厨二病を患った幼馴染とそれを鼻で笑う俺

タルー

忍び寄る厨二

序章. ……これが同じ人間のやることかぁ!!

 

 ギンギラと照りつくうだるような暑さのある昼下がり、婦人会の旅行でかあちゃんが居ないことをいいことに、俺は居間でダラダラとクラスの友達とオンラインモードでゲームをしながら自由を謳歌おうかしていた。


 夏休みだというのにかあちゃんが家にいるとオチオチゲームもできやしない。

 誰がこんなクソ暑い中外いかなきゃならんのだ。今のご時世、外に出ないでもネットで簡単に友達と繋がることできるというのに。

 

 ――ピポ、ピポ、ピンポーン。


 俺のオアシスをぶち壊す立て続けのインターホンの音。やかましい、インターホンを何度も押すなよな。頭沸いてんのか。


「チースッ! お届け物っス」


 頭が空っぽそうな軽い男の声が聞こえる。


――ヤロウ、後で抗議の電話だ。ネチネチと3時間ばかしグチってやる。なに、夏休みの宿題は最初の一週間で終わらせた、時間なら腐るほどあるのだ。


 自慢じゃないが、俺は腕力のないヒョロ男だ。しかし、見えない相手なら強いのだ。……ホント、自慢じゃねえな。


 友達にちょっと抜けると言って、今だに鳴っているチャイムの音に、イライラしながら玄関に向かう。

 俺は、床をドシドシと歩いて言外に”俺、怒ってます”アピールをすることを忘れない。


 相手が弱そうなオッサンなら親の仇とばかりに責めるが、怖そうな人ならアレなので、最初は軽いジャブだ。そう、俺は自他共に認める矮小な男。


 あまりのゲスさに付いたあだ名が【ゲスゲスゲスゲスゲス野郎】。名付けた人の思いの丈が伝わってくるシンプルで素敵なあだ名。


「ゲス野郎だけじゃ足りない、私の思いを表現しきれない。具体的には五回分くらい足りない。」


 そんな感じで産まれた。どんだけ嫌われてんだ俺。


 あまり呼びすぎると”ゲス”がゲシュタルト崩壊してしまうので、基本は【ゲス野郎】と呼ばれる。

  

 それはともかく、俺は勢いよく玄関の扉を開ける。

 そこに居たのは、軽薄そうな見た目の金髪ピアスの兄ちゃんだった。

 金髪だよ、金髪。金髪ヤロウはバカばっかりなんだよな(※偏見)。


 当然、俺の言外の”俺、怒ってます”アピールは、金髪野郎には高等すぎて伝わってない。だが、筋肉質で顔がちょっと怖いので、チャイムの件には触れない。


 俺は、チャイムの件は、抗議の電話を3時間から5時間に変更することで帳尻を合わせることにしようと心に決める。


 まあいい、さっさとサインして受け取ってしまいだ。どうせお歳暮かなんかだろうしな。

 この金髪野郎とももう会うことは無い。俺の粘着質クレームによって配置換えだ、ざま見ろ。

 

「あ、ども。差出人は……。え!? みさき? 何で今更……」

 

 などと考えながらサインしようとした俺の手が差出人の名前を見て止まる。

 俺の意味深なセリフに、金髪の兄ちゃんが「えっ、何? 昔の女的なアレ?」と言っているような興味津々な目を向けて来る。

 

 うぜえ。

 

 俺は、それを努めて無視して、ささっとサインしてお帰り願った。

 帰り際の、「顔に似合わずやるじゃんよ」と言わんばかりのサムズアップに殺意が沸いた。どうせ俺は平凡面だよ!!


 気を取り直して。届けられたのは、一枚の手紙とDVDケースが入った小包だった。差出人は『小林みさき』俺の幼馴染だ。





――――――――――

 

 小林みさき。家族単位で付き合いのあった、俺の家のお向かいさんだった・・・小林家の次女。

 俺の一個下のぽわわぁんとした子。あと、おっぱいでかい。


 小さいころは、俺がゲスな性格にも関わらず(俺の性格は生まれつきなのだ)よく「ひ~くん(俺のことだ)まってよ~」なんて言ったりして子犬のように横をひっついていた。


 俺に言われるがまま、一緒に色んなイタズラをしたものだ。……させたともいうが。 

 良くいえば柔軟性のある、悪く言えば主体性のない、そんなヤツだった。あと、おっぱいでかい。


――今思えばなぜあの頃に俺は”お医者さんごっこしようぜ”と言わなかったのか。非常に後悔している。くっ、俺にもう少し早く性の目覚めが来ていたら……!

 

 思春期になって、一緒に遊ぶことはなくなったが、家族同士の付き合いでそれなりに仲良くしていた。

 というか、俺がこんな性格なので女子で仲がよかったのはみさきだけだった。


 毎朝の「ひ~くん、おはよ~」と間の抜けた挨拶は、何気に俺の活力剤であった。そのためだけにわざわざ早起きして、登校時間を彼女に合わせていたものだった。

 それに対して、長女である同級生のみさきの姉の方には、視界に入ると俺をまるで虫を見るような目を向けられていたが……。 


 みさきの容姿は、彼女のおっぱいと同じで優れている。きめ細やかな肌と、肩までかかる漆のように黒く艶やかな髪、キュッとくびれた腰、ほにゃんとした柔らかさを感じる優しい瞳。


 そして、何といってもはち切れんばかりのおっぱい!! 歩くたびにブルンッと、揺れる圧倒的存在感っ!! されど、重力に負けることなくピンッとたたずむ様はまさに王者の風格!! 


 何度、揉ませてくださいと土下座したことか。

 その度に「え、え~と。そうゆうエ、エッチなのは……その……」と顔を真っ赤にして、まごつくみさきに何度ほっこりしたことか。

 そして、彼女を守る様にハリウッドスターさながらなダイナミックな登場をするみさきの姉に何度血の粛清を受けた事か。(窓ガラスを割っての登場には流石に肝が冷えた)

 

――そう、みさきは美少女(爆乳)なのだ。 ついでにいうと姉も美少女(無)だ。


 なので、彼女と交流があるだけで、俺は他の男子の間で羨望せんぼうのまなざしで見られていた。



 みさきは美少女(爆乳)だが、人見知りの激しい性質たちで基本、男子とはしゃべらない(そこもいいと言われているが)何より鬼より怖いと評判のボディーガード(みさきの姉だ)がいるのだ。


 だから、俺みたいな地味男からでもいいから何かみさきの情報が欲しがるのだ。 俺は快く彼らの期待に応えた、もちろん有料で(いや、タダとかないから)

皆、みさきの情報に飢えていたでとてもいい稼ぎになった。が、やはり姉の方に気づかれ血の粛清を受けた。


 そんなこんなで、俺のスクールカーストは平凡面の割に高かった。

 男子からは戦友ともと言いあう仲である、その代わり女子からはドブの隅にこびり付いているヘドロを見るような目で見られていたが……。


 それでも、みさきは俺とそれなりに仲良くしてくれた。

「ひ~くんはその……お、お年頃なんなもんね……」とか何とか恥ずかしそうに言っちゃう彼女はもはや天使であった。

 

 やっぱり持っている者・・・・・・はちがうのだ。


 ある日クラスの全男子の熱意カネ友情おっぱい写真に心を動かされて作った、みさきの写真集(健全だぞ? R-15くらいだ)は飛ぶように売れた。


 これはビックビジネスの到来かと思ったのだが、何処から聞きつけたのか、すぐさま販売会場たいいくかんに現れたみさきの姉にやはり、血の粛清を受けた。

どんどん受け身とか、脱臼した骨を入れなおすのが上手くなる俺だった。


 その後、警察だけは勘弁してくださいと、写真集を必死に男子共から回収し(ごねる奴は血の粛清を受けた)、砂利道で1時間程土下座して何とか許してもらった。


 みさきの姉はまだ生温いと言っていたが、みさきが必死になって止めてくれたのだ。天使か。やはり、持ってる者・・・・・・は違うのだ。


 しかし、そんなこんなで面白おかしく過ごしていた日々も突如終わりを迎えるてしまった。今年の四月に、みさきは親の転勤だとかで、どこか遠くに行ってしまったのだ。

 場所は覚えていない。

 いきなり引っ越すと言われて頭の中が真っ白になったのだ。


 ただ、何となくだが、みさきも泣いていたことを覚えている。

 自分で言うのもなんだが、こんなゲス野郎の別れを惜しんでなくとかやっぱ、天使だろ。

 姉の方は知らんが、ガッツポーズでもしてたんじゃないかな?

 

 とにかく、行ってしまったのだ、みさきおっぱいは……。




――――――――――




 

 引っ越して最初の頃はわりと頻繁にメールとかで連絡を取り合っていたのだが、突然にぷっつりと音信不通になってしまった。


――とうとう、あの天使みさきも愛想をつきてしまったのだろうかと思った。最後の、転校先の女子のおっぱい具合を聞いたメールがまずかったのかなと。



 ……いや、あれは仕方ない。健全な男子高校生はエロスと切って離せないのだ。あの程度の事、世界中の男子学生間で日夜しているに違いない。全くもって問題はないはずだ。

 いや、男同士ならともかく、女にしたらセクハラだな……。やっぱ、それか。

 

 いや、そんなことより今は、この手紙とDVDだ。いったい今更何だってんだ?


 手紙には複数枚に渡り、みさきらしいふんわりとした筆跡で隙間なく、細かくびっしりと書かれていた。


「うへぇ」


 余りの文章量にげんなりとした俺は、とりあえずDVDの方から見ようとしてケースを開けた。俺は、ゲームでも説明書を見ない性質たちなのだ。


 だが……。


「えぇ……。何コレ」


――『彼方かなたから此方こなたへの分かたれしえにしをつなぐメモアール・プランシェ』


 DVDには、マジックペンでそう書かれていた。しかも、認めたくないが、どう見ても手紙と同じ筆跡。つまり、みさきの字だった。

 

 おまけにご丁寧にルビまで打っている。そうだね、普通に読もうとしたら縁は”えん”って読んじゃうもんね……ははは。


 あまりの衝撃に乾いた笑いが漏れる。


 やばい、なんかコレやばい奴だ。上手く言葉に出来ないけど、とにかくヤベエ。

 俺の第六感的なものが警鐘を鳴らす。だが、同時に何処どこか期待してしまっている俺がいる。この中身が、何かとんでもないモノであることを。


 「ビービー」とさっきから、ゲーム上で友人がまだか、まだか、と催促している。が、正直構っていられない。何も言わずゲームの主電源を切る。然るべき手順を踏まない切断は後でペナルティがあるのだが知ったことか。

 

 俺の目にはもう、この地雷集プンプンのDVDしか映ってないのだ。


――やめろ、と理性が叫ぶ。


 しかし、体は勝手に再生専用の型落ちDVDレコーダーの前に動き出す。止められないのだ、このき上がる感情を。

 

――後悔するぞ、と俺の防衛本脳がけたたましく警告を発する。


 だが、好奇心が止められない。何語だよ、『メモリアール・プランシェ』って。

 

――どうなってもいいのだな? 俺のインテリジェンスが問いかける。


 ああ、大丈夫さ、きっと。……いや、”インテリジェンス”って、何だよいきなり。俺のどの部分だよ。


 ……どうやら、俺も冷静ではないようだ。だが、構わずDVDをデッキの中に入れ込む。


 DVDをゆっくりと飲み込んでいくレコーダー。それを俺はごくりと生唾を飲み込みながら見届ける。そして、DVDがデッキに入り切ったのを確認して、激しく脈打つ心臓を震える片手で抑えながら、空いた手でゆっくりとリモコンの再生ボタンを押す。

 

 そこに映るのは――







 

『――ふふふふ、久しいの? ひろし、いや、こういった方が言いかな? ”フェンフ・ゲースー・メンシュ”よ……。我だ、【金髪の炎環者フレイム・カイザー】クライン・ワワルトだ』


 ……金髪、碧眼のおっぱいちゃん(でかい)がなんかよくわからないけど、怖いこと言ってる映像が流れる。あ、ひろしは俺の名前です。


 俺は開いた口が塞がらない。いや、誰コレ? いや、マジで。


 服装は真っ赤な三角帽とローブおまけに杖まで持っている。

 お前、どこのファンタジーから抜け出たの?ってかんじの“いかにもな”魔法使いっぽい格好だ。

 胸元が開いている所は非常に評価したいが、積極的に近づきたくない人種だ。一人称が『我』とか……。

 それで、ゲームのラスボスが座っていそうな椅子に偉そうに膝を組んで座っている。

 

 カメラアングルにこだわったのか、ゴッツイ椅子に座っているクラなんとかさんが、俺を見下ろすような感じで映ってる。


 ふえ~、凝ってんなぁ。周りは暗幕で覆われているのだろう。真っ黒だ。


 チラチラとカメラの位置を気にしている、クラなんとかさんがちょっとかわいい。おっぱいもでかいし……。ん? このおっぱい何処かで見覚えが――。


 俺は、自他ともに認めるおっぱいスキー(これもまた女子に嫌われる一因でもある)。一度見たおっぱいは忘れない……はず、なのだが。クラなんとかさんに会った記憶などない。


 でも、こんな強烈なキャラとおっぱいを忘れるわけが……。特にこの、王者の風格・・・・・を漂わすおっぱ……。


――まさか!!


 俺は、イタすぎて極力直視を避けていた映像に、思い切って目をやる。


――やっぱり。よくみたらあの金髪ズラだ!! ちょっとズレてる!!

 

 チラリと見覚えのある絹のような艶やかな黒髪が、俺の考えにより信憑性しんぴょうせいを持たせる。

 

――じゃあ、アレは、あの『我』とか言っちゃう系のイタイ子は……。


 その事実に、体が小刻みにプルプル震え、視界が涙でうっすらとにじんでいく。 「まだだ、まだ」そう思い、唇を痛いほど噛みしめる。

 そうだ、他人の空似だったり、瓜二つの、いやさ、瓜四つのおっぱいかもしれないじゃないか。強く自分に言い聞かせる。


 画面の中の少女は俺の気も知らずに、機嫌よく演技かかったしゃべりかたで語っていた。

 どうやら、俺が色々悶々としている間に話は佳境に入っているようだった。


「――であってな。故に我はそやつに言ってやったのだ。我は【金髪の炎環者フレイム・カイザー】孤独こそが我の盟友ともよ(ピシィッ!!)、とな」


 映像の彼女はいきなり椅子から立ち上がり、両手をピースの形にして右手を自身の左目に、左手を右脇下に滑り込ませ”かっこいいぽーず”をどや顔で決める。


 その際の乳揺れには目を見張るものがあったが、それ以上の衝撃映像ものが俺の目に入った。

 余りの勢いで金髪のズラが三角帽と共に、ズルリと地面に落ちたのだ。


――そこにいたのは、【金髪の炎環者フレイム・カイザー(笑)】クライン・クワルトではなく……。


 ……もう、目を背けることはできなかった。

 俺は噛みしめすぎて血が出てきた唇を諦めた様にソッと離して、静かに深呼吸した。そして――


「っ、ははは! はっはははははっは!! ぎゃはっはははははは!! ぎゃははははははははははははは!! み、みさ、みさきが!! 厨二病になったああああ!! ぎゃっははははははははははははははは!!! し、死ぬ。笑い死ぬぅああああははははっはは!! 」


 

 クソ笑った。


 俺の幼馴染は『我』とか言っちゃうイタイ子になってしまったのだ。もう、笑うしかないだろ?






 ちなみに、‟クライン・クワルト”は【小林】。‟フィンフ・ゲースー・メンシュ”は【ゲスゲスゲスゲスゲス野郎】の当て字だった。

 めっちゃ、スマホをポチポチして調べた。

 

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