠高校に勤務する教師、紫崎しざき水城みずき(38)。


「しかし彼はその後の研究で世界間の視覚化、さらにその向こう側にたどり着つく方法まで実証させると手の平返して各国の首脳はそれに飛びついた。今では考えられないことだが当時は本当に切羽詰まっていたらしいからな。それしか道は残されていなかったんだ。そのような経緯があって国連主導の『アザー・フロンティア計画』が始動した。

………『アザー・フロンティア計画』。ここは重要だぞチェックしておけよ。」


 その言葉で一斉にノートに書き込むなりアンダーラインを引くためにシャーペンやボールペンを走らせる音が教室のあちらこちらから聞こえてきた。

 その音が聞こえなくなったのを見計らい紫崎教諭は話を再開する。


「そして、21世紀最後の年となる2100年。異世界の『扉』を開き人類は本当の意味での異邦の地に足を踏み入れた。」


「扉の向こうには豊かな自然、豊富な資源、そして我々とは違う失われた文明の址がそこに残されていたという。」

「その文明の遺産とは何か――分かるか?えーと……。」


 沈黙が数秒。その様子を見てにやける物が十数名、うんざりした顔をした顔をした者が1名、その他全ては無表情。しかし、その場にいる全員がこう思った。

「ああ、またか。」と。


「ごりょう!!答えろ!!」


 その言葉を聞いて盛大にずっこけた人間が1名と忍び笑いをするもの二十数名。


「先生それは御陵ごりょうではありません。御陵みささぎです。」


 もう何回もした説明に


「あーすまんなご……御陵。で?答えの方は……?」

「…………。」


 それに対してすまなそうに思っていないこの教師。暖簾に腕押しとはまさにそのことだ。


「……《魔法》です。」


 また間違えそうに……とうんざりしながらも真面目に少年は答える。

 その心の中を知ってか知らずか満足そうに頷きながら解説を始める。


「その通りだ。この存在こそがこの世界に産業革命以来の変革をもたらした。」


そしてこの技術は今日学問化されしらほしの学生は《魔法学》として学ぶこととなった。


「これからいう事はテストに出るくらい重要な事だからしっかりと覚えておけ。魔法とは体内に宿るマナを別のモノに変化させて外界に放出する技能を指す。」


そしてその変化させる《モノ》の対象は御伽噺の魔法使いのような火や水と言った物質だけではなく実体を持たない概念にまで及ぶ。

 そしてマナ―――――、元々は太平洋の島々の宗教における神秘の力の源を指す言葉が語源とされているそれは魔法学用語では魔力の発動に必要とされる力の源を指す。

 しかし、魔法の発動手順はおろかマナの正体について何もわかっていない。

 これまでの科学的な研究が全く効果があがらないことから、近年では非科学的な物ではないかという仮説もある。


 そう言った事を10分かけて講義した後、1人の人間が声を上げる。


「あ、あのー先生?俺はいつまでこうしていれば……?」


 しかし、何人かが「勝手にすればいいじゃん!!」と同じタイミングで思ったのはここだけの話だ。


「あーすまん。もう座っていいぞ!……ごりょう!!」


 再び起こるずっこける音、そして忍び笑い。

 実はこのやり取り、これで累計5回目だったりする。


「もういい加減にしてこの先生……(涙)。」


 名前を覚えられない教師に対し愚痴をこぼす少年の名は御陵磯城。

 彼こそがこの物語の主人公である。

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