第二章 選手の育て方

第1話

 かつて、俺、凄嵯乃王は中学テニス界において最強だった。

 いや、最強は言い過ぎた。

 一、二を争う実力者だった。

 そして、全国優勝を果たした。

 そのプレイスタイルは七つのストロークを自由自在に操り、ラリーの中で相手を崩しトドメのスマッシュを決めるというもの。

 完全な技術依存型のプレイスタイルであり、あの時の決勝で戦った相手がするような、スマッシュやハイボレーゴリ押しの運動神経依存型とは大きく違う。


 しかし、その決勝戦で右腕を壊した。

 くやしい。

 技術依存型の俺としては、ここで限界だと思った。

 もうテニスが出来ない。

 でも、くやしいのはそれだけじゃない。


 自分より弱い奴らが、どんどん自分より上手くなっていく、この現実があまりにくやしい。


 俺だって昔はスゴかった。

 こんなダサい中年のような愚痴をこの歳で言っているのが、俺という人間だ。

 クズだ。

 そしてクズが現在進行形で悪化している。心が荒んでいく。

 幼馴染の蛭女が俺に暴れる場所が必要だと諭してきた。

 そして俺は高校へ進学して、テニス部に入った。


 自信はない。

 でも、全く出来ないとも思わない。

 もちろん、かつての様に上手くいくとも思っていない。

 いろいろな感情がせめぎ合いながらも、俺は半月間、必死な思いで練習した。

 言うほど必死ではないが、俺にとっては十分必死だった。


 半月。

 入部から半月。

 そんな時期にいる俺の前に、今、一人の人間が立ちはだかっている。


 かつて、俺と一、二を争っていた程の男。

 俺と同等の男。

 その男が目の前にいる。


 この男に勝つことこそが、俺の成長の証明。

 この必死な練習の意味。


「この半月の成果を見せてやる」


 絶望中だけど、それでも俺は気合を入れた。


 かつてのライバルを倒し、かつての自分を超える。

 どんな大会よりも重要な俺の闘いが始まった。




続く

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